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アートに何ができるか?ではなく アートで何をするか!である


社会におけるアートの可能性は無限にある。さまざまな可能性を追い求め小船を漕ぎ出すと、大海原は際限なく広がる。それに心ときめきながら、力尽きるまで挑んでみるのだろうか?まずはこれまで自分が追い続けてきた、命と心にかかわるアート活動を振り返ってみたい。

ホスピタルアート

生きるうえで心と体は人間の両輪。いずれが欠けてもうまく回らない。しかし医療技術は進んでも心のケアは後進国。アートで少しでも補いたいと考え、命と向き合う医療現場で活動を続けてきた。たとえば病院内で行うアートのリフレッシュ。患者たちの交流と願いこめたオブジェづくりで笑顔が広がるハッピードールプロジェクト。つくった後の院内展示と全国・海外の病院へ旅する展覧会。そしてクリスマスに作品と記録本が帰ってくるという楽しみ続きの活動だ。

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長期入院の子どもたちにとっては、絵を描き色と遊び、心を開放するひとときも必要だ。色彩は子どもの好奇心と積極性を育成する。心の色を塗りかえる効果もある。病院に色を運ぶと子どもたちは目を輝かせ、イマジネーションを羽ばたかせ、清々しい表情になる。

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いずれのプログラムも、つくり、アートするのは患者自身である。私が行うホスピタルアートは患者が主役の創作活動である。自ら発想し、選び、つくる能動的行為は、受身の入院生活に溌剌さと自己肯定感を呼び覚まし、自己免疫が高まるのを促すのである。

一方、ホスピタルアーティストとして、自ら医療施設を明るい色でデザインし、絵を描き、心地よい空間に変える依頼にもこたえている。色彩やデザインが加わった院内環境は明るく一変するだけでなく、患者や職員の心も活き活きと明るく彩り、活性化させる効果がある。

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震災と向き合うアート

東日本大震災は自分の生活や価値観も一変させた。想像を絶する被災状況に心砕かれ、緊急支援チームARTS for HOPEを率いて東北へ向かう日々がいきなり始まっていた。

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つくりながら自分を取り戻し、つながり、泣いて笑って立ち上がっていく。その営みをささやかながら陰で支える日々を確かに積み重ねてきたように思う。避難所の片隅で老若男女が黙々とつくる姿は、人間の本能とさえ感じられた。最低10年の応援活動を自ら課し、往復を重ね、気づけば活動日数は1100日を超え、現地も刻々と移り変わり続けてきた。

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アートで心を応援する活動は砂漠に注ぐシャワーに過ぎないかもしれない。しかし、一瞬ですべてを失った喪失感を持つ子どもには、すべてを失っても再びつくりだす力があること、希望があることを、アートの創作行為を通して伝えたいと願い続けて活動している。

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ボーダレスアート

震災後数年したころから障がいをもつ人々のストレスや問題行動が顕在化し、応援要請が相次ぎ、支援学校や重度心身障がいをもつ人々へと向かっていった。安心感が漂う空間と受け入れられるコミュニケーション、自分を表現できるアートに喜びを感じると、穏やかな笑顔が生まれる人々、子どもたち。その心震わす変化には大きな喜びを感じている。

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各病院を訪れると重度心身障がいをもつ人々がたくさん存在するも院外との接点はなく、閉ざされた存在であることに心が痛んだ。そして彼らの命と生きる輝きを発信する展覧会を開催しようと思った。しかし来場者が見込めないうえ、大型商業スペースにドタキャンされたことから、出て行く展覧会『配る展覧会』へと発想転換し、街頭で2万部配り倒した。

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さらに、障がいのある子どもたちや人々が安心して創作し、集える居場所を求められるようにもなり、仙台にボーダレスなWonder Art Studioを設置した。幼児から高齢者まで通うこのスタジオで、障がいの有無や種類も超えた交流とプログラムの実施を継続しつつ、違いを認め合う共生を促していけたらと願っている。

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先月、ワルシャワで開催された日本ポーランド国交樹立100周年記念カンファレンスに招致され、40人あまりの両国のプレゼンに立ち会う好機を得て、アートが社会に影響を及ぼすさまざまな事例にあらためて驚嘆した。社会におけるアートの可能性は、実に無限大なのだ。

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アートが持つさまざまな力の中でも、あらゆるボーダーをさらりと越えられる力ほど自分を勇気づけるものはない。この世から不要な境界線が消え、この地球上で生きるすべての生き物がまるくつながって生きられる社会を願いながら、アートで思いつく限りのことに挑み、一歩ずつ心の色を塗りかえ続けていきたいと思う。そして、このサイトを通じてさまざまな方々のアートによるチャレンジに刺激を受け、啓発されていくだろうことを楽しみにしている。

2019年7月3日

今後の予定

  • <ワンダーアートスタジオ>におけるボーダレスアートクラスの開催
  • 『Happy Art Project』重度心身障がい児者対象のアートプログラム
    国立病院機構仙台西多賀病院(宮城)、国立病院機構下志津病院(千葉)
  • 『Happy Doll Project』入院患児・患者対象のアートプロジェクト
    仙南病院 はくあいホーム(宮城)、千葉大学医学部附属病院、
    熊本大学病院、自治医科大学とちぎ子ども医療センター
  • 『Happy Summer Art in 南相馬』障がいのある子どもたち対象のサマーアートプログラム
  • 『Happy Summer Art in 大船渡』障がいのある子ども・ない子ども対象のボーダレスサマーアートプログラム
  • 弘前大学大学祭におけるホスピタルアート展

ほか

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