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アートプロジェクト


 「現代美術を中心に、おもに1990年代以降日本各地で展開されている共創的芸術活動。作品展示にとどまらず、同時代の社会の中に入りこんで、個別の社会的事象と関わりながら展開される。既存の回路とは異なる接続/接触のきっかけとなることで、新たな芸術的/社会的文脈を創出する活動といえる。また、以下のような特徴を持つ。

  1. 制作のプロセスを重視し、積極的に開示
  2. プロジェクトが実施される場やその社会的状況に応じた活動を行う、社会的な文脈としてのサイト・スペシフィック
  3. さまざまな波及効果を期待する、継続的な展開
  4. さまざまな属性の人びとが関わるコラボレーションと、それを誘発するコミュニケーション
  5. 芸術以外の社会分野への関心や働きかけ

 こうした活動は、美術家たちが廃校・廃屋などで行う展覧会や拠点づくり、野外/まちなかでの作品展示や公演を行う芸術祭、コミュニティの課題を解決するための社会実験的な活動など、幅広い形で現れるものを指すようになりつつある」

 2014年1月に出版され、私も編集に携わった『アートプロジェクト----芸術と共創する社会』(水曜社)では、アートプロジェクトという言葉について、以下のような定義を試みた。試みた、というのは、その話者によって「アートプロジェクト」がいったいいつからはじまり、何を指すものなのかが異なるためである。
 アートプロジェクトは、異なる組織や立場を持つ人びととの連携が生まれることで、さまざまなネットワークやノウハウが蓄積されてゆく。異業種・異分野の組織や人びとが関わり合うため、地域の既存のコミュニティを横断し、接続する、「プラットフォーム」の役割を果たすことも多い。そのため、アート関係者のみならず、社会やそこにあるさまざまな課題に関わるものとしても注目されている。しかし、アートプロジェクトは社会的課題への特効薬ではない。あくまで社会の中に新たな文脈を創出し、既存の回路と異なる接続や接触を生み出すことで、これまでの価値観では創出できないような視座や行動力をもたらすものである。

 さて、蛇足であるが、今回縁あってこのような原稿を書かせて頂いている私は、とはいえ「アートプロジェクト」と呼ばれるような現場であくせく働くスタッフでもなければ、国内外さまざまなプロジェクトを見聞して調査するようなリサーチャーでもない。かつていくつかの現場で活動させていただいたことを踏まえ、現在はアートプロジェクトとは少しだけ異なるフィールドで活動を続けている。
 「ご近所事務局ゼミナール」と呼ばれる市民講座の運営も、その一つである。この講座は、港区芝地区総合支所と慶應義塾大学による主催で行われる「ご近所イノベーション学校」の一環として、この11月まで開催されていた。約半年間のあいだ、座学と実践により、地域活動における「事務局」とは何かを学ぶ機会をつくったのである。講座立ち上げから「担任」として携わった私は、その活動の中で、「事務局」と呼ばれる人々が、じつに複層的で多様な役割を同時に担いながら業務を推進していることに気づかされた。このことは、アートプロジェクトのこと、とくにその担い手のありようを考えるうえで非常に示唆的な経験だった。

 先日その講座の修了式を開催した際に、11名の参加者に対して「学位」を授与した。それぞれの参加者の特性をもとにして、教職員全員で考えたのであるが、その全体を眺めると、その多様さの一端を垣間見ることができる。
 「大人の保育園長」は、もと保育士で、現在は地域のコミュニティ拠点を運営し、老若男女さまざまな人々とともに場づくりを試みている方。「万能事務局助手(非常勤)」は、複数の現場で同時に「縁の下の力持ち」のような働きを見せ、息の長い活動を続けている方。「ご近所音楽家」は、コミュニティのなかで音楽がどのように機能するのかを考えながら地域で活動をはじめた方。そのほか、「主任気配りコーディネイター」「未来の生き方研究員」、「CDO(チーフ・ダンドリ・オフィサー)」...。

 確かに、事務局と呼ばれる人々の業務範囲は驚くほど手広い。「既存の回路とは異なる接続/接触のきっかけ」を生み出し、「新たな芸術的/社会的文脈を創出する活動」を支えるために、アートプロジェクトの事務局は、芸術の知識もさることながら、資金繰り、リサーチ能力、広報、デザイン、リスクマネジメント、地域独自のふるまいの作法など、多種多様な守備範囲が求められる。そのすべてを1人で網羅することは、なかなか難しい。
 だからこそ、航海をともにする仲間とともに得意な分野を伸ばし、不得意な分野を互いに補い合いながら、事務局という「組織」を組み立ててゆくことが必要となる。事務局として働くみなさんは、自分や働く仲間に、いったいどんな「学位」を名付けることができるだろうか。

(2014年11月27日)

関連文献

『アートプロジェクト——芸術と共創する社会』
熊倉純子(監修)、菊地拓児・長津結一郎(編集)水曜社
2014年

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