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オリ・パラ契機での文化プログラム推進における国の方針・施策、現状と展望


「外国人のための歌舞伎ワークショップ」女方の演技体験
インバウンド向けのプログラム例。国立劇場では初めての試みとして、歌舞伎の体験型ワークショップを実施。
提供:独立行政法人日本芸術文化振興会

1.文化の祭典としての2020年東京オリンピック・パラリンピック準備経緯

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の招致決定が2013年9月、それから6年が経過し、開催までいよいよ残り10か月を切りました。

2015年に閣議決定された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針2015」では、大会はスポーツの祭典のみならず文化の祭典でもあること、日本には伝統的な芸術から現代舞台芸術、最先端技術を用いた各種アート等多様な日本文化があることが指摘されました。そして、「文化プログラムの推進も含め、こうした多様な文化を通じて日本全国で大会の開催に向けた機運を醸成し、東京におけるショーウィンドウ機能を活用しつつ、日本文化の魅力を世界に発信するとともに、地方創生・地域活性化につなげる。また、障害者の芸術振興については、共生社会の実現を図る観点も含め、障害のある人たちがその個性・才能をいかして生み出す芸術作品を世界に発信するため、大会に向けて障害者の文化芸術活動を推進する。」と宣言されました。

その後、政府では「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議(座長:内閣官房東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局長)」の下、大会組織委員会、東京都等と連携しつつ、東京のみではないオールジャパンでの文化プログラムを推進してきました。

2.文化行政の基本方針と2020年東京オリンピック・パラリンピック

一方、文化行政全体の指針としても、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を大きな契機として捉えています。招致決定以降の動きを以下ご紹介いたします。

<1>文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次基本方針)

2015年5月に閣議決定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次基本方針)」において、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を、わが国の文化や魅力を世界に示すとともに、文化芸術を通じて世界に大きく貢献するまたとない機会と捉えており、リオ大会後から、全国の自治体や芸術家と連携の下、「文化プログラム」を全国各地で推進していくことを謳いました。

ロンドン大会(2012年)の例では、大会の4年前である2008年から、英国のあらゆる地域で、音楽、演劇、ダンス、美術、映画、ファッション等の多角的な文化や魅力を紹介する文化プログラムが実施されました。

日本も、これらの例に学んで、2020年東京大会の開催効果を、東京のみならず広く全国に波及させるため、文化プログラム等の機会を活用して、全国の自治体や芸術家等との連携の下、地域の文化を体験してもらうための取り組みを全国各地で実施することとしました。

<2>文化芸術振興基本法の改正と文化芸術推進基本計画の策定

2017年6月、文化芸術の振興のための基本的な法律である「文化芸術振興基本法」が改正され、「文化芸術基本法」となりました。

わが国社会の少子高齢化やグローバル化等がますます進展する中で、文化の祭典でもある2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催は、文化芸術の価値の創出を広く国際社会に示す重要な契機であるとして、「文化芸術立国」の実現を目指すとともに、観光やまちづくり等を通じた文化芸術の新たな価値の創出を図るため、改正が行われたものです。

「文化芸術基本法」に基づき、文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、2018年3月、「文化芸術推進基本計画-文化芸術の『多様な価値』を活かして、未来をつくる-」(対象期間:2018年度からの5年計画)が閣議決定されました。本基本計画においては、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機に、国内外で多彩な文化プログラムが展開され、国際文化交流・協力を推進するとともに、日本の文化を戦略的かつ積極的に発信し、文化芸術を通じた相互理解・国家ブランディングへの貢献を図ることとしたのです。

3.2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化プログラムの推進体制

では、次に文化プログラムに関する具体の取り組みについて、現状を整理したいと思います。

<1>文化プログラムの認証等の枠組み

文化プログラムの認証等の枠組みは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下組織委員会とします)、開催都市である東京都、そして政府の三者がそれぞれの立場から制度を立ち上げています。

2016年10月からは組織委員会が「東京2020文化オリンピアード」の認証制度(公認プログラム・応援プログラム)を、政府も同年12月から「beyond2020プログラム」の認証を開始しました。

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さらに中心的な文化プログラムの枠組みとして、東京都による「Tokyo Tokyo FESTIVAL」は平成30年2月から公募開始、文化庁を全体統括として政府を挙げた取り組みとして全国で実施する「日本博」は2019年3月に公募・採択を開始しました。ほかに組織委員会による「東京2020 NIPPONフェスティバル」(2020年4月ころ~9月ころまでの実施)があります。

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これらの認証等の枠組みに沿って、現在文化プログラムが推進されています。この中で、政府の取り組みについては「全国での文化プログラム推進」の観点からの取り組みとなっていますので、以下ご紹介いたします。

<2>政府による取組(全国での文化発信の盛りあがりに向けて)

①beyond2020プログラム

2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機とした文化発信を日本全体で推進していくことを目的に、より多様な主体(営利・非営利問わず、オリ・パラ公式スポンサー以外の企業や開催都市以外の自治体も含めた幅広い団体)の事業を対象とした「beyond2020プログラム」認証を実施しています。

内閣官房オリンピック・パラリンピック推進本部事務局を中心として、文化庁・外務省・観光庁等の関係府省庁、政府関係機関、関係自治体等が認証するbeyond2020プログラムは、具体的には①日本文化の魅力を発信する取り組みであるとともに、②障害者にとってのバリアを取り除く取り組み、または、外国人にとっての言語の壁を取り除く取り組みを含んだ活動であることを要件としています。2019年9月27日時点、認証件数は13,843件となり、認証開始以降着実に増加しています。

②日本博

裾野を広くし、多様な主体の参画を可能としたbeyond2020プログラムの取り組みと並行し、文化プログラムの中核的事業として、文化庁が中心となり、関係府省庁や地方自治体、文化施設、民間団体等の関係者の総力を結集した大型国家プロジェクトである「日本博」を開催します。

「日本博」は、総合テーマ「日本人と自然」の下に「美術・文化財」「舞台芸術」「メディア芸術」「生活文化・文芸・音楽」「食文化・自然」「デザイン・ファッション」「共生社会・多文化共生」「被災地復興」などの各分野にわたり、縄文から現代まで続く「日本の美」を国内外へ発信するものです。

被災地をはじめ各地域が誇るさまざまな文化観光資源を活用しつつ、日本全国津々浦々で年間を通じて開催する(*)ことで、地方への訪日外国人を含む誘客を促進し、国家ブランディングの確立と2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会期間中およびその後の観光インバウンド拡充を図ります。

(*「日本博」は、一つの「博覧会」を1カ所の会場で集中的に開催するものではありません。全国の地方自治体、文化施設、民間企業・団体等から提案いただき採択・認証された文化プログラムが、全国各地・さまざまな時期で「日本博」として開催されます。)

文化プログラムの中核的事業として、「日本博」の採択においては、我が国における代表的な文化芸術プロジェクトであること、また独自性や新規性、文化芸術資源の有効活用、インバウンド促進を喚起する取り組みの工夫等、さまざまな観点から審査・評価を行うこととしています。

「日本博」は2020年を中心としつつ、その前後の期間も幅広く展開することとしており、すでに今年度より事業が始まっています。2019年3月には「日本博」旗揚げ式を実施し、「日本博」のロゴマークも発表しました。

2019年9月末日時点、「日本博」はさまざまな企業等の支援を受けた290件超が採択・認証されていますが、2020年度に実施される「日本博」事業は次年度予算での募集となるため、累計では今後更に採択・認証件数が増えてまいります。

<文化プログラムの事例>

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日本文化体験 「日本のよろい!」
日本の甲冑を皮革・漆等の自然素材などで再現し、甲冑製作技術やハンズオン甲冑を安土桃山時代の本物と併せて展示、着用体験などを実施したプログラム。
※本企画展は既に終了

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鎧の着用体験は子供たちにも大人気。
提供:独立行政法人日本芸術文化振興会

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「Discover BUNRAKU-外国人のための文楽鑑賞教室-」
文楽の魅力を解説付きで上演する外国人向け入門公演。他にも歌舞伎や能・狂言で同様の公演が行われている。

<3>文化プログラムの連携体制の確立

前述したとおり、文化プログラムの認証等の枠組みは、政府(内閣官房東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局、文化庁等)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、東京都がそれぞれの立場から推進しています。推進に当たっては、これらの緊密な連携が必要であり、前述の「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議」において調整を図ってきましたが、さらに2018年4月からは実務者レベルでも一体となって機運を醸成し、文化の質の向上等を図り、大会後のレガシーを構築していくことを目的として「文化プログラム連絡会議」が設置され、これまで5回の実務者会議を実施し連携を図っています。

4.文化プログラム推進の現在地と課題

各枠組みにおいて採択・認証されたプログラムも出揃いつつあり、特に文化関連事業者の皆さまへの認知度は向上してきているものと思います。一方、文化関連以外の方々への認知度は決して高くないのが現状です。

文化を通じた機運醸成の成功には、文化プログラムの数と質の向上はもちろん、入場者、参加者が増え日常の話題に上るような盛りあがりが重要です。

そのためにも今後の最大の課題は、いかに文化プログラムの開催・公演情報や、その楽しさを伝え、日ごろ文化プログラムへの関心が高くない皆様にも興味を持ち参加してみようと思わせられるようなプロモーションを行っていくかであり、たとえば「日本博」においても、2020年に向けこれからプロモーションが本格化していく予定となっています。

現在、文化プログラムの情報発信の面では、現在文化庁で試行的に運営している文化プログラムポータルサイト「Culture NIPPON」において、文化事業の公演・開催情報を各事業者が自主登録でき、誰でも閲覧できる環境を構築しています。

本サイトに2018年9月末で登録された文化プログラム数は累計約1万件であったものが、2019年9月には登録件数が1万9千件に達し大幅な増加となり、PV数平均も飛躍的に上昇していますが、さらに一般的に認知され利活用されるポータルサイトを目指し、ユーザビリティの改善と認知度向上を図っています。

5.今後の展望

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、東京都、そして政府、更に各々の文化プログラムを実施する多様な事業者が今回を契機に試行錯誤の上文化プログラム推進に取り組むことは、その経験が正にレガシーとして文化芸術立国確立に向けた財産になるものだと考えます。

また、2020年、文化プログラムの実数は日本において過去最多の件数が開催されるものと思われますし、高品質な文化プログラムも多数開催されます。今後プロモーションを強化し周知を図ってまいりますが、この機会に文化プログラムに参加いただいた企業や皆さま個人個人が日本文化の魅力を再発見することで、「またほかの文化プログラムに参加してみたい」「次はほかの地方の文化プログラムにも行ってみたい」などと率直に思っていただき、全国で参加機運が高まっていくことを期待しています。

(2019年10月15日)