ネットTAM


3

手話狂言は世界に咲く笑いの華

アートにおけるアクセシビリティ」をテーマにバトンをつなぎ、誰もが芸術文化の鑑賞をはじめ、参加、創造することができる社会に向けて、創意工夫をこらし日々取り組まれている活動や方々を広くご紹介し、アートにおけるアクセシビリティの現在地からその意義や必要性を考えるきっかけを創出します。

第3回は社会福祉法人トット基金が運営する日本ろう者劇団による「手話狂言」を事務局長の小池紀子さんにご紹介いただきます。

手話狂言とは、日本の伝統芸能である狂言を「手話」で演じるもので、トット基金の理事長である黒柳徹子さんが発案され、狂言師の三宅右近さんの指導・協力のもとに実現した上演形式です。古来より継承された狂言特有の動きや運びをそのままに、台詞を日本ろう者劇団の俳優による手話と、PAを通した三宅狂言会の狂言師たちによる声で、表情豊かに表現。声の聞こえる人も聞こえない人もともに楽しめる演劇を通して、手話の魅力と演劇のすばらしさを伝える同劇団独自のレパートリーの一つです。

手話狂言は1981年の基金創設時より長年続く活動で、当時より障がい者自ら芸術活動に参加、創作・表現する場をすでに実践し、いまなお進化し続けています。狂言の特有の動きが手話の表現と相まって、誰でも楽しく鑑賞できる希少な作品形式となっており、舞台で生き生きと演じる役者たちとそれを支える狂言師たちの熱量が、古典芸能の枠を拡張し、今に活きる芸能として再生されています。ぜひお読みください。

今回のテーマ企画には第1回でご寄稿いただいたアーツカウンシル東京の大塚千枝さんと、NPO法人エイブルアート・ジャパンの柴崎由美子さんをはじめとする皆さまにご協力をいただいています。

狂言「六地蔵」国立能楽堂 日本ろう者劇団「手話狂言」
2021年8月1日 東京2020オリンピック・パラリンピック共催文化プログラム

2026年1月24日・25日に、社会福祉法人トット基金では国立能楽堂において第45回「手話狂言・初春の会」を開催しました。上演曲は「呂錬(ろれん)」、「武悪(ぶあく)」、「茸(くさびら)」の三曲、舞台いっぱいに笑いの華を咲かせました。日本最大の国立能楽堂は両日とも満席。初春に、手話狂言を見るのを楽しみにしている観客は増え続けています。

第45回「手話狂言・初春の会」2026年1月24日公演に向けて、上演演目の『茸』紹介動画
日本ろう者劇団ブログより

手話狂言とは、耳の聞こえない演者が自ら手話でセリフを語り、狂言師が観客から見えない位置から生の声で発声することにより、聞こえる人も聞こえない人も、ともに楽しめる狂言を実現したものです。「手話」と「狂言」を合わせた「手話狂言」ということばにより、2年前に商標登録をしています。

狂言指導は43年前の創設時より、和泉流狂言師三宅右近。演者はトット基金が運営する日本ろう者劇団の俳優たち、声の出演は三宅狂言会の狂言師がつとめます。

手話は、2021年の東京オリンピック・パラリンピックを契機として、「表現力豊かな魅力ある言語」にイメージチェンジを果たし、いま社会で躍動しています。映画、TV、演劇においては「手話」や「ろう者」を題材にした作品が続出、各所の手話教室の受講者も急増しています。昨年11月に「東京2025デフリンピック」が開催され、世界各国からろう者のアスリートや関係者が東京に結集しました。開会式では日本ろう者劇団代表が、国歌「君が代」を手話で披露。選手村となった「デフリンピック・スクエア」では選手や一般の観客を対象に手話狂言を上演しました。開会式には秋篠宮ご一家もご臨席になり、その様子をご覧くださいました。手話がご堪能な秋篠宮皇嗣妃殿下ならびに佳子内親王殿下は、折あるごとに手話狂言をご観劇になり、演者たちを励まし続けてくださって、ろう者の活動の大きな支えとなっています。

出典:政府広報オンライン「内閣府 手話に関する施策の推進」

2025年6月に「手話施策推進法」が制定され、「9月23日は手話の日」と定められました。
2013年に仏ランス市で隔年開催されるろう者の国際芸術祭「クランドイユ芸術祭(=Festival Clin d’Oeil)」に招聘され、手話狂言を披露した際、筆者には大きな発見がありました。フランスでは1980年代にパリのIVT(International Visual Theatre)などによる演劇活動が盛んになり、演劇が、ろう者が自らのアイデンティティを確立させるベクトルとなってきたことが、すでに定説となっていたのです。 奇しくも同じく1980年代に日本でも、アメリカの「ナショナル・シアター・オブ・ザ・デフ」の影響により、日本ろう者劇団を中心に演劇活動が全国に広がり、演劇活動はろう者の社会参加の道しるべともなってきました。現在の演劇活動の盛り上がりは、演劇好きのろう者の志向(及び嗜好)と、表現力豊かな手話が、元来演劇的であることに根ざしていると考えています。

出典:政府広報オンライン「内閣府 手話に関する施策の推進」

手話狂言の発案者はトット基金理事長でユニセフ親善大使の黒柳徹子です。1983年にイタリアのパレルモで開かれた「世界ろう者会議」に、手話狂言を出品したのが始まりでした。出品の話があったとき「狂言がいい!とすぐに思った」と黒柳。「狂言は短いし、世界中の人に笑って貰える」と閃いたそうです。

日本が世界に誇る古典芸能の強靭さと、手話の豊かな表現力を併せ持つ手話狂言は、聞こえる人も聞えない人もともに楽しめる演劇として出発し、世界各地での公演活動により、障がいの有無や国籍の違いにかかわらず、誰もが楽しめる演劇に進化しています。これからも、日本各地、世界各国でより多くの人々に手話の魅力と演劇のおもしろさを伝え、広める活動を続けていきます。

(2026年1月27日)

【手話狂言受賞歴】
1987年 昭和62年度(第42回)芸術祭賞
2002年 内閣総理大臣表彰
2022年 法政大学能楽研究所より「第31回催花賞

アートにおけるアクセシビリティの可能性 目次

1
アクセシビリティの広がり:これまでとこれからに向けて
2
障がいと演劇にアクセスの道をひらく 鳥の劇場のやってきたこと
3
手話狂言は世界に咲く笑いの華
この記事をシェアする: