今月初め、新型コロナに罹患した。
往復50時間を超えるフライトの疲れで、免疫力が低下していたのが原因かもしれない。それは、サンパウロで開催されたWorld Cities Culture Forum(WCCF)の年次サミットに参加するためだった。
WCCFは2012年のロンドン五輪で文化プログラムとして立ち上げられた大都市の国際ネットワークで、これからの都市政策に文化が不可欠であることをアピールし、そのための政策や戦略を検討、推進していこうというものである。
2012年に12だった会員都市は約40に拡大、毎年持ち回りでサミットを開催している。今年のテーマはパンデミック後を見据え「Culture, Courage and Leadership for a New World」というもので、新たに会員になったキーウ市も参加した。
実は、モスクワ市も2014年に会員になり、2016年にはサミットを開催した。モスクワから毎年参加していた二人の文化担当者は、東京や日本の文化に関心があって友人になっていた。が、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を受け、程なくしてモスクワはWCCFの会員資格を剥奪された。
その少し前、モスクワ市民の中には、プーチン大統領の戦争に反対する人も少なくない、というニュースを見て、私は、二人にメールを送ってみた。一人からは「何も語れない」という返事があり、もう一人から返信はなかった。
サンパウロで聞いたキーウ市の文化局長の話は心に響くものだった。それを聞きながらモスクワの二人の友人の姿が浮かんだ。もちろんロシアの蛮行は決して許すことができない。だが、二人を友人と感じる自分の気持ちは別物だ。
国同士が政治的に対立していても、都市間の文化交流は可能だし、絶やしてはならない、と思う。でも、戦争の前ではそんな薄っぺらな理想は通用しない。
個人の意思に関係なく分断を生み出す、という点で、新型コロナも戦争も同じだ。自分が罹患したことで、私たちはまだコロナ禍から抜けきれていないことを再認識した。そして、1958年生まれの自分にとって、今ほど戦争を身近に感じることはない。
モスクワの友人と再会できる日はやってくるだろうか。