創造力を社会実装するアーツプロダクション
アートにかかわる人たちがアートを続けるためにどのような方法があるのか? ネットTAMでは今回「起業」に着目し、実際に会社を興し、さまざまな事業形態でアートを持続させている方々に、"アートの興し方"についてお話をうかがい、ヒントを探ります。
第4回は創造力を社会実装するアーツプロダクションのTwelve Inc. 代表取締役の山城大督さん。ご自身は美術家・映像作家であり、アートコレクティブ「Nadegata Instant Party」でも活躍されています。すべての人々がもつ創造力や感受力には、新しい価値や未来のビジョンを切り開く力があると考え、その力を最大限に発揮できる環境づくりとその力を受け入れる場づくりに、文化芸術分野における専門性と感性をもって取り組まれています。
Twelve Inc.
本社所在地:京都府京都市上京区
設立年:2020年
資本金:100万円
従業員数:4名
主な事業:文化芸術のアートプロデュース、メディアプロデュースを軸に、企画制作と映像制作を行うアーツプロダクション。ジャンルや場所にとらわれず各分野のプロフェッショナルと協働しながら、プロジェクトの立案・実施・管理・運営まで幅広い業務を行います。
現在、Twelve Inc.で実施しているアートによる事業とは
Twelve Inc.では、主に2つの事業部でアートによる事業を実施しています。一つは映像制作事業部です。美術館・劇場・アートセンターなどの文化芸術にかかわる施設や芸術祭などの広報映像・アーカイブ記録映像・配信映像の業務を行政や企業や団体から請けて制作をしています。代表的な事例としては、愛知県で2010年から3年ごとに開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」(主催:あいちトリエンナーレ実行委員会)の広報映像があります。Twelve Inc.に法人成りする以前の2015年から広報映像の映像ディレクターとしてかかわり、音楽家や映像作家やアニメーション作家と協働して現在も継続的に芸術祭にかかわっています。また、アーティストや表現者とのコラボレーションを行い、作品の映像制作パートを担当しクリエイションに参加することも得意としています。
もう一つの事業部は、企画制作事業部です。芸術祭や美術館での企画制作や作品制作、ワークショップ開発やラーニングプログラムの企画実施等を行っています。代表的な事例としては2023年より実施している「アートサイト名古屋城」(主催:名古屋市)があります。特別史跡である名古屋城の城内を会場にしたアートプロジェクトを名古屋市と協働して企画しました。4組のアーティストが名古屋城の歴史や地理や風土をリサーチし新作を発表する展覧会で、秋の紅葉シーズンに実施することもあり多くの観光客のみなさんに楽しんでいただいています。
また、アートにおけるエデュケーション事業にも力を入れています。山口情報芸術センター[YCAM]でのアートコミュニケータープログラムや、ロームシアター京都での中高生を対象としたメディア表現ワークショップ、ネットTAMが主催するアートマネジメントの専門家を育成するプログラムの開発などを実施しています。
なぜ起業したのか?
美術作品制作、映像制作、アートプロデュースを行う「山城美術」(代表:山城大督、創業2006年)と、アートマネジメント、アートプロデュース、美術作品販売を行う「一本木プロダクション」(代表:野田智子、創業2013年)が法人成りし、「Twelve Inc.」を2020年6月に京都市で設立しました。2019年から法人化の計画を始め、税理士の先生に相談をしていましたが、2020年3月からのコロナ禍によって時期尚早と判断し法人化の計画はストップしていました。コロナ禍で多くの文化芸術の事業が一時停止している中で、愛知県がコロナ禍の影響を鑑みて公募したアーティスト支援事業のプロポーザル応募を機会に、文化芸術の灯火を消してはならないと考えて1カ月ほどの期間で急ピッチで法人化しました。
このプロポーザルでは、「AICHI⇆ONLINE」というオンライン上のアートプロジェクトを企画しました。アーティストやその制作を支えるさまざまな職能を持つ人たちと一緒に映画、現代美術、文学、漫画、音楽など計9つのプロジェクトを制作し、オンライン上で発表しました。2020年の社会全体の混乱の中での起業から少しずつ社会が復旧して行く中でTwelve Inc.の事業計画が具体化していきました。
起業したメリットとデメリット、そして今抱えている課題とは
私たちは株式会社という形態を選択してTwelve Inc.を設立しました。大きなメリットとして日々感じていることは、専門分野を持つスタッフがチームとなって事業を実施できることです。物理的にも社会信用的にも一人では到底実現できないような事業規模の企画をTwelve Inc.として実現できるようになりました。また、中長期的な展望を持って事業計画を立てる視点が持てたこと、法人というまだ見ぬ「人格」を育てるという意識を持てたことも大きな喜びになっています。映像制作を専門とするスタッフ、アートマネジメントやアートプロデュースを専門とするスタッフがいることで、お互いの思考や興味関心についても相互影響を受けることがあるのもメリットです。デメリットは思い当たることがありません。
これからやってみたいこと
複合的な仕組みやかかわり方を持つコンプレックス・アートセンターの設立と運営に挑戦したいです。その土地の歴史や文化に根差した事業を文化芸術の視点を持って構想しています。展覧会やイベントのように数カ月や数年の単位で計画する規模を超えて、数十年から百年の単位で考えることができる基盤をつくりたいと考えています。幼児から青少年、子どもから学生や社会人、高齢者まで年齢や所属を超えた人々が多層的に混じることができ、価値観の折り合いを見つけることができる場所をつくることができないかと夢見ています。国籍や所属や目的を超える方法には、アートだけではなく、食やカルチャーや音楽や観光など、現在のアートが持っている概念を超えた幅広い視座が必要だと考えています。そして、ローカルを起点に探求し実践することは、地域のテーマを超越するグローバルで普遍的な運動につながると考えています。
これからアートとかかわり続けるためにどうするか?
アートは、電気やガス、水道、道路、公共交通機関などのように社会を支える基盤(インフラ)の一つだと私は考えています。誰かが、何かをきっかけにうれしくなったり、時に涙したり、リズムやメロディを聴いて胸を踊らせたり、一輪の花や月を見て言葉が浮かんだり。そんな日常のどんなときにでも「アート」という現象は人々のそばにいます。その一つひとつの小さな機微に耳をすませてみてください。それらから生まれる気づきや問いを物質や事物に表面化させるのがアーティストや表現者です。生まれたての赤ん坊にも、横断歩道を渡る道ゆく誰かにも、アートは誰の中にもあります。
(2024年5月1日)
今後の予定
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愛知県半田市出身の詩人 新美南吉が1932年に発表した詩「明日」。コロナ禍でTwelve Inc.が企画したオンライン・アートプロジェクト「AICHI⇆ONLINE」のスローガンとして一節をお借りしました。いま読んでも胸が熱くなります。
明日はみんなをまっている。
泉のようにわいている。
らんぷのように点ってる。