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アートマネジメントとは



1.芸術文化と現代社会のかかわりの探求と実践

 展覧会、演劇公演、ダンスや音楽コンサート、フェスティバル、文学、映画、写真、メディア・アート......、そしてデザイン性あふれる家具や道具、オブジェや空間、建築といったものまで含めて考えてみると、現在ほど「アート」あるいは「芸術」が社会のあらゆるところに存在している時代はない、と言うことができるでしょう。

 では「アートマネジメント」と聞いてみなさんは何を想像するでしょうか。
 展覧会の企画や準備、演劇や音楽の稽古場確保やチケット販売、資金集め、広報や市場調査、あるいはホールの維持管理など、展覧会や公演、イベントやコンサートを成り立たせるための作業、そしてそのノウハウやスキルといったことがすぐに思い浮かぶかと思います。もちろん、こうしたアートの現場における実践的な技能はアートマネジメントの重要な柱です。しかし、これらを積み重ねて整理するだけでは、今日盛んに言われる「アートマネジメント」という言葉に込められてきたもう一つの重要な柱を見落とすことになりかねません。

 ここでいきなりですが、この分野をリードしてきたお一人である、慶應義塾大学の美山良夫教授によるアートマネジメントの定義を紹介したいと思います。

「芸術・文化と現代社会との最も好ましいかかわりを探求し、アートのなかにある力を社会にひろく解放することによって、成熟した社会を実現するための知識、方法、活動の総体」[*1

 アートにどのような力があり、現代社会において芸術・文化がどうあるべきか。ここでは常に、社会におけるアートの役割や機能、存在のあり方を探求するという視点が重視されています。そしてその探求と実践がともにあるという点が今日言われるところの「アートマネジメント」の特徴です。いきおいその力点は「芸術と社会の関係」におかれ、演劇や美術といった個々のジャンル・形態のマネジメントというよりも、地域におけるアート・プロジェクトや文化振興、企業との協働、子どもへのアプローチ、ボランティア、国際交流といった視点に注目が集まります。そしてさらにその先には、「成熟した社会を実現する」という大きな目的も掲げられているのです。

2.日本における「アートマネジメント」の背景

 では、日本において「アートマネジメント」が唱えられてきた背景を概観してみたいと思います。大ざっぱに言ってしまえば、それまでアーティストや芸術団体の「好き勝手」で存在していた(かに思われていた)アートが、次第に社会的・公共的な枠組みの中で意識され、またその担い手や支援方法が多様化していく中で、社会や一般の人々との接点を強く意識した「アートマネジメント」という考え方が広がっていく、ということになります。

<公立文化施設の増加>

 日本でこうした考え方や実践が少しずつ注目されるようになったのは、各地に「公立文化施設」と呼ばれる施設----誤解を招きやすい語法ですが、関係者の間では「公立文化施設」とは「○○市文化会館」「○○市民ホール」といった演劇や音楽、ダンスなどの舞台芸術を基本とする公立の劇場・ホールを指します----が大量に設置され始める1980年代以降であると言ってよいでしょう。
 美術館に関しては、1951年に制定された「博物館法」を始めとして、法的根拠や設置運営の基準が存在し、役割や事業内容、また必要な施設や職員などが定められていました。しかしこの「公立文化施設」についてはそれがなく、各自治体が施設内容や運営方法を自ら見出していく必要があったのです。日本では基本的に舞台芸術の活動は民間によって行われてきており、自治体にはこうした活動や劇場・ホール運営のノウハウを持った人材もいなければ、何をどのように行えばよいのかといった基準や「前例」もありません。立派な施設は作ったけれど、有効に使えず使われない----いわゆる「箱物行政」といった批判も出るなか、本来「地域の芸術文化拠点」たるべきこうした施設の事業を担う人材の必要性が唱えられ、全国的規模の研修会なども開催されるようになりました。

 とはいえ、この頃はまだとにかく文化事業のノウハウを学ぶことが中心で、アートマネジメントという言葉も使われていなかったかと思います。

<芸術文化支援の増加と多様化>

 続く90年代には、施設増加という流れとともに、公的な芸術文化支援の仕組みが組み立てられていく、という展開が見られます。バブル経済の崩壊といった社会状況の中で、芸術や文化を社会が支える仕組みを改めて模索し、制度化し、運用していく時期です。90年には、政府と民間が資金を出し合い、さまざまな芸術文化活動に助成を行う「芸術文化振興基金」が創設されました。企業による芸術文化支援の推進を目的とする「社団法人企業メセナ協議会」も設立されています。94年には、芸術文化活動を通しての地域づくりを支援する「財団法人地域創造」が自治省のイニシアティブのもと全国の地方自治体などによって設立されました。文化庁の予算が大幅に増えたのもこの時期です。

 芸術文化活動や文化施設運営が、こうした「支援」や「助成」を基本とする枠組みとともに展開されるようになり、芸術文化活動がなぜ支援を受けるのか・なぜ支援するのか、行政や企業、そして芸術団体の役割は何かといった議論が盛んに行われます。欧米から紹介されたアートマネジメントという考え方も広まっていき、大学や民間の講座などでも数多く取り上げられるようになりました。またこの時期、単に公演会場として貸し出すだけでなく、アーティストと共に創造活動に積極的に取り組んだり、地域の特徴をいかした運営を行ったりする公立文化施設も多く見られるようになっていきます。

<アートの担い手や方法の多様化、まちづくりへの展開>

 ところで、芸術文化活動とは、アーティストが作品をつくる、あるいは劇団やオーケストラが公演するといったものだけではなく、また、文化会館や美術館などの施設で行われるものだけでもありません。アート作品やアーティストを媒介に、時に公園や廃校、商店街や歴史的建造物などを生かし、参加する人々にさまざまなやりとり・コミュニケーションをもたらす「アート・プロジェクト」といったものも近年盛んに行われるようになりました。自ら「する」(演奏する、描くなど)、「みる」(鑑賞する)だけでなく、「関わる」あるいは「支える」といったさまざまな方法で芸術や文化に接する人や団体も増えてきています。こうした場をつくりだす活動はアートマネジメントの考え方を当初から内包し、NPOといった形態に代表される新たな市民活動の興隆とともに各地で盛んになっており、アート・シーンにおいて、そしてアートマネジメントの世界においても非常に重要な位置を占めるに至っていると言えるでしょう。

 そして最近では、アートの本質とも言うべき「創造性」への注目が都市論・都市政策、まちづくりなどの分野からも強く集まってきています。中心市街地の空洞化や少子高齢化といった社会状況の変化、ITを始めとするテクノロジーの進歩、はたまた国際社会の情勢変化といった中で、アートに突きつけられた課題、期待される役割は以前にも増して大きいと言えるのではないでしょうか。地方自治体の財政難や指定管理者制度の導入といったアートと社会の関係に直接関係するような事態も生じています。

 ややもすればアートが窒息してしまいかねない現代において、アーティストや市民、行政、企業などをつなぎ、アートの進むべき道を探求し、実際に切り拓き、社会を築いていくアートマネジメントには、今まで以上にその可能性と使命が問われ、期待されていると言えるのかも知れません。

次項では、アートマネジメントという概念が欧米で生まれた背景や、その教育や研究などを参考に、アートマネジメントの具体的な要素や担い手について紹介します。

[註]
  1. 「アート・マネジメント教育の展開--慶應義塾における教育と研修の現場から」(『アート・マネジメント』(ブックレット03)、慶應義塾大学アート・センター、1998年)

(2006年8月10日)

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2004年

アートは社会のなかでどのようにマネジメントされるべきか。
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アートマネジメント入門 目次

1
アートマネジメントとは
2
アートマネジメント教育の展開
3
アートマネジメントの課題
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