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障がいと演劇にアクセスの道をひらく 鳥の劇場のやってきたこと

「アートにおけるアクセシビリティ」をテーマにバトンをつなぎ、誰もが芸術文化の鑑賞をはじめ、参加、創造することができる社会に向けて、創意工夫をこらし日々取り組まれている活動や方々を広くご紹介し、アートにおけるアクセシビリティの現在地からその意義や必要性を考えるきっかけを創出します。今回のテーマ企画には第1回でご寄稿いただいたアーツカウンシル東京の大塚千枝さんと、ネットTAMでもおなじみのNPO法人エイブルアート・ジャパンの柴崎由美子さんをはじめとする皆さまにご協力をいただいています。

第2回は鳥取県鳥取市鹿野町の廃校になった小学校と幼稚園を劇場に変えて、2006年から演劇活動されている鳥の劇場の立ち上げをされ、現在芸術監督をされている演出家の中島諒人さんです。2023年より取り組まれている障がいのある人の生活・思い・想像を演劇台本にする「みんなが書く戯曲のコンテスト」の活動をご紹介いただきます。同コンテストは物語に障がい者が登場する作品もしくは障害者手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)の交付を受けている方が書いた作品であればどなたでも応募することができます。はじめて書く人には作品づくりのサポートをし、一次選考を通過した人にはプロの劇作家による伴奏支援があるなど、参加しやすく間口を広げたり、一次選考通過作品は英訳され、今年度の応募では2026年春のNY・クイーンズシアターでのリーディング上演の候補になるなど、戯曲を書くというアクションの先の可能性も広げ、実に細やかに配慮されたコンテスト。

中島さんに鳥の劇場のこれまでと、この活動を通して今後の展望を綴っていただきました。劇場と演劇を通して見出されるアクセシビリティの可能性とは? ぜひお読みください!

私が同志とともに2006年に鳥取市鹿野町に設立した鳥の劇場は、鳥取という少子高齢化・人口減少の進む人口最小県にあって、演劇・劇場文化が、町・市・県・国などさまざまなレベルのコミュニティーに対してどんな貢献ができるかを中心的活動課題としながら、演劇創作と上演を中核に置き、多彩な事業を実施してきました。大都市においては、演劇が富裕層や若年層の趣味的消費の対象になりがちな状況の中、人々の心をつなぎ、人の心を育て、地域の誇りや未来を創造していく場としての劇場のあり方を模索しています。本稿でご紹介するのは、我々が展開してきた「演じる」から始まり、「戯曲創作」へと展開する、障がいのある人の「演劇」へのアクセス保障に向けた挑戦の過程です。

鳥の劇場施設外観

「じゆう劇場」の始まり

2013年あたりですが、劇場近くに知的障がいの方のための施設があり、そのスタッフの人より「演じるのが好きな利用者の人がいるんだけど、何かできないだろうか」との相談がありました。障がいのある人との演劇創作はもちろん経験ありませんでしたが、ともかくやってみようと試行を始めました。これが種となり、2014年に厚労省主催の「全国障がい者芸術文化祭・鳥取大会」が開催されたのも後押しとなって、鳥取県内の障がいのある人に集まってもらい、「じゆう劇場」のプロジェクト名で『三人姉妹』(チェーホフ作)を上演することができました。同大会のメイン演目としてでした。「じゆう」を名に冠したのは、人間にとって最も大切なことの一つが「自由」であるのに、障がいのある人にはそれが十分に保障されているのか?という課題意識があったからです。十分な選択肢があり、自分にとって必要なものが選べる、環境と意思のかけ算によって生まれるのが「自由」です。確かに障がいのある人にはさまざまなサポートが社会から提供されます。しかし表現という分野において、十分な選択肢が彼らに提供されているのか。特に演劇は同じ時間に同じ場所に集まらないとできないので、やりたくてもやれない人が多い(「じゆう」とひらがなにしたのは、漢字の名前は演劇の世界では歴史的に有名な先例があって、でもそれに倣いたいわけでもない。それにひらがなのほうが可愛い感じがしたからです)。

続けていたら10年を超えた

じゆう劇場は、鳥取県の支援も得ながら活動を継続することができ、障がいのある人だけでなく、いわゆる健常者も、さらに鳥の劇場の俳優も加わり、総勢20名程度で70-80分の「長編」を毎年発表しています。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』・『マクベス』・『間違いの喜劇』などに基づき、かなり脱線もした作品をつくってきました。今年度は12月にアメリカ戯曲の傑作、T・ワイルダーの『わが町』をやりました。

上演時間30分前後の「短編」もつくっていて、こちらは鳥取県内の学校や公民館などをまわっています。劇場に来ない(来られない)いろんな人に、障がいのある人の表現と出会い、「おお、すごい、うまい!」と思ってもらい、上演の直後に観てくれた人と交流のワークショップを実施します。感動と交流で障がいに対する心の壁を溶かしていこうというねらいです。2025年は5カ所で実施しました。この10月には大阪関西万博にも出張しました。

「長編」「短編」どちらにおいても、多くの観客が、「はじめは障がいのある人の表現だなと思ってみていたが、みているうちにそれが頭から消えて、演劇の世界に入り込めた」といってくれます。

じゆう劇場公演『「ロミオとジュリエット」から生まれたもの』

短編戯曲コンテストをスタート

じゆう劇場の展開を踏まえ、別に始めたのが「みんなが書く戯曲のコンテスト」です。新しい試みの背景には米国ニューヨーク市のクイーンズシアターとのつながりがありました。同劇場は他民族が暮らすエリアにあり、日常生活で英語以外を第一言語とする人が半数を超えるという地域です。シアター・フォー・オールというコンセプトを掲げ、多様な民族を包摂するプログラムや、障がいのある俳優を育成する事業を実施しています。その中に障がいのある人が書いたか、障がいのある人が登場する10分から15分程度の短編戯曲を全米から公募するというコンテストがあり、その優秀作を鳥の劇場でリーディング上演する企画を何度か行いました。同劇場の新しい戯曲の発掘を担当するディレクターロブ・ウルビナーティさんとの縁で始まったことでした。同じルールで日本でも作品を公募したら、おもしろいんじゃないかと考えました。戯曲創作は、困難な身体状況にある人にとっても、また普通に就労しているなどで表現活動に使える時間が限られた人にとっても参加しやすい表現です。じゆう劇場で出会った人たちとは異なる人たちに出会うことができます。作品は台本ですから、日米交流も比較的容易にできます。

戯曲は人と人の関係を扱う表現です。障がいは人と人の間、人と社会の関係の中で生まれるものですから、障がいを語るために戯曲ほどふさわしい手法はないといっても過言ではありません。短編戯曲(障がいのある人によって書かれたもの、障がいを主題としたもの)の全国公募と優秀作の顕彰を通じて、短編戯曲の創作・上演という文化を日本社会に少しずつ定着させ、これを通じて、障がいのある人の思い、願い、苦しみ、喜びが、もっと社会の多数派(いわゆる健常の人たち)に届けられ、差別的・排除的な社会のあり方がよりよい方向に変わっていくことを目標としました。障がいのある戯曲作家の才能の発掘、育成の機会となることもねらいでした。スタートは2023年で、今年3年目となります。

2025年2月のコンテスト表彰式 受賞者と選考委員

コンテスト、手探りでやってみた

まず初年度。短編とはいえ戯曲を書くというカルチャーは日本では一般的でなく(アメリカでは短編戯曲のコンテストがたくさんあると聞きました)、一体どれだけの応募があるのかたいへん不安でした。少しでもハードルを下げるため、劇作家で選考委員長でもある永山智行さん、劇作家でもあるロブ・ウルビナーティさんに、戯曲の書き方を説明する動画をつくってもらい、ネットで視聴可能にしました。また同じく劇作家の大岡淳さんには、潜在的な応募者からの質問にネットで応答してもらう機会もつくりました。

応募数は、全国から予想をはるかに超える244作品。聞かれることを求める埋もれた声がこんなにもあるのだということに驚き、事業の意義・手応えを強く感じました。この年は6つの作品を選んで表彰しました。一方、舞台で上演されることを前提とする戯曲という形式に慣れていない作品も多く、すばらしいモチーフであるにもかかわらず作品として成功していないものが少なくありませんでした。

このことを受けて2年目(令和6年度)は、1年目同様に全国公募を行い(応募作品数192作品)、一次選考を通った9作品を対象にプロ劇作家による伴走支援を行い、各作品をブラッシュアップしました。伴走支援による作品の質の向上は顕著で、支援の意義は大きいものでした。それを支援者と作家だけの間の資産とせず広く共有できるものとするため、伴走支援者が支援の過程を座談会等で語り合い冊子に残し、ウェブでも公開しました。

2年目は加えて、初年度の入選以上の6作品を鳥の劇場で、3作品をクイーンズシアターで、ともにリーディング形式による発表を行いました。上演の評価はいずれにおいても非常に高く、芸術的な意味でも障がいに関する啓発的な意味でもたいへん意義深いものとなりました。クイーンズシアターとの連携により、人権の尊重という普遍的価値の共有を日米両サイドで確認するとともに、日本における障がい者芸術支援の先進性や作品の質の高さを米国にアピールする機会ともなりました(米国の作品はコミカルで軽いものが多く、日本の作品は比較的重いものが多いという傾向があることもわかりました)。

今年2025年度は3年目。応募数は190作品。私はすべての作品に目を通しましたが、作品のレベルが確実に向上していることに驚きました(もともと力のある人の応募が増えたのか、本コンテストを通じて力をつけた人が多いのか、その理由は検証できていません)。伴走支援も継続し、26年1月に選考会が開催されます。今年度の新しい挑戦は、過去2回のコンテストで入選以上となった優れた作品をもっと世に知ってもらうために、全国各地でリーディング上演会を行ったこと。鳥の劇場に加えて、静岡、茨城、東京、宮崎で各地の俳優と演出家がそれぞれの趣向で上演を実施、多様な観客が集まり大きな感動の輪を広げました。2時間ほどの時間の中で、障がいにまつわるさまざまな世界を体験できるのですから、実にお得で豊かな企画です。実施する演出家や俳優にとっても、新しい観客との出会いがあり、自分たちの活動成果が共生社会への扉を開くことにつながっていくことは、大きな手応えとなったようです。

鳥の劇場でのリーディング公演

茨城でのリーディング公演(百景社)

クイーンズシアターでのリーディング公演

まとめ

じゆう劇場プロジェクト、「みんなが書く戯曲のコンテスト」を通じて考えてきたのは以下のことです。

  • 障がい者の表現活動への参加が十分に保障されていない現状の中、どんな条件・状況にある人も、望めば表現活動に参加し才能を発揮する機会が保障されなければならない。
  • 障がい者の声が社会の中で埋もれてしまい、聞こえづらい。その声が社会的にもっと広く共有される必要がある。小さい声を社会に届かせるのは劇場の重要な仕事である。
  • 障がいは当事者だけの問題でなく社会みんなの問題。健常の人も巻き込んで障がいを考え、もっと優しい社会を構想しなければならない。

人とのかかわりの中で、人間はまったく相反する2つのことに喜びを感じます。一つは異なる他者を差別すること、もう一つは異なる他者と仲よくすること。人間は自分が不当な状況を生かされていると感じるとき、異なる者を差別したり攻撃することに喜びを感じます。しかし人間は、異なる者とも心を通わせることができ、そのつながりの中にも大きな喜びを感じます。両方とも喜びです。けれどどちらが本当の喜びであるかはいうまでもないでしょう。しかし残念ながら、迷走する今の世界には、そしてネットの空間にも前者の喜びがあふれているように見えます。

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じゆう劇場2025年12月公演『わが町』

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じゆう劇場2025年12月公演『わが町』

12月に上演した『わが町』の中で、作者ワイルダーは、芝居の進行役の舞台監督に次のように語らせます。

私たち一人ひとりの中には、存在は知ってはいるけれど、めったに取り出して眺めたりしない何かがある。
私たちは皆、一人ひとり中に何か“永遠のもの”があると知っている……誰もが骨の髄で、それを感じている。
そしてその“永遠のもの”は、人間存在と深くかかわっている。
一人ひとりの人間の奥深いところには、どうしたって消えない、永遠の何かがある。

演劇でもなんでもいい、表現を通じて障がいのある人と出会うことは、彼らのために何かをしてあげるという一方通行の行為では決してない。多様な他者と出会い、ともに活動することは、この困難な世界の中で、人間という存在と深くかかわる“永遠のもの”とつながるための細い道を、私たちに示してくれる。障がいの有無など関係ない、我々はいっしょに何か“永遠のもの”を探している。私たちはそのように感じながら、「障がい」に関する活動を重ねています。

今後の予定

『十二夜』
作/シェイクスピア 演出/中島諒人
2026年2月14日(土)- 3月1日(日)(週末を中心とした上演です。ウェブで日程をご確認ください)
鳥の劇場(鳥取市鹿野町鹿野1812-1)

毎年恒例の冬の新作上演です。今年はシェイクスピアのコメディー。十二夜というのは、クリスマスから数えて12日目のことで、いわゆる無礼講の日だったようです。言葉遊び、恋愛、手紙、双子がもたらすかんちがいなどシェイクスピア的要素がいっぱい。音楽や歌も見どころです。鳥取なので雪が心配ですが、どんなに雪が降っても休演しません、上演します。

関連リンク

アートにおけるアクセシビリティの可能性 目次

1
アクセシビリティの広がり:これまでとこれからに向けて
2
障がいと演劇にアクセスの道をひらく 鳥の劇場のやってきたこと
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