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文化団体の受け入れ事例(静岡県舞台芸術センター)




公演時のSPACシアタークルーの様子 提供:SPAC

リレーコラム第5回は「SPAC-静岡県舞台芸術センター」(以下、SPAC)の活動を紹介させていただきます。まだまだ公共劇場ではアートプロボノの受け入れ事例は多くありませんが、SPACのボランティアはプロボノと呼んでもよいような活躍をされている方もおられます。今回は制作部の丹治さんにバトンをお渡しし詳しいお話をお伺いしました。(本リレーコラムは対談形式で皆さまにご登場いただきます)。

綿江:SPACの紹介をお願いします。

丹治:静岡県舞台芸術センターは英語でShizuoka Performing Arts Center、略してSPAC(スパック)と呼ばれています。SPACは静岡県がつくった劇団です。そして、この劇団が専用の劇場を持っていて、静岡駅の隣の東静岡駅前と、そこから車で10分くらいのところにある日本平という山の中腹に、4つの劇場、3つの稽古場のほか宿泊施設があります。
劇団ですので、舞台作品をつくり上演することが基本なのですが、そのほかに、世界各地からアーティストや劇団を招聘して毎年ゴールデンウィークに「ふじのくに⇄せかい演劇祭」を行っています。また、子どもたちと一緒に演劇やダンスをつくる人材育成事業や、俳優が劇場を飛び出してワークショップをやったり、小さな作品を発表するアウトリーチ活動も実施しています。この4つがSPACの活動の柱になっています。
世界で通用する一流の作品づくりを目指すことと、演劇の面白さをいろんな人に体験してもらい演劇の裾野を広げることの両立を念頭においていて、「頂き高く、裾野広くの富士山型」、なんて僕らはいってますけど。
メンバーは、芸術総監督である宮城聰のもと、俳優と技術スタッフ、そして僕のような制作スタッフがいます。現在、制作部が15人、技術スタッフが20人くらいです。俳優は作品ごとの契約ですが、年間で40人くらいは出演しています。

綿江:劇場でプロボノを受け入れている事例は多くはないのですが、SPACのボランティア受け入れの取り組みはプロボノに近いと感じています。SPACのボランティア制度についてご説明をお願いします。

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ふじのくに⇄せかい演劇祭2018『寿歌』(演出:宮城聰)会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」 撮影:平尾正志(SPACシアタークルー)

丹治:SPACの県民参加事業に参加してくださった方の中から「もっとSPACにかかわりたい」という声をいただくようになりまして、2010年からボランティアというかたちで受入れを始めました。
初めは会場案内やカフェの運営補助をやってもらっていたのですが、徐々に活動の範囲が広がっていきました。たとえば、舞台写真の撮影もボランティアにお願いしており、とても助かっています。アマチュアで活動をされている方なのですが、演劇を撮影する機会はなかなかないそうでSPACでさまざまな舞台作品を撮影できることを楽しんでくださっています。今私たちが使っている舞台写真の多くはボランティアの方が撮影したものです。

綿江:宣材写真もですか。

丹治:すべてではないですが、ボランティアさんが撮った舞台写真を公演のチラシやポスターに使う場合もあります。ほかにも、公演のポスターやチラシを地元の飲食店などに配ったり貼ったりする作業もお願いするようになってきました。地元にネットワークがある方も多く、我々スタッフがお願いするよりも、ボランティアの方からお願いしてもらったほうが、受け入れてもらいやすかったりします。それも1つの専門性ですね。その方からは「SPACももっとちゃんと広報やってよ!」と怒られてしまいましたが(笑)。
演劇祭のボランティアは2014年くらいから募集を始めて、通訳ができる方を受け入れたりもしましたが、これには難しい問題もあります。演劇祭では明確に通訳が必要な時間が読めないこともあり、待ち時間もそれなりに生まれてしまいます。英語を話すことにモチベーションを持っているボランティアの方はフラストレーションを抱えてしまう。

綿江:演劇祭単体でもボランティアを募集しているんですか。

丹治:年間通してのボランティアと、演劇祭限定のボランティアと2種類あります。年間の方はだいたい50人くらいで、中学生から70代くらいまで幅広いです。この方たちには、ボランティア情報をメールで流します。募集した日すべてにかかわれなくても大丈夫ですし、年間での参加が数回でもOKです。その人それぞれの事情にあわせて活動してもらっています。

綿江:ボランティアはどう募集していますか。

丹治:最初の頃は、チラシをつくって配っていました。今は、演劇祭限定のボランティア向けのチラシをつくっています。まずは演劇祭のボランティアをやってみてから、年間通しでやってみる、という方もでてきました。

綿江:現代アートの芸術祭だと県外からの人も多いですが。「ふじのくに⇄せかい演劇祭」のボランティアには静岡県外の方も含まれますか。

丹治:ここ数年は毎年2〜3人は県外の方がいらっしゃいますね。県外の方に参加していただくと、フェスティバルにかかわるということと、その土地に滞在するという2つの喜びを感じてもらえると思います。

綿江:ボランティアの管理は大変だと思うんですが、ボランティアとして頼むことと、仕事として頼むこととの使い分けはどうされていますか。

丹治:明確に分けているわけではありませんが、なにかお願いしたい仕事があった場合には、基本的にはプロに仕事として頼みます。ボランティアの場合、僕ら制作スタッフの補助的な立ち位置で参加していただく場合がどうしても多くなりますね。たとえば、外国語が話せることと、演劇の現場で求められる通訳のスキルは一致するわけではない。ボランティアの方にどこまで責任を負ってもらえるのかという問題もあり、正直にいうと専門性の高い業務をボランティアさんにやっていただくことに関しては、二の足を踏んでいる面もあります。チケットもぎりや当日パンフレットの配布はやっていただけるが、チケットやお金を扱う受付は任せにくい。会場案内も、客席案内をボランティアの方だけに任せるのは難しいです。僕らのほうでもっと研修みたいなものができればいいのですが、現実的には難しいところがあります。

綿江:ボランティアだからこそのアドバンテージとして、地元でのチラシ配りの件は面白いですよね。ボランティアだからコミュニティに入っていける。ボランティアの方に対しては、SPACからどういうインセンティブを提供できていますか。

丹治:SPACにかかわりたい人にとってみると、SPACの俳優・スタッフと話せたり、公演の本番も避難誘導係として客席内にいつつ観られるのはとてもモチベーションになるようです。最初はもともと「SPACが好き」という人が多かったんですが、だんだんとそうではないきっかけで入ってきてくださる方も増えてきたように思います。そのこと自体はポジティブに捉えてます。

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公演時のSPACシアタークルーの様子 提供:SPAC

綿江:ボランティアには、地域との関係づくり、PRという観点もあると以前伺いました。

丹治:かかわってもらう人に、どれだけSPACを自分事と思ってもらえるかを大事にしています。SPACにかかわるといっても俳優・スタッフとして働く以外にいろんなかかわり方があり、その延長線上にボランティアも位置付けていきたい。仲間だと思ってくれる人の数を増やしていきたいんです。先ほどお話しした「広報をもっとちゃんとやってよ!」というボランティアの方からの意見は、自分事として捉えてくれているということでもあるのでとても嬉しかったですね。 また、ボランティアの方はチケットを買わずに無料で観ることができますが、業務以外の日にお友達とチケットを買って観に来てくれています。

綿江:劇場への関与の階段づくり、ファンの囲い込みをうまくつくっているなと感じます。

丹治:もちろん核となるところに、良い作品をつくること、良い作品をつくろうと頑張っている人がいることが大事だと思います。劇場って突き詰めれば「人」だと思っていますので、そこにいる人が魅力的でないと仲間も増えていきませんよね。

綿江:以前に舞台芸術業界の労働環境の調査を行った結果、舞台芸術一本を仕事にするのもなかなか大変だなと感じました。現状では、舞台芸術にかかわりたいと思ったときの選択肢が、極論すると覚悟を決めて業界に飛び込むか、もしくは諦めてしまうかの両極端になってしまいがちです。そのイチゼロの間のグラデーションをつくっていく必要性を感じています。

丹治:まだまだそういう極端な状況だと、本当にそう思います。先日のイベントでもアートプロボノに興味がある人がこんなにいるんだと実感しました。でも、あれは東京だからではないかなと思います。静岡にはプロボノに興味がある人がどのくらいいるのかな。

綿江:施設と心理的な距離が近い人は地方のほうが多い気もしますね。東京だと近くに大きな劇場があっても無関心の人も多いので。

丹治:「こんなにアートプロボノをやりたい人がいるんだ」と顕在化される機会があるといいのかな。

綿江:アートプロボノの可能性があるとしたらどういうところですか。

丹治:アートプロボノには凄く可能性を感じます。先日のイベントに参加して、プロボノをやる人たちが決して下請けになっていないと感じました。Webサイトをつくるのにリサーチから始めて、問題を掘り起こしたりディスカッションをしたりなどのプロセスをきちんと経ているのに驚きました。つまり、単なる手足でなく、考えるということを持ち込んでいます。あの方々のモチベーションはどういうところなんでしょうか。

綿江:もちろん社会貢献の意識で行っていることは前提としつつも、プロボノを行うコミュニティに参加することもインセンティブになっているようです。また、「重い社会課題のテーマには参加しづらいけれど文化は重くないので参加しやすい」という意見もありました。その点でも文化には可能性があるのかなと。重く見えないとはいえ、社会課題を解決していないわけではないですし。

丹治:その点では劇場はいいですよ。面白い人間と生で触れ合えるコミュニティがあります。

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公演時のSPACシアタークルーの様子 提供:SPAC

綿江:公共劇場で専門的人材を受け入れているところはほとんどないように感じます。なぜ普及していないと思いますか。

丹治:この業界は人が足りない状況がずっとあって、人は欲しいんです。ですが、受け入れにそれなりの労力がかかり、体制を整えるところまで追いついていないのが現状だと思います。僕らもまだまだそうです。これから先、もっと高度な専門性を持った人を受け入れたいという気持ちもあるが、この問題があってなかなか進めません。

綿江:一旦ボランティアの受入体制をつくると、その後は負担が減るんですか。

丹治:負担は減っていると思います。ボランティアの受け入れをそれなりに長くやってきたということもありますが、ボランティア同士のコミュニティが生まれてきているというのがプラスに働いているように思います。先輩ボランティアさんが後輩ボランティアさんに教えたり、フォローしたりということがでてきています。

綿江:最後にメッセージをお願いします。

丹治:演劇っていろんな人が同じ空間と時間を共有してはじめて成り立つじゃないですか。そしてそこにはなんらかの表現があって、生のコミュニケーションが生まれる。このコミュニケーションをいかに多様で開かれたものにしていくかは、劇場として考えていかなきゃいけないと思うんですよね。そのためには仲間を増やしていくというか、輪を広げていく、いろんな人をいろんなかたちで巻き込んでいきたいと思っていて、ボランティアとかアートプロボノもその一環で考えたいんです。単なる「手足」ではなくて、コミュニティづくりの一環と捉えたい。現実的には受け入れ態勢のこととか課題はありますが、少しずつでも広げていきたいなと思います。

綿江:本日は色々なお話ありがとうございました。

(2018年6月23日)

次回執筆者

嵯峨生馬さん(NPO法人サービスグラント 理事長)

バトンタッチメッセージ

最終回の次回は、日本におけるプロボノ普及の第一人者である認定NPO法人サービスグラントの理事長である嵯峨さんにバトンをお渡しします。嵯峨さんには、昨年・今年と行ったアートプロボノのセミナー及びイベントにもご登壇いただきました。嵯峨さんの視点から見たアートプロボノの課題と可能性について本音で語っていただきます。

アートプロボノの可能性 目次

1
アートマネジメントにイノベーションをもたらすか
2
文化団体の受け入れ事例
芸術家と子どもたち

3
ワーカーによる文化団体の支援事例①

4
ワーカーによる文化団体の支援事例②

5
文化団体の受け入れ事例(静岡県舞台芸術センター)

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