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Q1.「ヨーロッパで活動する作家から見た京都・日本にはどのような魅力があるか?」

対話篇:東野雄樹氏(アーティスト、批評家)

執筆:中川 直幸
(ことくらす合同会社 代表社員/まるごと美術館 キュレーター/NPO ANEWALGallery 理事)

はじめに。

2022年、地域活性化を行う私たちのグループによい変化が訪れました。

2016年に独立して、仕事と同時並行で地域の活性化活動を行い、その中で現在の仲間と出会い5年ほど。地域の活性化事業は基本的にはボランティアで行い、プロジェクト単位では赤字を出すこともしばしば。アーティストの方が学生時代にされていたような、友人同士でお金を出し合ってギャラリーを借りて行うグループ展のような状態で地域活動を運営していました。

それが、昨年から、お寺に竹垣や刀を奉納し参加者がそのお寺に名前を残す旅の企画を提案したり、展覧会で仲よくなった地域の職人さんの工房をめぐるツアーを企画したり、京都の寺町商店街とコラボレーションして、若手の作家を世に送り出すお手伝いのようなことを行い、収益化できる事業になってきました。

アートを含む地域の活動が、観光や経済の脈絡で生かされている状況です。

現在は国や行政、商店街から補助金や運営費をいただき行えているのですが、ここでいくつかの疑問が出てきました。

一つは、アーティストインレジデンスのようなわかりやすい文化交流事業ではなく、観光や経済の脈絡で、国際的な文化交流を行おうと考えた場合、再度地域の魅力、特に海外から見た日本や京都のイメージが気になったこと。

もう一つは、私たちが行っていることが、ハイコンテクストなアートではなく、実験的で思索的な内容で、しかもお金を出してくださる方がいます。このような状況でクライアントやスポンサー、または参加者にどのような還元ができるのか、という点が気になっています。

ハイコンテクストなアートだと、それを実行し、アーカイブされアカデミックな言説に載せたり、しかるところで評価されていく土壌がありますが、私たちのような社会実験的なものは、実践結果と実績の数字が評価の主軸です。それにより次回の開催いかんが決定されていきます。ではどうやって自分たちのおもしろいと思うことを実行し、受け手の需要を満たしていけばよいのか。このような疑問を数人の方に投げかけてみました。
今回は、そんな投げかけに対し、答えてくださった3名の方とのインタビューと、自分なりの考察を紹介します。


q1.「ヨーロッパで活動する作家から見た京都・日本にはどのような魅力があるか?」

東野雄樹氏(アーティスト:批評家)

a1.東野雄樹氏(アーティスト:批評家)
1984年生まれ、ウィーン在住。フランクフルトのStädelschuleで美術を学ぶ。ウィーンのルートヴィヒ財団近代美術館やGalerie kunstbuero、ニューヨークのDavid Zwirner (オンライン展示)、Young Knee CoolやCarriage Trade、ロンドンのMAMOTH、チューリッヒのLast Tango、京都の現代美術製作所、トゥールーズのLe BBB centre d'artなどで作品を発表。Artforum、Texte zur Kunst、The Avery
Reviewなどの美術誌に寄稿。ウィーンを拠点にする雑誌Agencyの編集者の一人でもある。

東野さんとは、2018年に竹谷大介さんがキュレーションした「Multi Layered Identities」の展覧会以来の再会。今回は現代美術製作所のディレクターの曽我高明さんと3人でランチをした際の記録を元に、東野さんのアンサーを紹介します。

空き家問題は都市部では起こらない。郊外の空き城は成功したアーティストのステータスとして購入され、死後はそのまま財団が運営し美術館になる

直近で、話題になっていた空き家問題について東野さんに質問をしてみました。京都市だけでなく全国的に問題になっている空き家の話題。京都市は学生のまちだけあり、学生が卒業すると東京などで働くため、京都から出ていきます。さらに高齢化・人口減少が進み、物置として利用され、空き家という認識がないオーナーもいるというのが京都の現状です。それを踏まえ、ヨーロッパでの現状を教えてもらいました。

「まず都市部では常に住宅不足です。なぜなら日本よりも圧倒的に移民が多いから。だから都市に新しく来た人はまず住居が見つからない。特にひどいのがストックホルムで、10年待ちという状態も聞いたことがあります。また、スウェーデンでは、税金の関係もあると思うのですが、ほとんどが持ち家です。大学生でもアパートを購入して大学に通います。基本的に家の価値(上物:建物)が下がらないからできることです。日本だと新しい家を建てた瞬間から価値が下がっていくと思うのですが、逆ですね。だから入学当初に親が子どものために住居(アパート)を購入して、卒業の際に売る。価値が上がっている場合もありますから、売却益がでたりする。それを頭金にして次の住居を探すということもあります。子どもが生まれた瞬間に予約するなんてこともあります。ストックホルムじゃなくてストックホームですね(笑)。あとは、地縁ですね。流通に乗っていない場所を大家さんと直接契約する。これはどの世界でも共通かもしれません」

日本の空室率が約13%総務省統計局「住宅・土地統計調査」だそうで、東京はワンルーム賃貸の空室率が約12%だそう(株式会社タス調べ)。空き家を解決する場合、単純に地方への移住を促すというよりも、移民の受け入れも検討し、人口減少対策を考えた方がよさそうに思えます。

「郊外といえば、オーストリア特有の事例かもしれませんが、成功したアーティストがお城を購入して、アトリエ兼ギャラリーとして利用することがあります。死後は財団が管理して美術館になる。みたいなことがあります。うまく活用されているように見られますが、これにも問題があって、その作家が死後ずっと有名であり続けないといけないのですが、それが叶うかどうかはわかりません。結局また、空き家になるケースもあります。知人がヴィラみたいなところを購入したのですが、問題は管理にもあって、毎月なにか問題が発生するらしく、管理費をしっかり確保できないと維持するのは難しいと思います」

日本だと、彦根城とか姫路城みたいなものを個人で所有するようなイメージでしょうか。国や行政の管理下に置かれていて、個人が管理するなんてことは考えられません。もし、二条城などを行政ではなく、財団などが管理したら、今よりも簡単にレンタルができるようになるかもしれないので、それはそれでおもしろいかもしれません。

マーケットが無い日本には作家としての魅力をあまり感じない。でも地域として見た時に京都は面白いと思います。京都のお寺や神社で展示をしたら、画として映えるので、他の作家と差別化ができます

ここからが本題です。日本や私が活動している京都という場所、また場所が持つ文化的な魅力みたいなものについて聞いてみました。

「日本の魅力っていわれても結構難しいのですが、たとえば観光の脈絡だと、京都は魅力的です。この間、京都で展示をした時に、シカゴでギャラリーをやっていた方が来てくれたのですが、その方は、現在、京都に住んでいるそうです。古き良き日本の文化が残る地域って世界から見ると京都になるんですね。実際はわからないですよ。でも欧州やアメリカのイメージはそうだと思います。だから、日本に行くなら東京や大阪よりも京都に行きたいっていう人は世界でも多いと思います」

作家として見たときの日本の魅力や、東野さんが、オーストリアで海外での制作・展示の助成金を受けた場合、その助成金をどのように使うのかをうかがった。

「まずそのような助成金を受けた場合、ニューヨークに行きますね。私の中では1択です。正直なことをいうと、日本にはアートマーケットが存在していないと感じています。ギャラリストも、コレクターも名前のある方がおられないという印象です。それを醸成する土壌はあるのかもしれませんが、世界に伝わっていないように感じます。アーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)も作家としては招聘されていくものだという認識があり、日本のレジデンシーに月1000ユーロであってもお金を使いたくない、というのが本音です。誰でもそうだと思うのですが。理想としては、たとえば滞在費用はオーストリア政府と受け入れるレジデンシー側で済ませておいて、あとは作家が訪れるだけという状態が理想です。もしくは日本の行政や財団などから助成プログラムが組まれていて滞在費用は免除されるというようなものではないと魅力は感じないです。アーティストとしてとなると、やっぱり仕事で行っていますから、お金を払うのは違うんじゃない、という認識です。貸しギャラリーという文化が日本にあると思いますが、それは日本特有の文化です。アーティストがお金を払ってギャラリーを借りて展示するというのは欧州やアメリカでは聞きません。AIRでお金を払うというのは貸しギャラリーのような制度で、世界から見ると標準的な戦略ではないように感じます。本音でしゃべっていますけど、失礼に感じたらすみません。ただその認識を持って初めてスタートだと思います。そのうえで、そのレジデンシーの魅力というのが加味されます。展覧会を行えば、日本の著名なキュレーターなどが訪れる。日本にある海外のレジデンシーのディレクターが訪れるなど、展覧会を開くことでキャリアアップが期待できるコネクションがあるか。その次に、場所特有のおもしろさがあるか、というのがAIRの魅力だと感じます。キャリアアップのためのAIRだと、いまのような見解ですが、世界からマーケットとして認知されていない日本だと、日本らしさや場所特有のエッセンスが強く影響したAIRだとおもしろいと思います。」

AIRを始めようと考えていた私にとっては、かなりハードルが高くなる話に聞こえました。日本が世界のアーティストに認知されるためには、世界のアートマーケットでのシェアを増やさないといけないこと。独自のAIRを行う場合は、行政や財団、もしくは自費で滞在費用などを捻出できるプログラムを有すること。また、日本の著名なディレクター、キュレーター、日本でレジデンシープログラムを行う海外の拠点のディレクターとのコネクションが必要となってくるということ。そのうえでその地域にある日本らしさや特徴が色濃く反映されたものでないと魅力を感じないという。

ここで、一番の問題はお金ではなくコネクションのように感じます。地域と深く接続したおもしろいプログラムだけでは弱く、実績を積み重ねていって得られるコネクションが必要となりそうです。始めるならミニマムで早くから行い、10年、20年後におもしろくなっているようなプログラムを考える必要がありそうです。

(2023年3月27日)

地域とアートの交点 目次

アートと地域の交点を地域側から考える
Q1.「ヨーロッパで活動する作家から見た京都・日本にはどのような魅力があるか?」
対話篇:東野雄樹氏(アーティスト、批評家)
Q2. 地域の活動を支援してきたスポンサーは何を期待するのか?
対話篇:根本ささ奈氏(アサヒグループホールディングス株式会社 コーポレート・コミュニケーション 広報部門)
Q3. 地域を新しい角度で見るプロジェクトを通して醸成されるものとは?
対話篇:曽我高明氏
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