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アートプロボノ



文化庁セミナー「アートプロボノって何だ?」の様子(2017/12/12)

「アートプロボノ」とは「アート領域(美術、演劇、音楽、舞踊、伝統芸能、大衆文化等)において、各人が持つ専門的なスキルを活かして行うボランティア活動」のことである*1。必ずしも、無償だけではなく、一般相場よりも安価で支援してくれる活動も含めた概念としている。

*1:文化庁と一般社団法人芸術と創造による定義

この語源としているプロボノ(Pro bono publico:「公益のために」の意)は専門人材によるボランティア活動をさす言葉で、アメリカにおいて発祥し、当初は法務の専門的な知識に基づく社会貢献活動をさしていたが、その後、税理士、会計士など資格を持つ方々にも広がっていった。現在ではより幅広い専門性を持った方々の活動も含めることが一般的になっている。

プロボノは日本においても徐々に普及が進んでおり、たとえば文化庁調査*2 では会社員等の有職者のうち約10%がこれまでに「専門的知識や技術を活かしたボランティア活動(プロボノ等)」を経験しており、約24%が(経験したことがないが)今後経験してみたいとしている。

*2:文化庁「専門人材による文化団体における社会貢献活動調査」(受託:一般社団法人芸術と創造)にて行ったインターネットアンケート調査結果に基づく。

今後、我が国では長時間労働が是正されるなかで、プロボノを行うというニーズもさらに高まると考えられ、また、多様性のある人材を育成したいという考えから、企業としてプロボノ活動を推奨する動きも見られる*3

*3:日本電気株式会社、パナソニック株式会社、日本マイクロソフト株式会社、株式会社三井住友フィナンシャルグループ、日本IBM株式会社等多くの企業が、プロボノを推奨・支援している。

ところが現状、アートプロボノの受け入れは非常に限られた文化団体でしか行われていない。しかし、先の文化庁調査ではプロボノ経験者や希望者の中で「今後支援する可能性のある分野」として、「文化芸術」は上位に位置づけられ(全19項目中、「子どもの健全育成」、「まちづくりの推進」、「地域安全」に次ぐ4位)、今後、さらなる普及の余地が残されていると思われる。

アートプロボノを普及する効用は以下のように考えられる。

そもそも文化芸術を仕事にしたいと考えるときに、「厳しい労働条件を受け入れてアート業界で働く」か「文化芸術にかかわる仕事をあきらめる」という2元論のなかで選択しているように感じる。本来、文化芸術のかかわり方は、より細かなグラデーションの中で選択されるべきであり、アートプロボノはその有力な選択肢の一つとなりうる。さまざまな人々がかかわることで、当人たちの自己実現にもつながるであろうし、文化芸術業界の底力は確実に上がる。

また、文化庁をはじめとした行政では芸術文化の振興において、その基礎となる文化団体の経営力のレベルアップを図るため、アートマネジメント教育に注力してきた。この多くは業界内部の人々(もしくは内部での就労を考えている人々)の意識改革を促すものである。このような意識改革においては、文化団体に必ずしもアート業界の価値観に染まっていないビジネスパーソンを受け入れることも一つの有効な手段となりうる。

さらには、文化芸術基本法(平成29年6月施行)では、文化芸術の「観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業」などとの連携が強調されている。このような多様な分野との連携を推進するにあたっては、業界内部の専門性だけでは限界があり、むしろすでにその専門性を持った人材を受け入れていくことが有効である。

このようにプロボノは、長期的には文化芸術のあり方のイノベーションにつながる可能性を内在しているのである。

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