国際組織の取り組み
この「クリエイティブ・インダストリー」に関しては国際機関も注目しており、下記のような大規模な政策が既に推進されています。
世界における市場規模
UNCTAD(国連貿易開発会議)とUNDP Special Unit for South-South Cooperation(国連開発計画・南南協力部)とのパートナーシップによって、「Creative Economy Report 2008」[*1]が同年2月に発行されていますが、同レポートはクリエイティブ・インダストリーについて、国連の見解を紹介する最初の報告書となりました。
同レポートによると、クリエイティブな製品やサービスの世界貿易額は、2005年には4,244億ドルに達し、世界貿易全体の3.4%を占めました。また、2000年から2005年の間に、クリエイティブな製品やサービスの国際貿易は、年平均8.7%もの成長率を記録しました。
そして、ヨーロッパ諸国のクリエイティブ・インダストリーの粗利益は2003年に6,540億ユーロ[*2]に達しており、EUの産業全体よりも高い12.3%の成長率を記録し、560万人の雇用を創出した、とのことです。
さらに同書では、発展途上国のクリエイティブな製品(コンピューター、カメラ、テレビ、放送/オーディオ機器を含む)の輸出は、1996年から2005年の10年間で、510億ドルから2,740億ドルへ急速に増加した、とレポートされています。
こうした調査結果から、同報告書ではクリエイティブ・インダストリーを「今日において世界経済で最も活力に満ちた部門であり、発展途上国に対し、世界経済における新興・高成長領域に飛躍する新たな機会を提供している」と高く評価しています。
「雇用と貿易の拡大によるACP5か国における創造的産業の強化」 [*3]
上述したような急速な成長を背景として、クリエイティブ・インダストリーに関しては、国際機関も新しい政策領域として大いに注目をしています。
例えば、「雇用と貿易の拡大によるACP[*4]5か国における創造的産業の強化」(Strengthening the Creative Industries in Five ACP Countries Through Employment and Trade Expansion)は、発展途上国の創造的産業をターゲットにした、世界初の大規模な構想であり、同プロジェクトは、European Commission(欧州委員会)によって資金提供され、ILO(国際労働機関)、UNCTAD、UNESCO(国連教育科学文化機関)の3つの国際機関により共同で実施されています。
同プロジェクトは、ACP諸国のクリエイティブ・インダストリーの成長と強化を通じて貧困の削減および持続的な発展に貢献すること、同時に文化的多様性や根本的な文化的価値の保護も目的としています。現在では、太平洋のフィジー、南米のトリニダード・トバゴ、アフリカのモザンビーク、セネガル、ザンビアの3か国の、計5か国を対象とした4年間の試験的なプロジェクトを2008年から実施しています。
このようなパイロット・プログラムの実施は、対象国のクリエイティブ・インダストリーの強化だけでなく、クリエイティブ・インダストリーに投資をしたいと考えている他の発展途上国にとっても、貴重な知識をもたらすことになると期待されています。
ユネスコ「クリエイティブ・シティーズ・ネットワーク」 [*5]
UNESCOも、関連する施策として、「クリエイティヴ・シティーズ・ネットワーク(The Creative Cities Network)」という制度を2004年に開始しています。
具体的には、1)Literature(文学)、2)Cinema(映画)、3)Music(音楽)、4)Craft and Folk Art(クラフト、フォークアート)、5)Design(デザイン)、6)Media Arts(メディア・アート)、7)Gastronomy(食文化)、という7分野を対象として、芸術文化面で特色ある都市に対してUNESCOが「クリエイティブ・シティ」という"称号"を与えており、2010年10月現在で、7分野25都市が認定されています。
ちなみに、日本の都市では、2008年に名古屋市と神戸市が「デザイン都市」として、2009年には金沢市が「クラフト、フォークアート都市」として認定されています。
分野 | 都市名(国家名) | |
---|---|---|
2010年10月14日現在 | ||
文学 | エジンバラ メルボルン アイオワ ダブリン |
(イギリス) (オーストラリア) (アメリカ) (アイルランド) |
映画 | ブラッドフォード | (イギリス) |
音楽 | ボローニャ セビリア グラスゴー ゲント |
(イタリア) (スペイン) (イギリス) (ベルギー) |
クラフト & フォークアート |
アスワン サンタフェ 金沢 利川 |
(エジプト) (アメリカ) (日本) (韓国) |
デザイン (8都市) |
ベルリン ブエノスアイレス モントリオール 神戸 名古屋 深圳 上海 ソウル |
(ドイツ) (アルゼンチン) (カナダ) (日本) (日本) (中国) (中国) (韓国) |
メディアアート | リヨン | (フランス) |
食文化 | ポパヤン 成都 エステルスンド |
(コロンビア) (中国) (スウェーデン) |
この「クリエイティヴ・シティーズ・ネットワーク」が開始されたのは、「グローバル化の進展により固有文化の消失が危惧される中で、文化の多様性を保持するとともに、世界各地の文化産業が潜在的に有している可能性を、都市間の戦略的連携により最大限に発揮させるための枠組みが必要」とUNESCOが考えたことが背景にあります。
こうした背景からも理解できるとおり、実はUNESCOとしては、当初は対象となる都市を「世界的にはあまり名の知られていない中堅都市」というイメージで構想を検討したとのことですが、実際に認定されているのは、現時点では世界的にも著名な都市が中心となっています。
「クリエイティヴ・シティーズ・ネットワーク」として認定された都市は、世界に対して各都市の文化資産をアピールできるとともに、専門家等の交流を通じて世界各地の文化団体と知識を共有することができる、という利点があります。
(2010年10月15日)