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文化プログラムがあろうとなかろうと



リオの閉幕式に感動し、平昌のメダルラッシュに興奮し、いよいよ次は2020年。東京オリンピックが楽しみですね。“文化プログラム”に関する個人的な思いは、以前こちら(ネットTAM講座 オリンピックパラリンピック(3) 第1回「ビジョン2030」)に書かせていただいたし、そのときと気持ちはあまり変わっていないので、特に問題なければ、“文化プログラム”についてではなく、今僕がかかわっている大分県でのさまざまな取り組みについて紹介させてください。

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ここ大分県では、今年の秋2018年10月6日~11月25日にかけて県内各地で行われる「第33回 国民文化祭・おおいた2018/第18回 全国障害者芸術・文化祭おおいた大会」の開催に向け、準備を進めています。従来のアマチュアによる文化芸術の発表会としてだけではなく、“カルチャーツーリズム”という考え方によって、全18市町村で“文化芸術×地域”の融合となる新たな取り組みが展開されます。僕はこの「国民文化祭おおいた」のアドバイザーを仰せつかり、スタッフとともに毎日あちこち駆けずり回っているので、とても忙しい。ある町ではどんな企画だとアートファンは喜んでくれるのだろうか? とか、上司がわかってくれないどうしよう? とか、アートってそもそも何?? とかとか、ともかく色々なご相談を受けてはともに悩み、励まし、作戦を練り、一歩ずつその日に向けて進んでいます。

「国民文化祭」は、毎年各県持ち回りで開催されるもので、大分県では20年ぶり2回目、今回が33回目なので、つまり、まだ一巡せずに大分県が2回目の開催となったわけです。近年は開催地選定が難航しているともいわれています。確かに「国民文化祭」が始まった約30年前と現在とでは社会状況が大きく異なっているし、継続するにせよ事業のあるべき姿を考えていく時期なのかもしれません。

当初、2回目の「国民文化祭」を大分県で開催するかどうか検討を進めていた際、個人的には強く賛成する立場ではありませんでした。というのも、この10年間、県内のさまざまな関係者によって地域に根ざしたアート活動が大分県内に広がり始めていて、このタイミングであえて「国民文化祭」を誘致・受け入れていく必要があるのかと考えたわけです。念願だった大分県立美術館も坂茂さんの設計によって2015年に開館しました。そして我々BEPPU PROJECTは2005年に発足し、これまでに実現したプロジェクトは軽く1000を超えています。

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BEPPU PROJECTは現在、アートプロジェクトの実施だけではなく、教育や障がい福祉にかかわること、移住定住にかかわること、観光促進や経済活動にかかわるコンサルタント事業などいろいろな分野にかかわっています。年間およそ50ほどの案件を15名程度のプロパー職員が担当し、地域や分野を超え、ある意味地域の横串となりながらさまざまな課題と向き合ってきました。いわば、地域のクリエイティブ・エンジンというか、クリエイティブなハブというか、そんな感じです。そして、その中で育ててきたいくつかの事業は、地域に必要とされるものに変わり始めてもいます。たとえば、国東半島という神仏習合発祥の里に設置した作品群は、現在では地域の方々にとって大切な作品になりました。地域産品を統一のブランド「Oita Made」としてブラッシュアップしていく事業は、大分銀行が中心となって設立した地域商社「Oita Made株式会社」に事業そのものを無償譲渡、事業規模が大きく拡大しています。企業とクリエイターをマッチングする事業では、年間60件以上の相談があり、今年は20件のマッチングが実現しました。アート版“トキワ荘”を目指すクリエイター専用の居住施設「清島アパート」は、来年で10周年、このアパートが生まれ、現在別府市には120名を超えるクリエイターが移住しました。そして、2009年より3回のみ開催したトリエンナーレ「混浴温泉世界」は、鑑賞者数とは異なる評価指標を発見し成果を見える化したことで、行政が実行組織の核となり、「in BEPPU」と言う事業に生まれ変わり毎年開催することになりました。

“グループ展から個展へ”をキャッチコピーとする「in BEPPU」は、一人のアーティストの無限の想像力によって、日常の風景が一変することを目指しています。2回目となる今年度は、国際的に活躍する西野 達氏を招聘し「西野 達 in 別府」として約2カ月間、別府市中心市街地を舞台に開催しました。公共物を架設物で取り囲み、ホテルの一室のようなプライベート空間を出現させることで知られる西野氏。本展でも油屋熊八像や別府タワーを作品化する大胆なプロジェクトを構想、4つの大型作品と4つの写真作品を実現しました。賛美両論を巻き起こしたこのプロジェクトは、氏にとって最大規模の“個展”となり、それぞれの作品は代表作(本人談)として位置づけられることになりました。その結果、平成29年度芸術選奨・文部科学大臣賞の美術部門を受賞することにつながりました(受賞対象=「西野 達 in 別府」展ほかの成果)。他所とは異なる手法で、予算規模はそれほど変えず、一人のアーティストに委ねていった成果として本展が評価されたことは、我々にとってとても大きな喜びです。

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西野 達 in 別府
©️混浴温泉世界実行委員会(Mixed Bathing World Committee)
撮影:脇屋 伸光(Wakiya nobuhiro)

「in BEPPU」のような多額の資金を一人のアーティストに集中させるような事業って、実現は結構難しいものです。我々も10年以上この地でさまざまな事業を繰り返し行ってきましたが、お叱りばかりで、ご理解いただけることはそれほど多くありません。それにめげず、実証実験・調査対象・種まきとして事業を位置付け展開してきました。その中で、前述したように、BEPPU PROJECTからスピンアウトして育ちつつある事業や、さまざまな成果が生まれています。そして、その結果、それぞれの成果をますます伸ばしていくために、自治体の基本計画に位置づけられたり、地域にとって必要なものになりはじめています。そこにはその活動体が目指すビジョンが必要です。そして、その実現に向かうプロセスの中で生まれた事業を受け渡す。つまり、結果的に地域全体のビジョンに位置づけられればいいなと思うのです。ないもの、理解されないことを嘆いたり、批判に終始する暇あれば、気づいた人間が始めればいいんじゃないかって、そう思い活動を続けています。そもそも、この活動は、誰かから頼まれて始めたことじゃないんだし。いまでは、市長をはじめ行政の方からも「山出さん、別府で行うアート事業はエッジが効いたものじゃないと意味ないんじゃないか」って、ことあるごとに背中を押してくれるようになりました。ありがたいことだ。

そんな我々の取り組みは、ジャンルを超え、地域を超え、いろいろな方々とつながり、新しい活動が生まれ、それぞれが異なるあり方を目指そうと、まだまだゆっくりだけど、歩みを進めています。冗長な前置きになってしまいました。

つまりいいたかったのは、この10年間の我々含む大分県内のさまざまな活動の集大成として、今年の「国民文化祭」を位置づけたいってこと。「国民文化祭」が大分であろうとなかろうと、ここで未来に向けた種まきを続けていく、その途中経過っていうか、収穫祭を催すきっかけとして、今回の「国民文化祭」を活用させていただきたいってことです。

そうそう、今年の「国民文化祭」の核事業に「in BEPPU」が位置づけられました。まだアーティスト名は発表できないけど、海外の大物きちゃいますよ! 今年の秋、ここ別府・大分県でまた再会しましょう。お待ちしてます。

(2018年3月15日)

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