都市の新陳代謝の中で生まれたソノ アイダというアクション
今回のリレーコラムでは、スーパーバイザーにアーティストの藤元明さんをお招きして、藤元さんが主催するアートプロジェクト「ソノ アイダ」の活動をご紹介します。第3回は建築家の永山祐子さんです。
「ソノ アイダ」とは
空き物件・解体予定建物などの都市の隙間を空間メディアとして活⽤するアートプロジェクト。2015年から藤元明を中⼼にアーティストたちが自主的に集まり、都市における⼤⼩さまざまな空間的・時間的隙間＝“その間（アイダ）”を⾒出し、さまざまな試みやアーティストたちの活動の場を創出してきた。主な企画に、2019年『TOKYO 2021』（旧戸田建設本社ビル）では「開発とアート」をテーマに大規模なアートイベントを実施、2022-2023年『ソノ アイダ#新有楽町』（新有楽町ビル）、2024年『ソノ アイダ#TOKYO MIDTOWN AWARD』（日本橋室町162ビル）では、ARTIST STUDIOとしてアーティストのいる景色をまちに提供する一方で、アーティストにフォーカスし、都心にアーティストスタジオやワークショップを展開。2025年『ソノ アイダ#東京大学』『ソノ アイダ#前橋』、『ソノ アイダ#鹿島スタジアム』と都市以外にも展開する。これまで「ソノ アイダ」には延べ100人を超えるアーティストが参加してきた。
ソノ アイダのおもしろさは都市の新陳代謝の中で必ず生まれる、次に生まれ変わるまでの宙ぶらりんになった時間と空間をジャックするところにある。それもアーティストが主導で行う活動だ。アーティストは今まで大きなアトリエを求めて東京近郊、あるいはさらに大きな場所を安価に得やすい地方へ、その制作の場所を移してきた。当然ながら作品がつくられる過程を見ることは稀である。よっぽどそのアーティストが好きでわざわざアトリエに遊びに行かない限りは見ることがない。それを都会のど真ん中にふと生まれた空間的時間的余剰に、滞在制作し、展示し、販売するという。
藤元から最初にアイデアを聞いたときはとてもおもしろいと思ったし、なんだか建築のテーマに通じるなと思った。都市の余剰を活かすような提案は建築の世界でも度々されてきた。しかしながらそれは空間提案なので中身の活動としての提案が曖昧なのが問題なのだ。時々若い建築学生の卒業制作などで都市の隙間を使って拠点をつくるような提案を見たりするが、いつもそういった提案を聞いたときに私が思わず投げかける質問は、誰が？ どのお金で？ どうやって継続していくの？ しかもソノ アイダが難しいのはその瞬間的に生まれた余剰の時間が期間限定なので、話が持ち上がってからかなりスピーディーに対応しなければならない。
ソノ アイダ#新有楽町「コントロールX：切り取りの制御」藤崎 了一 / Hogalee
こういったおもしろい活動のアイデアが実現するか否かは2つの大切な要素が揃っているかにかかっている。一つは人、継続的にパッションを持ってかかわり続ける人がいるか？ もう一つはお金、資金提供があるのか？ ソノ アイダの場合は最初の「人」に関しては藤元明本人のパッションに依存している。「お金」に関してはさまざまだ。最初はスペースを持っているオーナーさんのご厚意。そのうちに都市開発の流れの中で生まれた余剰空間を使うようになってからは藤元の思いに賛同してくれたアトムの青井茂さんのアートへの思いが大きい。
私が最初に感じたとてもいいアイデアだけど続けていけるのか、という心配をよそにソノ アイダはすでに2015年からの10年間で、16箇所で100名以上のアーティストがかかわってきた。しかも東京の地価の高い中心地も含めてである。藤元のパッションにもよるところが大きいが、皆何らかの可能性を肌で感じているからだと思う。時に会場場所となったのは開発を待つエリア。開発とアートの本質的な相乗効果は何なのか、ということを都市開発の建築にかかわることのある私も考えさせられることがある。まずアーティスト側にもたらした効果は何度も目にしてハッとさせられた。いつも自分のアトリエでこもって制作する彼らはあまり人に晒され説明を求められることは少ない。都市のど真ん中で制作していると否が応でも説明をしていく必要がある。そんな中で徐々にコミュニケーションの方法を見つけていく姿をみた。
また、木彫の森靖さんのように、騒音や木屑の問題があり、制作方法を模索し、粘土という新しい表現方法に行き着いた例もみた。それぞれのアーティストが最初はその状況に戸惑いながらもその場所性を活かして制作していく姿は逞しく、そしてその姿はまさに都市そのものを体現する表現者としての本来のアーティストの役割を見たようにも思った。アーティストは滞在の中で変わっていくが、それを都市開発側はどのように受け止め活かすことができるのか。そこが次の課題である。完成までに数年かかり、さらにはそこに数十年もあり続ける建築のような創作は都市の目まぐるしく変化する空気感を反映することは難しい。アーティストはそこから時間とともに消え去っていくそこにある空気を作品の中に定着させていく。都市の実験と体現、これを受け止め、活き活きとした、常に活動し続ける人間を中心とした都市となってくれることを願っている。
森靖さんによる制作の様子
関連リンク
2025年5月8日（木）、初の作品集『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』がグラフィック社より刊行されました。
2025年大阪・関西万博のパナソニックグループパビリオン「ノモの国」、ウーマンズ パビリオンをはじめ、LOUIS VUITTON 大丸京都店、豊島横尾館などの初期作、近作のドバイ万博日本館、東急歌舞伎町タワー、松坂屋名古屋店、現在進行中のTOKYO TORCH Torch Towerまで45作品を収録。Recipeページを加え、プロジェクトの発想の源、設計プロセスにおけるエピソードを記しています。巻末には寄稿として、五十嵐太郎氏（建築史家・建築評論家）による「現象をもたらすかたち」を収録。ブックデザインは、脇田あすか氏・山口日和氏が手がけています。
https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=59811
次回執筆者
青井 茂さん
バトンタッチメッセージ
青井茂さんには古くから自分のアート活動を応援いただいていて、ご自身が経営する不動産業でも常に新しい挑戦をされています。ソノ アイダとしても大きな転機となった2021年末からの「ソノ アイダ#新有楽町」（三菱地所、新有楽町ビル1階）では、取り壊しまでの2年間、株式会社アトムで主催・協業していただきました。本当に沢山のアーティストが参加し、OUTSCHOOL、META FAIRなどさまざまな挑戦がありましたが、どのような可能性を見出していたのでしょうか？