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ヨコハマトリエンナーレ2020開催を経て、次に向けての1000日間

この原稿を執筆している2021年11月現在、日本での新型コロナウイルス新規感染者数はすっかり少なくなって、果たしてこの記事がアクチュアリティのあるものとして伝わるのか、はなはだ心もとない空気になりつつある。しかし、同時に海外からは、過去最悪の感染拡大に陥っている国もあるというニュースも聞こえて、新型コロナウイルスとの戦いは、必ずしも楽観的になれる状況ではなさそうだ。

私が勤務する横浜美術館は、目下、建物の大規模改修工事を行うために2021年の3月から長期休館中である。しばしばコロナに合わせた休館かと問われることもあるが、公立施設の大規模改修工事は一朝一夕で決められるものではなく、数年前から予定されていた工事がたままたこの時期に重なっただけのことだった。収蔵作品の外部倉庫への移動や、準備室時代から数えて40年以上におよぶたまりにたまった資料の整理、再開館に向けたシステムや方針のアップデートなど、休館中の美術館が実は多くの仕事をしていることは、それはそれで伝えるべきことではあると思うが、「ウィズコロナでの挑戦」というテーマからは逸れるため、ここでは私が昨年、そして次に向けての準備にもかかわっているヨコハマトリエンナーレについて記したい。

横浜美術館「美術館の裏側―作品の大移動」
(制作:横浜美術館 教育普及グループ、撮影・編集:西野正将)

横浜で2001年から3年に一度開催されている現代美術の国際展であるヨコハマトリエンナーレは、コロナウイルス感染拡大の第1波がやや落ち着きを見せた2020年の7月から10月にかけて、第7回展を開催した。当初予定の会期からは、2週間遅れの開幕となったものの、ヴェネチア・ビエンナーレ建築展をはじめ世界の国際展の多くが延期や中止を余儀なくされる中、コロナ禍で開幕した国際展としては、世界的にも早い例の一つとなった。

ヨコハマトリエンナーレ2020記録映像、制作:横浜トリエンナーレ組織委員会(このほか横浜トリエンナーレ公式Youtubeチャンネルでは、多数の動画を視聴できます。)

おそらく気になるのは「なぜ開催を決めたのか?」「どうして可能だったのか?」という点だろう。これには、いくつかの明確な理由がある。

一つは東京2020オリンピック競技大会の存在だ。当初2020年7月後半からの開催が予定されていたオリンピックの影響を考慮し、横浜では通常8月~11月に開催していたヨコハマトリエンナーレの会期を、7月~10月に前倒すことを予定していた。それはオリンピックのために東京へ集まる人を呼び込みたいという期待とともに、オリンピックのために社会活動が滞る前に開幕を迎えようという意味もあった。そのため、オリンピック関連の物流や施工の増大によって、展覧会のための作品輸送や作品設営の資材供給などが滞る可能性を恐れて、通常よりも早い2019年の後半ころから輸送会社や施工会社へのヒアリング等を進めていた。

コロナ以前から、オリンピックという予測のつかない事態を前に(当初予定の内覧会前日、すなわち設営の最終日には聖火リレーのために会場周辺で交通規制があるという予定すらも入ってきた)、通常よりも早め早めに準備を進め、下見が必要なアーティストの来日は、1組を残して2020年2月末までに完了し、日本で最初の緊急事態宣言が発出されるころには、輸送や施工の段取りが一定程度は見えていて、作品も7割方は間に合うだろうという見通しを立てていた。そうした背景の中で、緊急事態宣言発出の時点ですべての参加作家に対して、我々は予定通りの開幕を目指して準備を進めることをあらためて伝え、それぞれに可能な準備を進めてもらうようお願いしつつ、海外在住のアーティストとは来日ができなくなる可能性を含めて展示プランや制作スケジュールの更新を続けていった。

アーティストの中には、厳しいロックダウンで自宅から出るだけでも許可書を必要とする環境下にあった人もあり、「他の国の展覧会が続々とキャンセルされて、気持ちが滅入りそうな日々の中で、オンラインの打合せで顔を合わせたり、作品のことについて考え続ける時間をくれていることに心から感謝している」といってくれたり、「忙しかった予定がすべてキャンセルになって、ずっと家にいるからいつでも連絡して欲しい」と伝えてきてくれたりと、およそ国際展の準備ではいわれたことのないようなアーティストたちの言葉が心に残っている。また、当初海外の美術館に収蔵されている旧作を借用する予定だったものが、4月時点で所蔵館から「クーリエ派遣ができない」ということを理由に出品を断わられ、幸い北欧が拠点で、ロックダウンにもならなかったこともあり、急きょ快く新作の制作を引き受けてくれたアーティストもいた。

なお、この時点で7月に本当に開幕できるかどうかは、我々にもわかっていたわけではない。最初の緊急事態宣言当時、施設閉館を要請された日本の美術館の多くが、いつ館を再開できるかどうかの目途が立たずとも、展示作業だけは終えて、緊急事態宣言が明けて来場者を迎えられるようになったら、いつでも再開館ができるように準備する体制をとっていたと聞くが(同時に多くの開けられない館では展示をオンラインで紹介するといった試みを実施していた)、我々の判断もまた他館と同様のものであった。

とはいえ、新作や屋外設置作品などの大型インスタレーションも多かったヨコハマトリエンナーレは、通常の美術館の展覧会の規模を大きく上回るものであったことから、予定は日々変化し続けていた。たとえば、厳しいロックダウンのために新作の目途がなかなか立たなかった北京在住のアーティストとは、日本で遠隔で新作を制作する可能性を探りつつ、中国からの輸送のリザーブもぎりぎりまで確保したままの状態が続いた。二転三転した結果、日本の緊急事態宣言解除より一足早くロックダウンが解除になった杭州で制作できる目途が立ち、北京のロックダウン解除と同時に作家が杭州へ移動、完成した作品を7月に入ってから上海より輸送するという綱渡りの輸送になった例もあった。

当初予定よりも2週間開幕を遅らせることを公表したのは、緊急事態宣言が明けた直後の6月3日のことであったが、その時点でも見通しの厳しい作品は少なからず存在していた。それでも無事開幕を迎えることができたのは、昨年の夏は比較的コロナの状況が落ち着いたという時期的な巡り合わせに他ならない。

この時期的な幸運が2つ目の理由である。もし会期が通常通りの8月開幕以降の会期で、オリンピックという特殊事情による前倒しでの進行をしてなかったならば、準備は間に合わなかった可能性が高い。また、もし春の会期であったなら、緊急事態宣言のただなかで、一般公開できないままに閉じなければならないという、いくつかの他の展覧会と同じ経過をたどった可能性もあるだろう。

このほか、開催準備やオンライン化など変更されたプログラムの経緯等については、私が執筆したヨコハマトリエンナーレ2020公式記録集の企画準備レポート※1や、全国美術館会議機関誌 の報告※2、加えて、横浜トリエンナーレ組織委員会プロジェクト・マネージャーの帆足亜紀執筆によるネットTAM掲載のレポート※3にも詳しいので、ぜひこれらも参照いただきたいが、ここでは、2020年以後、次のトリエンナーレに向けた現在の状況についても記したい。

2021年11月現在、休館中の横浜美術館の中では、再開館に向けた美術館活動に加えて、次のヨコハマトリエンナーレに向けた準備も進んでいる。ただし、まだ次のアーティスティック・ディレクターは決まっていない。通常であれば、閉幕した翌年の春には次回展のアーティスティック・ディレクター選考準備がスタートするが、次回に向けては、少しゆっくり進めている。昨年のヨコハマトリエンナーレでは、インドのニューデリーに拠点を置くアーティスト・コレクティヴのラクス・メディア・コレクティヴ(ラクス)がディレクターを務めたが、次回もまた海外拠点のディレクターになる可能性があるだろう。そうしたときに、会場となる場所や土地について、認識を共有できていない相手とかたちのある展覧会を実現するのは大きな困難を伴うに違いない。

前回展のディレクターであるラクスは、ヨコハマトリエンナーレの準備が始まるときを起点に、展覧会が終わるまでの約1000日間を、トリエンナーレという事業におけるひとつの時間の単位として考えたいと語っていた。刻一刻と変わる世界の状況を注視しながら、我々は次のヨコハマトリエンナーレに向けて、1000日間をともにするパートナーを決めようとしている。我々にとっての「ウィズコロナでの挑戦」は、昨年よりもむしろ、次のヨコハマトリエンナーレに向けた1000日間にこそ真価が問われることになるのだろうと考えている。

※1:「ヨコハマトリエンナーレ2020のあゆみ」および、木村絵理子「独学者たちのヨコハマトリエンナーレ―企画準備ノート」『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」記録集』横浜トリエンナーレ組織委員会、2021年、p11-13 

※2:木村絵理子「ヨコハマトリエンナーレ2020:AFTERGLOW-光の破片をつかまえる―新型コロナウイルス感染拡大の影響下での開催」『ZENBI 全国美術館会議機関誌 vol.19』全国美術館会議、2021年

※3:帆足亜紀「ヨコハマトリエンナーレ2020 ~東京オリンピック2020同時開催から新型コロナウイルス禍同時開催へ」、ネットTAM「新型コロナウイルス感染症に立ち向かうアートの現場レポート」より

今後の予定

横浜美術館は休館中も活動しています。仮拠点PLOT48でのワークショップや、横浜市内各所で実施するレクチャー、オンラインのプログラムなど、多数実施予定です。

関連リンク

横浜美術館休館中のプログラムについて、最新の情報はこちらをご覧ください。

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

横浜美術館より一足先に改修工事のために長期休館に入り、来年度には再開館を迎えようとしている広島市現代美術館での様子を、ぜひご紹介ください。

ウィズコロナでの挑戦 目次

1
~コロナが拓いた舞台芸術のデジタルアーカイブ化と動画配信の未来~EPADの試み
2
COVID-19時代における文化芸術プロジェクト
Arts in COVID-19
3
札幌国際芸術祭2020の中止を巡って
4
ヨコハマトリエンナーレ2020開催を経て、次に向けての1000日間
5
奇しくも重なったパンデミックと改修工事休館
6
2年越しでの開催となったACK
7
祝祭と創造の継続を選んだ「トビウの森と村祭り2021」
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