ネットTAM


2

小さな世界都市・豊岡の大きな挑戦


2019年9月に第0回となる豊岡演劇祭が開催されました。
この演劇祭は、まちづくりを中心に据えた演劇祭でもあります。
「演劇」と「まちづくり」、遽には、そのつながりが見えにくく、まだまだ試行錯誤の段階なので、直ぐに「なるほど、わかった!」となるものではないとは思いますが、その背景や取り組みを私が館長を務める城崎国際アートセンター(以下KIAC)とあわせて、地方におけるアートの可能性として紹介したいと思います。

society-society-2-kiac.jpg

KIACの外観。兵庫県立城崎大会議館をリノベーションした施設。
©️Madoka Nishiyama

KIACは「新しい情報発信拠点をつくり、豊岡、城崎に新たな人の流れができれば、まち全体が潤うだろう。」という中貝豊岡市長の思いつきに端を発し、2014年に兵庫県から移譲された兵庫県立城崎大会議館をリノベーションし、2014年春にオープンしました。開館2年目の2015年からは、文化芸術で地方創生を目指す豊岡市の戦略拠点として、より明確な目的を掲げて運営されています。このタイミングで、構想段階よりアドバイザーとして館の運営にかかわっていた劇作家の平田オリザ氏が、当館の芸術監督に、また豊岡市の芸術文化参与に就任。さらに、指定管理として地元のNPO法人に委任していた館の運営を、市の直営とし現在の体制ができあがりました。

society-society-2-street.jpg

城崎温泉の街並み。大谿川沿いに木造三階建ての旅館が立ち並ぶ

「城崎国際アートセンター(KIAC)について」

KIACは演劇、ダンス等の舞台芸術に特化した滞在型の制作活動拠点(アーティスト・イン・レジデンス)で、1つのホール、6つのスタジオ、22名が滞在可能な宿泊施設で構成されています。公募より選考されたアーティストは、最大で3ヶ月間本施設に滞在し、24時間自由に制作活動を行うことが可能、その間の施設利用料は無料となっています。滞在費が免除される代わりに、アーティストは公開稽古やワークショップ、小中学校でのアウトリーチ活動等のいずれかを、無料の地域交流プログラムとして、滞在期間中に必ず1度は実施する必要があります。

上記のような条件と、城崎温泉という日本屈指の温泉街の魅力により、KIACは、わずか数年の間で世界中の舞台芸術関係者の憧れの場所となっていきます。2020年度の滞在制作への公募には23カ国・80の劇団・カンパニーから応募が寄せられました。地方にある人口8万人弱の小さなまちですが、豊岡市はアートの分野で世界と直接つながることができるようになったのです。

society-society-2-hall.jpg

KIACのメインホール 500名収容可能なホール。滞在アーティストは24時間クリエーションに集中できる。
©️Madoka Nishiyama

「小さな世界都市」

豊岡市の地方創生戦略を一言でいうと「小さな世界都市」の実現です。人口規模は小さくても、ローカルであること、地域固有であることを通じて、世界の人々から尊敬され尊重される町になる。そのためには、世界に通用する自分たちの“ローカル”を磨く必要がある。自分たちで物事を決め、新しい価値をつくっていく力。そのような力をアートから学びたい、そしてそのような力が発揮できる土壌をアートによって醸成していくということです。

society-society-2-entrance.jpg

第0回豊岡演劇祭青年団『東京ノートインターナショナルバージョン』の開演前のKIACのエントランスロビーの様子。

この試みは新たな展開も呼び込みます。それが、“KIACと結びつけて、芸術家や観光のプロフェッショナルの育成を目指す”専門職大学の設置(現在認可申請中)です。国公立大学として初めて演劇を本格的に学べ、これを基礎に観光・芸術分野で事業を創造する力を身につけることのできる高等教育機関、国際観光芸術専門職大学(仮称)が県の主導のもと2021年春の開校を目指して進んでいます。

専門職大学の特徴の一つとして、卒業までの4年間で800時間の現場での実習が行われること挙げられます。地域の観光地や宿泊施設、また、KIACなどの文化施設での実習に加えて、最先端の観光とアートの両方が学べる場として、市では国際的な芸術祭を開催することとしました。

これが、冒頭にでた「豊岡演劇祭」です。
さらに市はこの豊岡演劇祭を地域活性化・地域経営のための発信、交流の場としても利用できることに気づきました。イチ文化事業としてのみではなく、まちづくりのためのプラットフォーム、民間の技術やアイデアを積極的に活用し、次世代の観光やまちのあり方を模索・挑戦する場としても活用するのです。

society-society-2-tokyo.jpg

第0回豊岡演劇祭演目 青年団『東京ノートインターナショナルバージョン』
©️Igaki Photo Studio

たとえば、豊岡のような地方都市にとって、モビリティは喫緊の課題です。この課題解決に取り組むパートナーとしてトヨタ・モビリティ基金が、第0回からこの演劇祭に参画してくださいました。
第0回では、公共交通機関の走行位置の見える化、超小型電気自動車(コムス)の無料貸出、地域回遊サービスを実施、第1回となる2020年の演劇祭では、第0回の実績を踏まえ、さらにモビリティの課題解決に挑み、「人とモビリティがつながるまち」モデルの実現のための実証実験を行う予定となっています。

society-society-2-coms.jpg

KIACとコムス。演劇祭中は城崎温泉街での移動に活躍。

ただ、間違ってはいけないのは、技術のために演劇祭を開催するわけではないということです。あくまで演劇、アートを楽しむために、新しい技術や仕組みを活用していく。そしてそれをまちづくりにも活かしていくということです。

本演劇祭のフェスティバルディレクターも務める平田オリザ氏は、これを「人を幸せにするスマートシティの実現のための試み」と話しています。

「演劇」と「まちづくり」のつながりが少しは見えてきたでしょうか?
とはいえ、小さな世界都市豊岡の大きな挑戦は、まだ始まったばかり。一人でも多くの方に、この挑戦に関心をもっていただき、参加してくださる方を増やしていきたいと思っています。

第一回の豊岡演劇祭は2020年9月に開催されます。
ぜひ、豊岡でお会いしましょう。

城崎国際アートセンター(KIAC)は、兵庫県豊岡市の温泉街に位置する舞台芸術に特化したアーティスト・イン・レジデンスの拠点です。ホール、スタジオ、レジデンスで構成され、舞台芸術の発表の場としてだけでなく、アーティストが城崎のまちに暮らすように長期滞在できるアートの拠点として2014年にオープンしました。

〒669−6101 兵庫県豊岡市城崎町湯島1062
TEL:+81-796−32−3888
Mail: info[at]kiac.jp

(2020年1月15日)

関連リンク

この記事をシェアする: