私は秋田と名古屋を拠点としています。そのため2020年3月までは、ほぼ毎週あらゆる交通手段を駆使しこの二地域を中心に移動を重ねてきました。どちらかというと早くて大きな移動ばかりです。移動自体が生活の一部となっていたため、この半年は「移動」について考え続けています。
世の中には移動を余儀なくされる人、移動をできない人、そのどちらも存在し深刻な社会問題となっています。私が関わる現代美術は、人やものの移動を前提に構築された仕組みで、尚かつ移民問題など移動にまつわる諸事象は繰り返し主題として扱われてきました。世界の移動が強制的に止められたことで、実際に多くの芸術活動は一時停止しました。この停止によって、私自身は移動の権利をあまりにも無意識に行使していたことに愕然としました。権利を行使しつつも、その責任をどれくらい負えたのか、反省することも多々ありました。とはいえ、移動をしなければいいというわけでもないでしょう。また、現在は移動に伴う責任を、別のかたちで問われる状況も生まれています。移動の権利と責任に対しての明確な答えは出ないですが、それを意識し続けることは私たちの生きる生態系にも関わることなので、継続して考えていきます。
ところで、まだ多くの人が自由に移動や旅をできなかった江戸時代に、三河国(現在の愛知県)を出て、東北各地を旅し、秋田に長く逗留した旅行家で博物学者の菅江真澄という人がいます。紆余曲折があり3年近くかかったのですが、この菅江真澄の旅をたどることを起点とした展覧会を11月下旬から実施します。旅や移動、それによる交流は土地や人に様々な影響を与えます。移動を前提とする現代美術の仕組みのなかで、展覧会を通じて改めて移動について考える場をつくる予定です。世の中の状況は大きく変化していますが、それでもなんとか生きていく知恵を先人にも学びつつ獲得していきたいと思います。
展覧会の情報はこちら
https://www.artscenter-akita.jp/artsroutes/