日本の演劇のアーカイブ化が密やかに進行している。2020年に新型コロナ対策の文化庁支援で始まった「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)」は、劇作家・演出家・出演者などに分散していた権利、そして楽曲使用の許諾までの権利の処理の仕方に道筋をつけた。EPADが収集した過去の舞台映像約1,300点がアーカイブ化され公開されている。
 しかし「カット割り」という編集者の主観が入る映像は、演出家の意図した作品とはやはり異なる。この問題の一つの解となり得るのが新たに開発された8Kの撮影技術だ。8Kカメラ1台あれば人間の視覚で捉えられる現象は全て保存できる。ドルビーアトモスの立体音響技術を導入すれば音の臨場感も再生できる。 
 もちろんライブでの観劇体験とは比べようのないものだが、演劇作品がほぼそのまま保存され再生できる。技術の進歩で可能になったこの事態を、どう演劇の未来に活かしていくのか?その収録そして保存の費用は誰が負担すべきなのか?
 演劇が有形の文化財となれそう、ということにちょっとワクワクし、そう出来るようになった時代に立ち会っている我々の責任の重さに身が震える。