コロナ禍でみんな外に出れず、劇場も思うように使えない、ステージでシャウトしてダイブすることもままならない、そんな時代が訪れてこんなにも長く続くとは想像したことがなかった。

 もちろん、困ったし途方にも暮れた。が、息を潜め、この時代ならではの身体像や制約が新しい表現の地平や事業を作ると信じ続けることができたのは、志を同じくする仲間とアイデアをぶつけあう場があり、そして現実的に人材や知見をつなぎ止めようとする「会社」という組織のバネがあったから、とつくづく思う。

 2020年は、時代の変化を受け、わたしたちは、バリアフリー型のオンライン劇場「THEATRE for ALL」事業をスタートした。舞台や映画、ドキュメンタリーなどの映像作品をインターネット配信するサービスで、字幕や音声ガイド、多言語翻訳、ラーニング企画やコミュニティ活動を通じて、いろいろな境遇の人たちが文化芸術に触れ、意見を言い合える「場」を作ろうという日々だ。令和2年度の文化庁収益力強化事業にも採択され、今年やっとリリースした。今年は事業化フェーズにあり、サービスとしてどうデザインできるかを考える正念場となる。

事業を通していつも新たな学びがあるが、この1年は、とにかく観る側も作る側も、我々は誰しもがなんらかの「当事者」でありながら、誰もあらゆる当事者性を想像しきることはできない、という現実を前に、常に災いや暴力、不理解に晒されながら、固有の喜びを生きる一人の人間として、仕事をしていきたい。いくしかない。ということを痛感した時間だった。

 2021年も、これまでにない時代の動きをみせるに違いないが、最終成果物やカタルシスだけでなく、地道なプロセスの可視化やメソッド(画一化を目指すものではない)の検証、そして対話(&議論)、を重視しながら、同じ時代を生きる個々の観客と向き合おう、不確実な時代にあって持続可能なしなやかさを持つぞ、と改めて思う今日この頃だ。