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芸術団体支援から生まれる“KAIZEN”

-エンタテインメントを身近にするための仕組みづくり-

ロングランプランニング株式会社

 芸術活動をより多くの人に楽しんでいただくためには、広く一般に情報発信・宣伝をし、実際に足を運んでもらうための工夫が必要です。ですが、その計画と実施はそうそう容易なことではありません。こういったアートの現場、特にエンタテイメントの制作者が抱える悩みの種を解決すべく、制作者の業務から活動環境まで幅広い改善をもたらしているロングランプランニング株式会社さんに、今回ご登場いただきます。事業そのものが芸術団体への支援となっているロングランプランニングさんのフルサポート体制の詳細と、起業から今に至るまでの経緯を、代表取締役社長で創立メンバーの1人でもある榑松(くれまつ)さんにうかがいました。

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榑松大剛さん

ロングランプランニング株式会社はどんな会社?

榑松:弊社は芸術団体の支援を行う会社です。表の「芸術団体の活動の流れ」に沿って、チケット販売、宣伝・広告、各種印刷・デザイン、チラシ折り込み、4つをメインに事業を行っています。「チケット販売」と「広告掲載」は集客のお手伝いです。「印刷」、「折込」はコストダウンや効率化のお手伝いになります。そのなかで芸術団体の直接的な収益になっていくチケット販売は最も要望が多く、われわれも特に力を入れている事業になります。

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チケットの売上につなげるためのいろいろ

榑松:芸術団体の皆様には、2種類のチケットの売り方を提案しています。1つはプレイガイド的な委託販売、もう1つは団体にセブン-イレブン発券システムを貸し出し、直接団体が販売する方法です(直接販売)。信用面を弊社が補完したことで、団体規模の大小問わずセブン-イレブン発券システムが直接使えるようになりました。団体が直接使うことで、購入者情報が団体にも入り、次の公演の宣伝につながります。
 チケット購入者の皆様さまにも、たくさんの独特なサービスを提供しています。1つはポイントです。チケット代金の1%がボーナスポイントとして付与され、次回購入時に使用できたり、nanacoや楽天、Edy、amazon、商品券への交換も可能です。また発券手数料や決済手数料などで割高になることがよくありますが、弊社はチケット購入者の手数料負担を一律200円と、リーズナブルにしております。(※一部除く ※+税)さらに、急な用事で公演に行けなくなってしまったお客様のチケットの買戻しや、オペラグラスの無料貸し出し、チケット購入でワクチン1本分の寄付のほか、チケットを買ってくださったお客様には火〜土の週5日、無料でご利用いただける託児サービスもあります。これらは、お客様の目にとまってから購入までを後押しするものであり、まずはお客様の目にとまるよう公演を告知しないと話になりません。そこで、情報を多くの方に届けようと始めたのが、「カンフェティ」というフリーペーパーの発行です。『カンフェティ』には本誌とダイジェスト版があり、本誌は冊子としてお読みいただけるほどボリュームがあるもので、駅や劇場のラックに設置させていただいています。ダイジェスト版はチラシを挟み込んで劇場で毎月12万席ほどに置かせていただいています。

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支援から生まれたビジネス。その経緯は?

榑松:弊社の事業のもう一つの柱である「チラシデザイン・印刷、折込」の主な目的はコストダウンです。印刷会社に毎月定量の発注をすることで費用を抑えるという、いわばボリュームディスカウントですね。チラシ1つをつくるのも、印刷会社やデザイナーさんを探すところから始めなければいけないので、劇団さんにとっては大きな負担となります。そこで、需要と供給を結びつけるマッチングを行っています。
 チラシの折り込みサービスは創業から2、3年後に始めました。そのきっかけは、劇場へ足を運んだ際に、劇団の人たちが階段の上から下まで並んで流れ作業で折り込みをしている姿を見たことでした。僕にとっては新鮮な光景であると同時に、非効率的な作業にも感じました。そこで芸術団体さんに、事前に「○○劇場に何千枚を折り込みます」と呼びかけ、弊社の倉庫にチラシを送ってもらい、まとめて丁合作業をして、劇場に送ることにしました。現在はこうした丁合作業は手作業の得意な福祉施設の方々にお願いしています。

創業のきっかけから事業展開へ。業界が"やってほしいこと"を追い求めて

榑松:僕のほかにもう一人、創業メンバーがいます。彼は大学時代から役者や作家の活動をしていました。僕は大学を出て一般企業に勤めていましたが、卒業後もときどき2人で会い、そのたびに彼の演劇業界に対する熱い思いを聞いていました。そのうちに業界の問題点や課題が浮かび上がってきました。僕は企業にいましたから、「ビジネスモデルで何かできないかな」などと言っているうちに「一緒に何かやろうか?」という話になり...、これが創業のきっかけです。
 創業当時、まずは役者としての仕事を創出したいと考え、「ウェディングの馴れ初め演劇」という商品をつくりました。新郎新婦の馴れ初めを台本にして披露宴で演じるというもので、半年後には注文が毎週入るくらいになっていました。ただ、6月と11月あたりの注文のピークが決まっていて、年間を通して安定した雇用を創出できなかったことや、この業界の人たちのニーズとは少し違うのではないかと感じていたこともあり、おもしろい事業ではありましたが、今は中断しています。
 創業から約1年後に、フリーペーパーをつくり始めました。これが現在発行している「カンフェティ」です。当時は芸術団体の方々はゲリラ的にチラシを駅に置き、翌日に駅員さんからお咎めの電話を受けていたそうです。だったら、僕らがブースをきちんと借りてまとめて置こうと考えました。最初は表紙だけをつくり、チラシを挟んでホチキスで止めていました。しかし、「チラシというアート作品に穴をあけるとは何事だ!」というお声もあり、1年ほど経ってから冊子バージョンにしました。なお創刊号の発行当時から、掲載料の代わりにチケットをいただくという方法を取っております。現在は広告のページもありますが、半分近くは今も当初の方法で続けています。
 掲載料をいただきませんので、僕ら自身がチケットを売らなければ弊社の売り上げになりません。そこで、僕らも必死に売ることを考えるようになり、チケット販売が始まりました。すると、思ったより芸術団体さんからのニーズも高かったため、チケット販売を全面的に行うことにしました。当初はホームページ上に申込フォームをつくり、申し込みがあると口座にチケット代を振り込んでいただき、実券を郵送する、という作業を行っていましたが、かなり大変だったので、当時一部の劇場などが使い始めていたシステムをベースに、システム会社協力のもと、たくさんの独特なサービスを組み込んだチケット販売システムを作り使い始めました。自分たちのために始めたことですが、せっかくなら皆さまに使っていただきたいと思い、貸し出しもスタートしました。
 会社を始めた頃はこの業界のことをよく知らず、すべてが新鮮でした。起業してからは毎日のようにこの業界の方々と話をするようになり、皆さんが親身になってくださいました。こちらが何かをお願いすると2つ返事で「おお、いいよいいよ」といった感じです。会社としては初めの3年は鳴かず飛ばずの状態が続きましたが、その間も皆さんは公演毎に弊社のサービスを使ってくれました。事業を進めるなかで皆さんの温かさ、素晴らしさを感じ、僕自身もますますこの業界にのめり込んでいきました。そんな皆さんの要望に応えようと事業を展開し、現在に至っています。芸術団体さんの方を向いている会社であるということは自信をもって言えますし、もっともっとお役に立てることがあるのではないか、そんな風に思っています。

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企業理念は「エンタテインメントをもっと身近なものに。」

榑松:弊社の始まりは演劇でしたが、「エンタテインメントを身近に」という理念は初期の頃から掲げており、どうせ人生を捧げるならエンタテインメント業界全体を盛りあげていこうという意識はありました。社内には、いつか「身近にします」と言い切る理念に変えられるようにがんばろう、と鼓舞しています。1年に一度でも何らかの芸術鑑賞をする日本人が10割になるのが、究極の目標ですね。
 劇場が、朝から人が集っているようなスペースになり、いつも人々がたくさん交流していて、芸術団体が一生懸命つくった作品をその劇場でどんどん観て。劇場の周辺まで巻き込んで賑やかになったり。いろいろな手法で垣根をどんどん取りのぞくことが僕らの仕事です。社内であふれているアイデアをいかに具現化するか、イメージングはされてきていますが、その実行のためには、自分たちが体力をつけていかなければなりません。そして賛同して協力していただける方を集めるには、やはり僕らが信用を得られる会社にならなければいけません。まだ「上場」とはおこがましくも言える状況ではありませんが、体力・信用の一つの手段として、いつかは掲げなければならないものと思っています。そして今描いているビジネスをどんどん実現させていく。エンタテイメントを身近にするために、自分たちが何とかするんだと、社員全員が思っています...。思っているはずです。

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社屋外観

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて

榑松:弊社もオリンピックを見据えて事業運営の展開を考えています。外国の方が日本に多くいらっしゃるので、情報のバイリンガル化はもちろん、気軽にチケットを買っていただけるよう、今後はさまざまな検討が必要です。オリンピックに合わせて数多くのイベントを企画しても、チケットを買う場所がなかったり手続きが煩雑では意味がありません。外国から来てくださった方々に、日本のアートや文化に触れて、楽しんでいただきたいです。そしてオリンピック後にもその流れが続いていくよう、今から積極的に動いていきます。

最後に...。

榑松:この業界に入って驚いたのは、携わっている人の数がものすごく多く、自分なりの発想や意見を持っている人が大勢集まっているということ、そしてこの業界のことを危惧している人もとても多いということでした。また、起業する際に「この業界にはお金がないよ」と何度も忠告されましたが、蓋を開けてみればとんでもなくて、演劇だけでも1,600億円の市場規模だったりするんです。ではなぜ、うまくいっていないと感じる人が多いのかな? という疑問は当初からありました。素晴らしい作品をたくさんつくって、素晴らしい活動をされている人たちなので、皆で手を取り合って協力し合えば、もっと強いパワーが生み出せる気がしています。ひとりひとりが常に問題意識を持ち、どこをどう改善すればよいか考えること。先を見据え、自信を持って行動を起こし、進歩・進化していけば、自ずと素晴らしい未来が開けると思います。「評論だけではなく、行動」、「しっかり考え、そして行動」。私は業界のなかでも、かなり楽観的な方かもしれません。
 業界のインフラ整備やエンタテイメント全体の活性化は弊社の使命だと思って必死に動いていますので、皆さんと一緒にがんばっていきたいと思います。

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