2020年3月、国内外の劇場で公演を企画・制作する私たちは、ほとんどの全て事業がストップした。
(特に海外公演については、2020年が終ろうとしている今も再会の目処が立っていない。)
むこう2年間は、コロナウィルスが断続的でも私たちの生活に影響する(コロナ以前に当たり前だった生活は出来ないだろう)という、ドイツやアメリカの専門家の見解を確認し、長期戦となる覚悟を決めた。


「この先どうしていこう?」

一番気がかりだったのは、”舞台をつくる”ことや、”国際的なフィールドで公演する” という専門的なノウハウをどう維持できるか、ということであった。プリコグの活動を支えてくれる制作スタッフ、アーティスト、技術スタッフなどの専門的な経験の蓄積や知見は、限られた人たちに蓄積されている。社会的に見ればとてもニッチな領域であるものの、私たちだからこそ可能にする創作環境や国際交流の場ができているのだから、それを絶やしてはいけない。さらに、一度活動が止まり収入が途絶えれば、この業界から離れてしまう者も出てくるだろう、という危機感が間近に迫ってきていた。


「コロナ禍で、どうしたら創作環境を維持し、展開できるのだろうか?」

先行き不透明ななか、私たちの活動の方向性を示してくれた事業が3つあるので紹介したい。
1つ目は、一般社団法人ドリフターズ・インターナショナルとSHIBUYA QWSで開催したスクール ”リ/クリエーション” ブーストコース。2020年4月、急遽方針を変更してリアル開催を諦め、双方向型のオンラインワークショップとして開催したが、zoom、youtube、MURAL、Discordなどのオンラインツールを活用して、議論を深めたり、アイデアを磨いていける実感があった。

2つ目は、2020年6月に発表されたチェルフィッチュの岡田利規さん作・演出のオンライン上演「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」(主催・KAAT神奈川芸術劇場)。映画とも、美術領域における映像作品とも異なる演劇作家だからこそ視点が映像作品として立ち上がり、オンラインという環境でも創作を続けることはできるかもしれない、という感触を得た。むしろ、演劇とも映画とも異なる新しい表現領域が生まれてくるかもしれないという期待も感じるきっかけとなった。

3つ目は、日本財団主催で開催していたTrue Colors Festival~超ダイバーシティー芸術祭~での活動を通じて、音声ガイドや手話通訳、ユニバーサル日本語字幕などの鑑賞手法の選択肢が増えることで、より広い観客に作品を届けることができることを痛感してきた。そして、そうしたインクルーシブな視点で企画することは、鑑賞の「サポート」としてだけではなく、創作プロセスや公演自体の設計も含めて総合的に計画する際の視点として考えるべきことであることを学んだ。これまで多言語字幕や、演劇のグラフィックレコーディングや、感想シェア会の開催などを通じて、”新しい観客の創出”という点にこだわってきたものの、作品を社会に届ける回路を多様にデザインする制作という業務として、まだまだやるべきことがある。


「さて、どう進もうか?」

上記のような3つの経験を仲間たちと共有し、議論を重ねながら、今後は国内外ので作品の創作や海外ツアーなどの既存事業と並行して、オンラインと、ラーニングプログラムに力を入れていく、ということを考えている。

◯ オンラインという表現の場の可能性を模索する
「Theater for All」というアクセシビリティーに特化したオンライン型の「劇場」の構想を進めていた。
この構想が文化庁収益力強化事業として採択されると同じころ、自社でも資金調達の目処が立ち、長期的に育てていく事業として開発を進めていきたいと考えている。
 
◯ ラーニングという場作りを通じて表現世界の魅力を伝えていく。
「コネリング・スタディー」という鑑賞体験を学びの場に変換するプログラムを2018年より開発していた。この活動の延長線上で、さらに上演だけではなく、配信として作品を提供できる環境が整えば、一見とっつきにくい作品でもアーティストや専門家の視点を参照して、2度、3度作品を深掘り視聴したり、物理的に離れた観客とアーティストと出会い表現に触れる機会も生み出せる点を生かしたプログラムを展開していきたい。


最後に、コロナ禍の活動において、特筆しておきたいのは、新しいメンバーとの出会いであった。オンラインにせよ、ラーニングにせよ、これまでのスタッフだけでは足りない知見やアイデアを新しい仲間が支え、これまで見えなかった景色が広がってきている。そんなで出会いとチームワークに感謝したい、そして、これからもそれぞれの力を持ち寄って困難を乗り越えていきたい。