アクセシビリティの広がり:これまでとこれからに向けて
2018年に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(以下、法)が施行されてから、7年が経ちました。私は当時、厚生労働省において、法に基づく基本計画の策定や関連施策を担当していました。2023年からは、アーツカウンシル東京で、東京都と一緒に東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」という事業を実施しています。
現在、「アクセシビリティ(=アクセスのしやすさ)」という言葉は、芸術文化の分野でもよく聞かれるようになり、東京都の重要政策の一つにもなっています。しかし、法ができた当初は、まだあまりなじみのない言葉だったように思います。2006年に国連が定めた障害者権利条約の一般原則にも「Accessibility」が掲げられていますが、和文では「施設及びサービス等の利用の容易さ」とされており、なかなか日本語にしづらい用語なのだと思います。

アクセシビリティ講座2024【鑑賞サポート:映画館・映像上映編】
それでも、障害のある人が芸術文化にアクセスしやすくするための取り組みは、法施行以前からすでに始まっていました。たとえば、国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)による鑑賞サポート(2001年~)や「劇場って楽しい」(2014年~)、バリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツによる音声ガイド(2001年~)、シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)による観劇サポート環境啓発(2013年~)、スローレーベルによるアクセスコーディネーターの育成(2015年~)など。
法整備と同時期に準備が始まった2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会も、アクセシビリティの広がりに大きな役割を果たしたのはいうまでもありません。各地域で行われた文化プログラムやパラリンピック開会式においても、さまざまなアクセシビリティの工夫や取り組みが実践されました。中には、TRUE COLORS FESTIVAL(2019年~2022年)のように、アクセシビリティポリシーを定め、専門のボランティア育成も行う芸術祭もありました。全国の美術館・博物館や劇場・音楽堂での取り組みも少しずつ広がり、2020年には全国公立文化施設協会によって劇場・音楽堂等アクセシビリティ・ガイドブックも発行されています。
また、コロナ禍という制約は芸術文化にとって厳しい状況でしたが、だからこそアクセシビリティをあらためて見直す契機となったかもしれません。アクセシビリティに特化したオンライン劇場THEATRE for ALL(2021年~)や、鳥取県立バリアフリー美術館(2022年~)など、オンライン上で作品を鑑賞できる取り組みも生まれました。美術館・博物館と利用者をつなぎ、アクセシブルなミュージアム体験を推進するみんなでミュージアム(2021年~)もコロナ禍でアクセシビリティを見直すことから立ち上がった取り組みです。
2023年に策定された国の基本計画(第2期)では、「文化事業・活動へのバリアフリー対応等のアクセシビリティの向上といった成果をレガシーとして受け継ぐ」と明記され、第1期では使えなかったアクセシビリティという言葉が登場しています。東京都でも、2022年に発表した「東京文化戦略2030」において、都立文化施設でのアクセシビリティ向上を戦略の一つとして掲げ、現在では都内で行われる芸術文化活動も対象にさまざまな取り組みを行っています。
その一つとして、アートノトでも2024年からアクセシビリティに関するオンライン講座(アーカイブ動画有)を実施しています。アクセシビリティの向上を目指していますが、アクセシビリティの取り組みが広がってきたからこそ実現できた講座だとも思っています。
初年度は鑑賞活動に焦点を当て、鑑賞サポート入門や基礎知識に加え、映画館・映画上映、舞台芸術、ミュージアム・アートスペースといった多様な鑑賞の場面におけるアクセシビリティについて学ぶ講座を提供しました。また、全講座を通して、障害のある当事者とともに鑑賞のあり方を考える内容とし、アクセシビリティの可能性について考える座談会も行っています。

アクセシビリティ講座2025【創造活動におけるアクセシビリティとは(後編)】(レギュラー講座)
2年目となる今年は、創造活動にフォーカスし、アクセシビリティそのものを再考しながら、障害のあるアーティストやつくり手のアクセスについて考える講座を展開しています。あまりなじみのなかったアクセシビリティという言葉が浸透してきた今だからこそ、その意味をあらためて深く考える機会を提供し、鑑賞だけでなく創造の場でのアクセシビリティを広げたいと考えました。
私の後に続くこのリレートークでも、こうしたアクセシビリティの意義や全国のユニークな実践が紹介されると思いますので、私も楽しみにしています。またアートノトでは、講座だけでなく、アクセシビリティに関するお悩みや困りごとを相談窓口でも受け付けており、公式ウェブサイトやnoteで有益な情報提供も行っています。ぜひ、ご活用ください!
今後の予定
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」出張相談
契約・著作権や助成金、アクセシビリティなどの芸術文化活動に関するお悩み・困りごとについて、芸術文化の知識・経験をもつ相談員が対面で解決に向けてお手伝いします。以下のイベントへ出張していますので、お気軽にお立ち寄りください。
TOKYO ART BOOK FAIR 2025
日時:令和7年12月13日(土)、14日(日)
会場:東京都現代美術館
ART JOB FAIR 2026
日時:令和8年1月17日(土)、18日(日)
会場:TODA HALL & CONFERENCE TOKYO HALL B
第15回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ
日時:令和8年3月28日(土)
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
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