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コロナ下で社会をどう眼差すか?──芸術文化活動の今後に向けたヒント

2020年7月22日(水)
トークイベントレポート

新型コロナウイルスによって、芸術文化は極めて大きな打撃を受けました。イベントやコンサートは少しずつ再開に向けて動き始めたものの、Withコロナの時代においてはかたちを変えざるをえない状況です。

では、芸術文化はこれからどのように社会を眼差し、どのような役割を担えるのか──。

7月22日に開催されたオンラインイベントをレポートします。

コロナ禍が生んだ「オンライン・リアル」という一筋の光明。

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ネットTAMでは初の試みとなるライブ配信によるオンラインイベント。まずは文化芸術活動にそれぞれの角度から携わる各人が「コロナ禍で身近にどんな変化と課題が見えたか」を伝えあうところからスタートしました。

口火を切ったのはニッセイ基礎研究所で文化政策のリサーチなどを手掛ける吉本光宏氏。厳しい現実を提示しました

吉本:コンサートや展覧会が中止・延期となり、他の業界同様に多大な損失、損害を出したのはご存知の通り。ぴあ総研の調査によるとライブ・エンタテインメントのダメージは3300億円といわれています。

その一方で、いくつかポジティブな面もあったと指摘。その一つとして支援策が比較的すばやく立ち上がったことです。

吉本:目立ったのが民間から数多く立ち上がったクラウドファンディング。それと個別企業・財団による支援は億単位の寄付もあり、いち早く動きがありました。また企業メセナ協議会は「GBFund」(芸術文化による災害復興支援ファンド)という資金による支援を立ち上げています。国や自治体も動きました。文化復興創造基金や文化庁による約500億円の活動継続支援策などが始まりました。「遅い」「視座が低い」と揶揄する声もありましたが、国が“文化芸術を珍しく置き去りにしなかった”ことは大きな前進では。

もう一つ、ポジティブな面として吉本氏が指摘したのが「オンラインの可能性」です。

吉本:「World Cities Culture Forum」という毎年参加している国際会議。新型コロナが世界中に蔓延したことから急遽オンラインミーティングが開催されることに。画面越しに20名ほどがNYやモスクワや日本から、臨場感たっぷりに各地の文化活動へのコロナの影響を語られました。そのうち「とてもリアルなもの」に感じ始めました。簡単に国境を超えて細やかに情報交換できる。回数を重ねるうちに“オンライン・リアル”ともいうべきものの可能性を強く感じるようになりました。

そのうえでベルリンアンサンブルという老舗劇場が、ロックダウン後に発表した『芸術と死と生の間』というオンライン演劇動画を紹介。「コロナによって芸術文化は相当なダメージを受けたが、新しい表現の可能性も後押ししたのでは」と提示していだきました。

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「二つの立場からお話したい」と続けたのは、布垣直昭氏です。

一つ目は、メセナへつながるトヨタ自動車の社会事業推進部の部長として。

トヨタがフェイスシールドの生産をしたこと。医療現場向けに防護シールドを車内に備えたクルマを製造したエピソードなどを紹介。

さらに毎年実施しているウィーンフィルを中心にヨーロッパの演奏家を招聘した「ウィーン・プレミアム・コンサート」が中止になったため、過去の演奏を無料公開したこと。プロの演奏家が青少年向けにオンラインレッスンを実施したこと。さらに障害を持つ方々の芸術活動、エイブル・アートのLINEスタンプを制作、販売するなどコロナ禍の状況下における新しいメセナ活動も報告されました。

そしてトヨタ博物館の館長としての立場からは特に厳しい表情で報告。「この半年は天国から地獄だった」という言葉が印象的でした。

布垣:トヨタ博物館は昨年、創設30周年を迎えて、新たに文化資料室という展示室をつくったタイミング。そこでミニチュアカーやポスターといったクルマ関連の文化資料を4000点も新たに展示。好評を博していた。昨今はタッチパネルやVRなどを使った(コンテンツ型の)展示がトレンドですが、あえて実物にこだわった博物館を標榜してきた。それが評価され、「これから大勢の方々に!」と思った矢先、コロナ禍で長く閉館に追い込まれることになり、まさに天国から地獄です。おそらく世界中の博物館、文化施設が同じような辛い思いを味わったはず。

こうした両氏の話を受け、モデレーターであるプロジェクト・コーディネーターの若林朋子氏は、「コロナ下で社会をどう眼差すか?」という鼎談のメインテーマをあらためて提起しました。

キーワードは「炭鉱のカナリア」でした。

アーティストは社会における「炭鉱のカナリア」のような存在である。

『社会デザイン』という領域で文化や芸術の意義を研究している若林氏。まず社会デザインの定義を「“こうありたい、こうあったらいいな、と願う社会を実現するための仕組みづくり”」と説明しました。

若林:社会デザインには課題解決型と価値創造型の二つがあるが、たとえば、日本で生まれた点字ブロックは、視覚障害者の移動を助ける課題解決型であると同時に、グローバル・スタンダードの記号として世界に広がった価値創造型の社会デザインでもある。

翻ってアート、芸術文化にも同様に社会をデザインする力があり、社会課題を解決することもあれば、新たな価値を創造する、どちらかというと後者が得意。と若林氏は指摘。

それはアーティストには『炭鉱のカナリア』のような“社会への眼差し”があるからだ、と説きます。

「感度の高いアーティストは、世の中の声なき声をすくい上げる。『炭鉱のカナリア』のように、誰よりも早くそうした社会の問題や新たな価値に気づく感性を持っている。だからこそ、コロナ下で価値観がかわり、先が見えない今、アーティストやアートの眼差しが社会で大きな役割を担うのではないか。そこに芸術文化が進む未来の道筋があるのではないか」という問題提起がなされました。

また、社会の変化に応じ、社会をどのように眼差すかによって、活動の意義や価値もまた変化していくと指摘しました。トヨタ自動車のメセナ活動を例に、同一活動でも時代によって対応する社会課題が変わり得ること、アートにはそうした特性があると話しました。

そういった問いに対して、吉本氏からは「課題解決分野ではすでにアートは多くの産業分野、あるいは教育、福祉、地域創生などに力を発揮し、成果も残していますが…」と。

吉本:今はアートが社会と向き合いながら、新しいアクションを生み出して、社会デザインに寄与するような流れがある。

その例としてイギリスのアーティストDavid Bucklandが始めた『CAPE FAREWELL』を紹介。世界中のアーティストが気候変動の最前線である北極海を航海し、そこで得たインスピレーションから数々の作品を創造してもらうという、社会に対して気候変動の危機を訴えかけるプロジェクトをあげました。

続いてOlafur Eliassonというアーティストによる『Little Sun』プロジェクトも紹介。内蔵した太陽電池で充電できる小さなライトをエンジニアと開発、かわいい雑貨にも見えるこれを購入すると、同じものがまだ電力が供給されていない世界の16億人に届けられるという壮大なプロジェクト。まさしく、社会課題に対してアーティストがアタックしてくものです。

それらを踏まえ、吉本氏は「アーティストが社会課題に挑み、あらたな動きを生み出していくこうした試みが世界中でおこなわれている。新型コロナウイルスに関しても、世界中のアーティストたちがこれからどのように向き合い、インスパイアされ、どんな作品を生み出していくのかが楽しみ」とつなぎました。

一方、布垣氏は、急速なモータリゼーションを背景にした交通安全教育の普及や、地球温暖化ガスの排出問題などを踏まえたプリウスの販売やトヨタの森の整備など、そもそもトヨタの社会貢献活動は、本業の課題解決と重なり合い、当然のように同時進行してきたことを紹介。

さらに「昨今叫ばれている世界中の深刻な社会課題を解決していくSDGsはこのコロナ禍でより切実な問題になった。この解決に向けて、一つのツールとしてアートが活躍する可能性は多くあるのでは」と示唆されました。

もっとも布垣氏は、「その意味でもあらためて芸術文化に携わる人々が突きつけられている収入減の問題。中止や延期、間引かれた劇場で、どのように利益を出していけばいいのか。いわばアートの存続にもかかわる、芸術と経済環境の新たな両立関係を考える必要があるのでは」と強く議題の提案がなされました。

間引かれた席で、どのようにアーティストは利益を出すか。

これを受けて吉本氏は「コロナ禍の中で、これまでは損失をどう補填するかというフェーズでしたが、今後どのように再スタートしていくか。そして、“間引かれた席”でも経済を成り立たせていくか。そのための策が必要になるでしょう」と発言。

「その意味で企業メセナも形を変えていく必要があるのかもしれない。たとえばこれまでは『芸術文化は大切だから支えなければいけない』という発想が原点だったが、先に述べたように社会課題を解決したり、発見したりする役割をアートが力強く担うのならば、企業と芸術がある種の対等なパートナーとしてタッグを組んで、SDGsも含めて多くの社会課題を解決していくインパクトをもたらせるのではないか。それを『社会的インパクトメセナ』と呼びたい」と吉本氏独自の造語によりアイデアを提示していただきました。

最後は布垣氏から「化学反応を起こすような議論ができれば」と、未来の芸術文化の一つとして間違いなく見えている「オンライン・リアル」の話についてあらためて活発な議論がなされました。

布垣:かつてトヨタのデザイン部門にいたとき、北米の拠点で開発したデザインを愛知の本社で画像共有して一緒にブラッシュアップする試みをした。ところが、画像データだけではどうしてもモノの質感やデザインの雰囲気といった、小さいようで大切な細部が伝わらない。実物の情報量は圧倒的だと気づいた。同じことが文化芸術にもあって、そこをクリアにして、かつ「オンラインならではの見せ方」をもっと追求するべきだと思う。

吉本:先日、演出家の宮城聡さんに教えていただいたが、カラヤンの初来日はベルリン・フィルと一緒ではなく一人での来日で、N響がカラヤンの指揮で演奏したのだが、まったく普段と演奏が違った。それは「カラヤンという肉体から発せられる圧倒的な情報量を楽団員が受け取ったからだ」と。つまり、生で実物にふれることの価値はやはり普遍的なんだと思います。オンライン・リアルの意義もある一方で、相対的に「リアルの価値」ももっと高まると思う。やはりその価値を届ける術を見出す必要がある。

こうして1時間30分のオンラインイベントは白熱のまま終了。今後、これ以上の熱量を持って、第2回、第3回と実施していく予定です。次なる化学反応にご期待ください。

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取材・文:箱田 高樹(株式会社カデナクリエイト)

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