ソノ アイダ(後編)─ 都市以外での活動、そして
このリレーコラム初回で「ソノ アイダ」の起こりから都市での活動までの変遷を紹介しました。そして第2回以降、さまざまな方に「ソノ アイダ」についてそれぞれの見方、気づき、愛のある言葉をいただきました。この場を借りて感謝を申し上げます。後編(最終回)では、都市以外での活動の紹介と、10年の活動で見えてきた「ソノ アイダ」の態度についてお話ししたいと思います。長くなりますがご容赦下ください。
ソノ アイダ#東京大学

ソノ アイダ#東京大学(東京大学アートセンター 01_ソノ アイダ)外観、東京大学本郷校地
2024年12月から4カ月間、東京大学芸術創造連携研究機構(ACUT)が主催し、東京大学本郷校地内の建て壊し予定物件での実験的な「ソノ アイダ#東京大学」を共催。予算はないが、都市(開発の狭間やまちづくり)ではない新たな設定と、東京大学で我々のアートがどう振る舞えるのか興味があった。予算はおろか電気、エアコンがない状態から始まる。しかし「ソノ アイダ」のアーティストたちは逞しい。冬のエアコンのない東京大学で制作しているだけではなく「東京大学内での活動」というブランディング含め、人を呼び、意味をつくり、それぞれのやり方で自分の居場所を構築した。中には偶然見にきた東大生と協力し、新しい作品を開発し発表した好例もあった。ACUTとしても東京大学初のアートセンターとなり、合計8人のARTIST STUDIOプログラム、9つの異業種間トークやイベントに挑戦。「東大の人間はアートを定量化したり定義しようとする」と思われがちだが、答えを持たない我々をおもしろがって受け入れてくれた。そもそも東京大学は芸術家を輩出するための大学ではない。総合大学の一部に美術史やアートを活用する研究室があり、専門性は個々あれど、アート(美術、音楽、詩、パフォーマンス含め)を広義にとらえている。逆に、我々藝大美大のいうの日本の現代美術という価値観は狭義で、同じ「アート」という言葉の指すズレは大きい。その中で「ソノ アイダ#東京大学」を、ボリュームを持って見せることができたことで、振幅のある対話、相互理解が深まった。学生たちの自然な交流が今も続いてることが何よりの成果である。

ソノ アイダ#東京大学 会場づくり 電気がきていないので自立照明(DEWALT提供)

レジデンスアーティスト 野村在

レジデンスアーティスト 柳原絵夢

レジデンスアーティスト 原千夏
ソノ アイダ#前橋

ソノ アイダ#前橋 前橋プラザ元気21、群馬県前橋市
「ソノ アイダ#前橋」は、群馬県事業の群馬パーセントフォーアートの一環として、2025年2月から年度末までの2カ月間、アーティストは相澤安嗣志、岩村寛人の2人、前橋市中心部の前橋プラザ元気21を会場に、東京以外で初めての「ソノ アイダ」。前橋中心部は再開発の狭間で、アーツ前橋やSHIROIYA HOTEL、まえばしガレリアなど、アート関連施設も多い。来年には前橋国際芸術祭2026も控え、その中でアーティストの作品制作活動は新しく、一定の評価があった。一方、東京のようなトラフィックはない、人々のアートへの関心も低く、知り合いがフラっと立ち寄ることもない。SNSでの活動周知による集客は成立せず、挨拶周りやチラシ配り的な地道さが必要になる。アーティストの宿泊場所問題など、いわゆるアーティストレジデンスの運営部分に苦戦。都心では、空きスペースを持つクライアント、活動とつながりを拡充するソノ アイダ、多くの出会いや機会を得るアーティスト、という三方よしが成立してきたが、地方ではなかなか難しい。それでもアーティストたちの踏んばりで、応援者も増え、場所として温まってきた。2025年度も継続の前提で準備をしてきたが、東京ベースの僕には安価な宿泊拠点施設を見つけることができず、県側の年度人事移動で担当も変わり、あっけなく白紙撤回。そして、年度内に即時撤収となり、がんばってくれていたアーティストには申し訳なかった。「ソノ アイダ」は人の情熱や偶然を基盤にする脆く吹けば飛ぶような活動だ。その情熱の共有が地場の協働者とできないと、このように上手くいかないこともある。


ソノ アイダ#前橋 成果展 岩村寛人

ソノ アイダ#前橋 成果展 相澤 安嗣志
ソノ アイダ#カシマスタジアム

鹿島スタジアム 茨城県鹿島市 撮影:宮川貴光
鹿島アントラーズが運営する鹿島スタジアム(茨城県鹿島市)を舞台とした「ソノ アイダ#カシマスタジアム」を提案。新設鹿島スタジアム建設計画と周辺開発を背景として、コンセプトは「STADIUM to MUSEUM」。鹿島アントラーズが引っ越すまでの間に、現スタジアムにさまざまなアート作品を設置し、ART MUSEUM(厳密には美術館ではないが)に変貌させようという意欲的な提案である。第1弾として自身の壁画作品『Perpetual Energy #02』を2025年1-2月で制作し、発表された。幅54m高さ6m、抽象絵画として提案、解像度が高く、7人体勢で4週間合宿状態と手間がかかった。ここですばらしかったことは、鹿島アントラーズのスポンサーである地元企業の方々に足場、宿泊施設などを協力いただき、日本ペイントさんには塗料をスポンサードいただいた。このようなかたちでプロスポーツチームとアートが一緒に協働するケースは日本では初めてではないだろうか。週末イベントがメインのスポーツスタジアムなどの施設は基本的に稼働率が低い、スタジアム × アートで恒常的に人が訪れる可能性はある。大型作品や、スタジアム内にアーティストスタジオをつくる提案など、大空間に夢は尽きない。

「Perpetual Energy #02」藤元明 2025 鹿島スタジアム

「Perpetual Energy #02」右部分

「Perpetual Energy #02」左部分
ソノ アイダ#真鶴

ソノ アイダ#真鶴 成果展「PICK UP」
真鶴アートサイト(神奈川県真鶴町)との共催で、2025年8月から9月の2カ月間限定で実施。大学の夏休み期間は長く、制作環境をもたいない学生アーティストの発表の機会を創出。 作田道隆(東京藝術大学彫刻科)と茶圓颯(武蔵野美術大学彫刻科)がオープンスタジオをベースに制作、会期後半に成果展「PICK UP」を開催。また、屋台やワークショップ、合宿サロンなどの関連企画を実施。東京から約1時間半の距離、目の前に美しい海岸があり、合宿所のような環境に多くの学生仲間が繰り返し集まった。「ソノ アイダ」としても若者とのつながりは重要で、海水浴やBBQ、夜中まで一緒に飲んでアートを語るなど体験をともにした。自分がオジさんになったことを痛感するのだが、次世代との交流は尊い。彼らとは今もつながっている。

ソノ アイダ#真鶴 成果展「PICK UP」会場全体 撮影:茶圓聖名

ソノ アイダ#真鶴 成果展「PICK UP」 左:作田道隆 右:茶圓颯 撮影:茶圓聖名

ソノ アイダ#真鶴 成果展「PICK UP」 野外展示 作田道隆

ソノ アイダ#真鶴 BBQ
解体とアート
初回で紹介した「TOKYO 2021」(2019年)というプロジェクトのコンセプトは「開発とアート」であった。日本橋での「ソノ アイダ#TOKYO MIDTOWN」を実施中に紹介いただいた「都市テクノ」という解体業をメインとしたグループ会社に2024年から活動にスポンサードいただいている。代表の島村氏の「解体は終わりではなく始まり」という言葉にピンときた。都市テクノ自身もこれまで「解体祭」などの企画を行なっていて、我々との親和性は高い。思えば都市の新陳代謝の中で建物の数だけ解体がある。「ソノ アイダ」が可能な隙間は無数にあり、彼らはその直接情報をもっていて、今後「解体とアート」の可能性は無限ともいえる。

都市テクノと解体現場を視察、可能性を探る
アーティストについて

ソノ アイダ#有楽町 / 新有楽町 ARTIST STUDIOの様子 2020-2022
根本的な問題として、日本でのアーティスト(ここでは現代美術作家とする)は一般的にほとんど理解されていない。そしてこの10年、「ソノ アイダ」で相当数のアーティストと生の接点があったが、有能無能に関係なくそのほとんどがお金に困っている。業界全体でプレーヤー数に対してお金が足りていないとは理解しているが「移動にお金がかかるので、昼食は抜いてます」と直に聞くのとはリアリティが違う。ではアーティストはどのモチベーションでアート活動を続けるのか? 自己表現が楽しい、承認欲求もある、しかし根本的には自分自身への投資を、いつか評価され、回収できると信じているからである。投資というのは未来に対しての「意志」であり、その意志表明が「作品」である。そして責任ある言葉や振る舞いが「アーティスト」の人格として現れる。加えて「キャリア」が合わさりアート作品の価値がつくられる。日本社会では「答えの見える安全なもの」しか買わない傾向が強く、「問い」を生み出すアーティストとは相性が悪い。アート活動とは、個人が顔と名前をかけて「他人」のために行う行為で、公共性との共存が難しい。それでもアーティストたちは自分の名にかけて全力で活動し、時に応援されれば金額以上の状況をつくり上げる。

ソノ アイダ#TOKYO MIDTOWN AWARD ARTIST STUDIOの様子 2023-2024

ソノ アイダで催されたトークの様子
「ソノ アイダ」はアーティストたちが発表機会を求め、自分たち自身で応援し、生き残るための処世術である。小中高大、OBになってもチームスポーツを続けてきた自分としては「ソノ アイダ」は部活っぽいと思っている。部活動は、わざわざ部費を払ってまで辛いことをする。それはチームの「勝利」という共通モチベーションで自らを提供する。アートは試合会場も少なく、公式戦に出場する機会はほとんどない。そして「勝利」の定義も共通ではない。「ソノ アイダ」はアーティストそれぞれの野心がエンジンであるが、リスクを持ち寄っているので不思議な連帯感がある。アーティストたちが場所・時代に合わせた「行動の公共性」を自律的に制作し、作品だけでなく作家本人と合わせて表現していて、オーディエンスも見に来るというよりも、自然と集まって来るという感覚に近い。組織としての固定メンバーも思想もないが、どの時代にも、どの都市にも、世界の制度に対抗する「自由」の表象として「ソノ アイダ」のようなアート活動がある。昨今、SNSで私的表現が一般化し、デジタル公共圏といわれる一方で、共通世界の崩壊ともいわれている。「ソノ アイダ」は公共空間の再演出的見え方もあるが、世界を変えるよう行為ではない。あくまで隙間から世界のリアリティを表象化する。これからも人が他者に対する普遍的な「始まりの創造」行為として、自分がいなくても活動が継続すれば本望である。

ソノ アイダの日々の一コマ
今後の予定
「AFJ OPEN STUDIO 2025 -Newfound-」に参加しています。
会期;2025年10月11日(土)~11月24日(月)
時間:11:00~17:00(最終入館は16:30まで)
会場:ART FACTORY城南島(東京都大田区城南島2-4-10)
参加アーティスト:
新垣美奈、遠藤保子、大坪晶、大野公士、影山萌子、ギル久野、久野彩子、桑山彰彦、さとうくみ子、當眞嗣人、中島裕子、中野美涼、野中美里、早崎真奈美、平石萌、婦木加奈子、藤田クレア、藤元明、藤原京子、星川あすか、YOCHIYA(五十音順)
「南端東京 OTA OPEN STUDIO 2025 OPENING EVENT」に参加します。
トークセッション「Between A and B」ー"つくること"に向き合うこと、またそれを目の当たりにすることとは?ー
第一部:会田誠/類設計室/三木仙太郎/中島崇/荻野祐子
第二部:藤元明/ギル久野/藤田クレア/河合政之
第三部:OPEN PRESENTATION
日時:11月15日(土)17:00-20:00(終演後交流会有り)
会場:類設計室Soil(大田区蒲田5-38-3 朝日ビル3F)
参加費:一般/1,500円、大学生/1,000円、ペアチケット/2,000~(2名様以上同時にお申し込みで何名様でも1,000円/人)
おすすめ!
Instagram: 藤元 明 (@akira_fujimoto)
