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「VOCA展2020 現代美術の展望 ──新しい平面の作家たち」

上野の森美術館

2月に入って新型コロナウィルスの感染が日本でも本格的な問題となり、卒業式をはじめ大人数の各種イベント、集会などの中止の話を聞くことになった。その後、当館でもVOCA展を含め翌月に予定していた展覧会の開催見直しが話題に上ったのが20日過ぎだったと思う。

20日に厚生労働省の「イベント等の主催者は開催の必要性をあらためて検討してほしい」というメッセージがあり※1、26日には政府の「多人数が集まる全国的なスポーツ、文化イベント等については、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請する」コメントが出た※2

※1:「イベント等の主催者においては、感染拡大の防止という観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討していただくようお願いします。なお、イベント等の開催については、現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではありません」2020年2月20日 厚生労働省メッセージ

※2:「この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要であることを踏まえ、また、多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします」2020年2月26日 安倍総理コメント

最初はVOCA展のような規模でその対象となるとは思っていなかったからかなり驚き、毎日、通勤電車やまちなかのほうがよっぽど混んでいるのにと反発を感じたが、そうもいっていられない。事務局として、主催者である実行委員会や協賛会社の第一生命保険と相談しつつ対応を決めたのが25〜27日のことである。

そのとき展覧会の準備はほぼできており、作品はすでに集まっていて展示を待つだけ、図録は校了して印刷へ進む段階だった。また、展覧会前日に授賞式などの一連の行事、会期中に数回、トークなどを予定していた。見直しにあたり、美術館としてはすくなくとも展覧会は開催したい、関連イベントについては個々に検討するというスタンスだったが、このとき第一生命が美術館の意向に沿って、その時点で適正な開催/中止のガイドラインを示してくれたことはとてもありがたかった。

具体的には、イベントでの飲食はなし、不特定の参加者を避け、人数を数十人規模に制限することをここで確認した。それに基づき、前日の授賞式はおこなう、記者発表、シンポジウムとレセプション・一般内覧会は中止とし、代わりに関係者(出品作家、推薦委員、実行委員)のみの内覧会とすることを決めた。また、シンポジウムに代わるものとして、受賞作家のインタビュー映像を撮影しホームページで公開することにした。

展覧会については、初日の12日は、26日の政府要請の「今後2週間」以降であるからギリギリ良しと判断し、予定どおりスタートすることにした。もともと会期が19日間と短く、それだけは死守したかった。

もちろん会場の環境をできるだけ安全に整えなければならない。こまめな施設消毒、アルコール消毒液の設置や衛生エチケット喚起のほかに講じた対策はおもに2点で、一つには適切な空調、換気状態を保持すること※3、もう一つは会場が混み合わないよう管理すること※4である。前者については館の設備で充分できることを確認し、後者については、例年の来場者数から見てまず大丈夫とは予想したが、場合によっては入場制限などの対応もできるように、スキルのある管理運営会社に会場スタッフを一任することにした(前年までは館のアルバイトとの混成だった)。

※3:多くの博物館施設は温湿度を一定に保ちつつ換気する空調システムを備えているはずである。作品にとっても鑑賞者にとっても安全な環境を日ごろ整えていることはもっとアピールしていいと思う。

※4:観客1人が周囲と適正な距離がとれるスペースを2m×2m(4㎡)と考え、当館の展示室の面積(800㎡弱)から、館内に同時に滞留できる人数を最大200人と算出した。もっとも、会期中の入場者は例年の半数以下に減り、入場制限が必要な状態には一度も近づかなかった。

一方、26日の政府要請のあと、上野近隣をはじめ、各地の多数の美術館・博物館がその週末から、多くは3月15日までの予定で臨時休館に入った。その前から展覧会に伴う講演会などのイベントは中止されていたが、これを境に展覧会自体も中止し、館全体を休館する方向へと一斉に向かった。それは私には驚きで、焦りも感じた。もっとそれぞれの施設や展覧会の規模、特性などに応じて各館が独自に判断するかと思っていたのだ。そもそも美術作品の展示公開や教育普及の活動は「イベント」なのだろうか? いちばん大切な「持続性」がいきなり断たれてしまう。3月上旬に都内で継続して開館しているのは区立美術館など少数になってしまった。

この間、国内の感染者は微増を続け、むしろ欧米での状況が深刻になっていく。こうした緊張状態で開幕を迎えたのだが、11日に集まった関係者と顔を合わせ、翌日無事オープンできたときの安堵感は忘れられない。作家や関係者、来館者から「開催」に対する感謝や励ましの言葉をかけていただき、私たちも心底勇気づけられた。

つけ加えると、このとき唯一、VOCA賞受賞のNerholなどによるトーク開催の可能性を残していたのだが、作家たちと相談した結果お互いに迷いがあることがわかり、より慎重に考えてこれも取り止めた。

3月11日、授賞式のあとで。前列が Nerhol ほか受賞者。後列が選考委員。

初日以降、展覧会は昨年の半数ほどの入場者で、観客のマナー意識も高く、静かに過ぎていった。翌週16日以降は多くの施設が休館期間をさらに延ばす一方、再開する館もぽつぽつと出てきた※5。つぎの週末が後日、気の緩みが出たと指摘された3連休で、上野公園でも花見客など意外に人出が多く賑わっていた。

※5:今回のVOCA展は、はからずも、展覧会の内容だけでなく、開催したことによってメディアに取り上げられた。
「展覧会 開くという選択 新型コロナ」朝日新聞(夕刊)2020年3月17日
「新型コロナ 休館か開館か」読売新聞(朝刊)2020年3月26日

幕切れはあっという間で、25日に都知事の外出自粛要請が出た翌日、館内でミーティングを開き、ほぼ全員一致で週末からの休館を決めた。上野地区の中核病院で院内感染が発生したことも大きかった。それに伴い「VOCA展2020」はあと3日を残して16日間で終了し、来場者は6,000余人だった(昨年は14,000人弱)。

このときと現在では大きく状況が異なり、今後はもっと長期的な見通しと対策が必要となるが、どの段階でも組織全体で判断して行動しなければいけないこと、マネージメントや公報、情報発信がより重要になることは確かだろう。いまはすべての美術館・博物館にとって試練のときであるけれども、その活動の本質的な役割をあらためて考える契機になると思いたい。

追記

その後4月7日に緊急事態宣言が発令され、本格的に閉ざされた時期に入りました。

ふだんは月に20〜30本以上、美術館やギャラリーの展覧会に足を運んでいて、それが生活の一部になっていたのですが、4月以降はそれまでがんばって開館していた美術館も大半のギャラリーも休廊となり、見にいく機会がほぼなくなるという、いままでにない状況になっています。しかし、なかには変わらず静かに開け続けているところもあり、この間に見た数本の展覧会はいつも以上に滲み入ってきました。

会期が4、5月にかかっていた展覧会の中には、途中で中断してそのまま終幕したたものや開催自体を取り止めたもの(残念を通り越して心が痛みます)、すでに展示設営はされていて公開できるのを待つものとさまざまです。これら変更を余儀なくされた展覧会のDMやチラシを記録がわりに保存しながら、一つひとつがこのあと再開、会期延期など、どういう経過をたどるのか注目していきたいと思います。

5月に入り、地域によっては徐々に美術館・博物館再開のニュースが聞こえてきて、順調に行けば首都圏でも6月初めには多くの館が再開できそうな情勢になってきました。閉ざされたこの2カ月間、やはりネットの画像や映像ではなく、いくら不自由でもその場に行って実物を見たいという思いがますます募りました。そのためには入場者管理、予約入場制など、安全な鑑賞のための新しい基準を整えていく。社会行動の変革を求められている今、これから最低1年はそういう時期になるのだろうと思います。同時に、美術展の企画自体も、何十万人もの動員を目指す大型展ではなく、もっと規模は小さくても、一人ひとりが作品とじっくり向き合えるものを考えるよい機会となることを期待しています。

(2020年5月11日)

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