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人と人をつなぐオーケストラ



吉井さん、名倉さん、山元さん、桐原さん、井形さん、沖さんがつないでくださったバトンを引き継ぎました志田明子です。皆さんのお気持ちをしっかりとゴールに届けたいと思います。

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東京オペラシティ大ホールでの定期演奏会

「…で、楽団の皆さんは普段はどんなお仕事をされているんですか?」

と、よく聞かれます。つまり、オーケストラの団員は演奏以外になにか「ちゃんとした」仕事をしているの? という意味です。めげずに毅然として「演奏が仕事です!」と答えると「え? そうなんですか!」とたいへん驚かれます。そんなところから会話が始まり、オーケストラに興味を持っていただくということが度々あるのは私だけの経験ではないはずです。

「オーケストラが社会に広く認知されるのはやっぱり難しい…」とやや落ち込みますが気を取り直し、お客様とオーケストラをつなぐのが事務局の仕事であることをあらためて自覚し日々の業務にあたっています。

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懐かしい本『オーケストラの少女』

『オーケストラの少女』を読んでオーケストラに憧れる

『オーケストラの少女』は、1937年に公開され、フィラデルフィア交響楽団と当時の常任指揮者であるレオポルド・ストコフスキーが出演したアメリカ映画ですが、私は小学校低学年のころに本で読み、強く記憶に残りました。小学生の子どもにとって失業音楽家たちが苦労する話のどこが魅力的だったのか? 今思うと、不可能かと思えることに皆で力を合わせて立ち向かい夢を実現する姿と、オーケストラの団員たちが一緒になって一つの音楽をつくり上げる姿が重なり、「オーケストラというすばらしいものがあるらしい!」と思ってしまったのでしょう。今映画を見たら逆に身につまされてしまうかもしれません…。それにしても、大人になって東京シティ・フィルというオーケストラと苦楽をともにするようになるなんて、本当に不思議なものだと思います。

自主運営のオーケストラとともに

東京シティ・フィルは自主運営のオーケストラのため、運営の決定権はプレーヤーである団員が持っています。すべての事柄は団員から選出された運営委員によって話し合われ、必要があれば団員と意見交換をして進められます。人間の集まりなのでさまざまな主張があり、話し合うためにはたいへんな時間と手間がかかるのですが、物事を明らかにし、不透明な部分をつくらないということを私たちの信条としています。

近年、若い優秀な団員と事務局員が多数入りましたが先輩団員とのバランスもよく、事務局と団員の間はとても円滑に運んでいると思います。これも、事務局と団員が両輪となって進むという考え方が基本にあるからです。

なんだかよいことばかり書いていますが、1975年の創立以来43年の間にはたくさんの課題があり、その都度皆で一緒に悩み解決してきました。今後も解決するべき課題が山のように待ち構えています。

社会におけるオーケストラの役割

これは永遠の課題です。オーケストラは今後ますます社会においてその存在意義を問われるだろうと思います。先日お会いした方は若い音楽家のために年間1千万円単位の支援をしてくださっていますが、オーケストラは「非日常」だとおっしゃっています。ホールで演奏を聴いて「すばらしい、また聴きたい!」と思っても、翌日会社に行くと日常に戻り、ホールでの感覚をすっかり忘れてしまうというのです。私はそのあたりに社会とオーケストラをつなぐヒントがあるのではないかと考えています。

わかりやすい役割では教育・啓蒙活動があります。青少年の育成のためのアウトリーチ活動・音楽鑑賞教室などがこれにあたります。わかりやすく、楽しく親しみやすい音楽を…というのが主旨ですが、たまには「わかりにくいこと」に挑戦するのも私たちの役割だと思っています。私事になりますが、オーケストラのピアニストとして活動している間、優れた現代作品の初演に携わる機会が多くありました。大変貴重な体験だったと思います。それらの作品の再演の機会は古典派やロマン派の作品に較べると著しく少なく、残念でなりません。再演されない理由は編成の大きさや楽譜借用の問題、技術的な難易度の高さなどさまざまです。しかし、現代の作曲家の作品を実演し、お客様に聴いていただく機会をつくることは現代のオーケストラの使命の一つだと考えています。

オーケストラの生きる道とはなにか…悩み考える毎日です。はっきりしているのは、作曲者・演奏者・聴衆・支援してくださる方々・企業・国家などすべてが社会の営みに含まれ、人と人とのつながりで成り立っていること。日本国内に限らず、オーケストラは自身の役割を模索し、その道を自身で切り拓いていかねばなりません。

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江東区内アウトリーチにて。「好きな場所で聴いていいよ!」といったらこうなりました

楽団長としての思い

よく、ダジャレで「楽団長の断腸の思い」などといわれるのですが、あまり洒落にならないなぁと思います(そうそう断腸していたら命がいくつあっても足りません)。

私が鍵盤楽器奏者の団員として東京シティ・フィルに入団して31年、その後楽団長として7年が経ちました。7年前は右も左もわからない状態で、先輩方や周りの方々にいろいろなことを教えていただき感謝しております。また、団員と事務局員の協力が大きな支えとなりました。楽団長は団を統括し代表する立場であるとともに、団内では団員と事務局の間をつなぎ、運営を円滑に運ぶ役割があると考えています。私としてはオーケストラ全体の下支えをしつつ矢面(やおもて)に立つというイメージです。オケの顔でもあり裏方でもあるという意識で仕事をしています。対外的にも団内でも常に人と多く関わっています。代表として表に出る活動はもちろんですが、団内の掌握も重要な仕事の一つです。Aさんは最近体調が優れないのでは? Bさんは元気がないけれどなにか心配事があるのでは? 等々、団員や事務局員の「顔色?」を見るのも大切な仕事の一つだと思っています。

東京シティ・フィルの事務局は総勢13名で、事業部(企画制作担当、営業担当、広報担当、チケットサービス担当、経理担当、総務担当)と演奏部(ライブラリー担当、ステージ担当)で大きく構成されています。それぞれの担当がお互いに連携して仕事をしています。連携がうまくいかないと、仕事に支障をきたすので、それぞれの担当者の責任は重大です。日頃から周囲とよいコミュニケーションを持つことが大切になります。

7年前に楽団長になるかどうか迷ったとき、私が相談したのは音楽業界とはまったく関係のない方でした。その方は楽団長になることの負担の重さを考えて賛成しませんでしたが、私は自分を育ててくれた東京シティ・フィルの存続のためにあえて立候補する道を選びました。その後いくつかの決心をしたときも同じ方に相談しました。その方は私に都合のよい答えをくださる方ではありません。相談する時にはすでに自分の意見を決めているものだとよくいわれますが、このコラムを読んでくださっている方が悩んでどなたかに相談したとき、自分の望む答えではない意見が返ってきた時にこそ、それを排除してしまわずに広い視野を持ってもう一度よく考えてください。必ず自分に必要なものが見つかると思います。

最後に、オーケストラがもっともっと社会に親しまれ、必要とされる存在になりますようにオーケストラにかかわるすべての方々と努力を続けていきたいと思います。

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楽器車は走る広告塔、通りがかる方によく写真を撮られます
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2018年2月5日の記者会見にて、左から志田、高関健、藤岡幸夫、戸澤哲夫

今後の予定

3月17日(土)14時開演 東京オペラシティでの定期演奏会はバーンスタイン生誕100周年記念プログラムでお薦めです!
http://www.cityphil.jp/concert/detail314.html

関連リンク

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バトンタッチメッセージ

「楽器を持たずシンフォニーを奏でる、オーケストラ事務局の人々」の、どなたに次はご執筆いただこう、次はどんなコラムが届くだろうと、とても楽しみな半年間でした。あっという間に最終回となってしまい、寂しい思いです。

ご多忙なところ快く引き受けてくださった6名の皆さま、このような貴重な機会をいただいたネットTAM事務局の皆さま、本当にありがとうございました。

唐突なようですが、このコラムを読んでくださった皆さまに「オーケストラに行ってみようかな」と、少しでも思っていただけましたらとても嬉しいです。

オーケストラ・コンサートはいいですよ。

何がいいのか…この6回のコラムにあふれていました。

楽器を持たないオーケストラ事務局の人々も、シンフォニーを奏でています。

コンサート会場にいらしたら、お客様お一人お一人もシンフォニーの重要なパートなのです。これはホール音響が変わるという物理的なことよりも、目に見えない楽器をお一人お一人が奏でるような大切なパートになることを体感してください。

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「オーケストラの日2017」コンサートより

今後のコンサート情報は当連盟のサイトからもご覧いただけます。
http://www.orchestra.or.jp/

次は、皆さまとコンサート会場でお目にかかれましたら幸甚です。

(公益社団法人日本オーケストラ連盟 マネジャー 名倉真紀)

楽器を持たずシンフォニーを奏でる、オーケストラ事務局の人々 目次

1
オーケストラの事務局

2
オケ裏生活30年
3
街と響きあうオーケストラ
4
人生も、オーケストラも
5
楽譜の中の音楽
6
人と人をつなぐオーケストラ
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