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私たちはみんなコロナのなかにいる

~舞踊をめぐる365日の記録~
愛知県芸術劇場コンサートホールの自主事業「クリスマスオルガンコンサート」(2020年12月23日)のロビーの様子
コロナ感染対策にはたくさんの人員が必要なため、公演時には劇場スタッフ総動員で臨みます。
提供:愛知県芸術劇場

この度の新型コロナウイルスによる災厄は、発生から1年経った今もまだ全世界を覆いつくしている。文化芸術への影響も例外ではない。ダンス界隈で生息している私はというと、世は無常、目指す正解などないだろうし、物事は日々移り変わっていくものだと、不思議と現実を受容する気持ちが強くなってきている。

人間が自然や見えない何かと闘ってきた結果が今の状況だとすると、闘うよりも自省すること、自然や犠牲になった魂のために祈ることの大切さを思う。人間が利己的な存在であることを認めて初めて、自然やウイルスとの対話が可能になるのではなかろうか。最も古い芸術のひとつとされる舞踊や、太古から災害や飢饉の度に祈祷や捧げものとして媒介になってきた身体にとって、今回の出来事は、生死を巡る舞踊の本質、その起源に立ち返る契機になっているように思う。

危機的状況に陥ったときにこそ、犠牲になった方々に寄り添うことができる舞踊の特性にあらためて気づかされたのは、ロックダウンのときに、いち早くオンラインにてアクションを起こした世界中のダンサーたちの姿を見たときだった。自宅で踊る様子を映像で配信する彼・彼女たちの姿には、いかなるときでも踊り続けることを自らに課す、身体への高い危機意識を感じた。と同時に、このパンデミックで犠牲になられた方々を弔うための鎮魂としての踊りや、災厄を鎮めるための祈りの舞など、舞踊の原初的な存在意義や社会的身体への形而上的な使命を感じる場面にも出会ってきた。それは生死をつなぐ魂の交感としての舞踊、そのメディアである身体そのものへの回帰を示唆する。

このようにコロナ禍におけるダンスの存在意義について思惟する毎日を過ごすことが多くなる一方で、この1年の出来事についてより正確に記述し、記憶していくこと、後世に情報をシェアしていくためにアーカイブしていくことの必要性も感じている。ここからはより具体的に、コロナ禍の舞台の現場で体感したことや、刻々と変化していく社会状況の中で変更を余儀なくされた活動について、2つの立場から振り返ってみたい。

第1章 公演の可否に揺れる公立劇場、その最前線に立つ

新型コロナウイルスについて、最初に耳にしたのは、今からちょうど1年前の2020年1月上旬、城崎にいたときだった。『ON VIEW:Panorama』※1のクリエイションに立ち会っていた私は、城崎国際アートセンターの滞在期間中、香港西九文化區(West Kowloon Cultural District)のプロデューサーと和室の2人部屋で寝起きをともにしていた。クリエイションが始まって2日目の深夜、彼女から中国で感染性の強いウイルスが出現して騒動になっているが、死者数など正確なことはわからず、中国や香港が大混乱していると聞かされた。このときは、僅か1カ月後に、世界がこれほど一変することになろうとは想像だにしていなかった。こうして城崎で創作した『ON VIEW:Panorama』は、1月末に横浜ダンスコレクション会期中の横浜・赤レンガ倉庫1号館にて初演を迎え、2月には愛知県芸術劇場で無事に上演を行ったものの、4月に予定していた香港、10月のシドニー公演は、やむなく中止となった。

※1:『ON VIEW:Panorama』は、オーストラリア、香港、日本の劇場による共同製作作品。オーストラリアの振付家・映像作家のスー・ヒーリーと各国のクリエーター、各国より2名ずつのダンサー、日本からは湯浅永麻と浅井信好が参加。ショートフィルム、映像インスタレーション、ライブパフォーマンスからなるマルチメディア作品である。https://taci.dance/onview/liveperformance

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『ON VIEW:Panorama』愛知公演の様子
©︎Naoshi HATORI
提供:愛知県芸術劇場

このプロジェクトと並行して、2月中旬、愛知県芸術劇場がプロデュースした【ダンスとラップ『ありか』※2は、横浜で開催中の第3回HOTPOT 東アジア・ダンスプラットフォームで上演を行い、さらなる海外公演へのチャンスを探っていた。すぐに複数のフェスティバルディレクターから声がかかり、ドイツとイタリアのリーディングフェスティバルへの招聘が決まったが、その後中止となった。

※2:『ありか』は、2015年に愛知県芸術劇場で製作した元フォーサイス・カンパニー島地保武とラッパーの環ROYによるデュオ作品。再演を目指し創作を行い、これまでに愛知県内では知立市、春日井市、豊川市、県外では神奈川芸術劇場、山口情報芸術センター、象の鼻テラス(HOTPOT)、富山市芸術文化ホール、パリ日本文化会館にて上演。http://shimaji.jp/arika/

また2週間後の2月末には、富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール)での公演が予定されており、劇場スタッフの尽力により、客席を半分に減らして実現することができたものの、これがオーバードホールの自主事業としても閉館前の最後の上演となった。
私たちは3月には『ありか』初となる海外公演を控えていた。現地のスタッフとの連日の情報交換により、パリ公演は決行するとの知らせに、すでにほとんど機能停止していた日本の劇場を逃れるよう、3月10日、私たちはパリに飛んだ。翌11日、フランス政府から「1000人以上の集会禁止」の通達、これにより大劇場公演が中止となった。ちょうどシャイヨー国立劇場で開催中だったダミアン・ジャレ&名和晃平の『Vessel』は、観客数を1000人未満にして公演を継続していたが、さらなる規模縮小要請により最終日は中止となった。

そして『ありか』チームの方は、現地に到着するや、連日発表されるマクロン大統領の声明にハラハラしながらも、首の皮一枚つながったかたちでパリ日本文化会館での本番を迎えた。初日13日の上演時間は午後8時。13日当日の午後3時に「100人以上の集会禁止」が発表されたため、劇場と協議して100人未満での上演を決め、人数制限を行い上演を行うことができた。最終公演直後の14日の夜、マクロン大統領が15日からの劇場封鎖、17日からのロックダウンを発表。私たちは公演後の予定をすべてキャンセルして、15日には帰国の途に着いた。

しかし、ホッとするも束の間、羽田空港に到着するや、14日間の自宅待機を促された。※3 自分たちがまるで危険物のように扱われる初の経験、これまであちこちに飛び回っていた私に訪れた初のステイホーム、14日間の空白。このとき、私の行き場のない気持ちが宙吊りになっていた。

※3:海外からの入国者の14日間の自宅待機が推奨されはじめたのは3月17日で帰国の2日後だった。

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『ありか』パリ公演の様子
写真:Pierre Grosbois
提供:パリ日本文化会館

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『ありか』パリ公演の出演者、スタッフと一緒に
提供:パリ日本文化会館

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『ありか』パリ公演最終日、客席を100席以下に減らして上演
提供:パリ日本文化会館

4月1日は新年度の始まり。通常は挨拶回りなどで忙しいが、私は待機を命じられ自宅にいた。実はこの日から、2020年度の最初の公演【トライアド・ダンス・プロジェクト「ダンスの系譜学」】の1演目である『瀕死の白鳥 その死の真相』※4のリハーサルが開始される予定だったが、実際に集まることができなくなったため、急遽オンラインミーティングを開催して、Zoomでの創作に切り替えることを決断した。4月以降の毎週月曜日、ほとんど生存確認のようなクリエイションが始まり、それは6月まで続いた。演出・振付の岡田利規は自宅のWi‐Fi環境を整え、ダンサーの酒井はなは自宅用にダンス用のマット(リノリウム)を購入、音楽家の四家卯大は音響機材を工夫。試行錯誤をしながらも、オンラインでのリハーサルに誰もが日に日に慣れていった。そして、初のオンサイトでのリハーサルは9月上旬、初稽古なのにすでに不思議な連帯感に包まれていた。

※4:トライアド・ダンス・プロジェクト「ダンスの系譜学」は※13を参照

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TRIAD INTERMISSION vol.2『瀕死の白鳥 その死の真相』プロセストーク、コロナ禍でのオンラインクリエイションについて振り返る参加アーティストたち(写真左から執筆者本人、岡田利規、酒井はな、四家卯大)
2020年9月3日
©︎Tatsuki Amano
会場・提供 :Dance Base Yokohama

4月25日から 6月1日まで愛知県芸術劇場は臨時休館となり、職員の誰が感染しても全体の業務が停止しないように、二つのチームに分かれて出勤と在宅を併用して仕事を続けた。※5この後、6月2日からは全館開館になったものの、貸館は長期間キャンセルが続き、自主事業が復活したのも7月になってからだった。

※5:コロナ禍での愛知県芸術劇場の運営状況等について、こちらを参照。
愛知県芸術劇場自主事業中止・延期一覧:https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/news/000402.html

2020年度最初の自主事業は、7月17日、4月より芸術監督になったばかりの勅使川原三郎芸術監督記念公演『白痴』。実は3月中旬、芸術監督就任記念プレ公演として勅使川原三郎よるダンス・コンサート『三つ折りの夜』を予定していたが、ゲネプロまで行いながらも(東京芸術劇場にて)、結局観客を入れての本公演は陽の目をみることはなかった。

『白痴』では、観客席こそ50%にしての開催だったが、しばらく観劇を控えていた東海圏の観客の想いは熱く、チケットは完売、公演当日の場内も歓声こそは避けつつも、いつまでも止まらない拍手に涙をこらえることができなかった。

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勅使川原三郎『白痴』
2020年7月17日
©︎Naoshi HATORI
提供:愛知県芸術劇場

10月上旬に予定していた愛知県芸術劇場ミニセレ「ダンス・セレクション※6は延期を探りつつも、状況の改善を希望として、当初どおりでの実施を決めた。このときの観客数はやはり定員の50%、チケットは完売となったため追加公演を行った。客席を半数にしての追加公演は収入が減る一方で、事業費は増えるという予算的には大変苦しい選択ではあるが、どんな状況になっても、芸術の灯を消さないという気持ちで職員は一致していた。

※6:「ダンス・セレクション」は、愛知県芸術劇場のミニセレシリーズとして開催。日本の振付家の過去作から、複数の作品をセレクトして上演。今年は、楽屋などでの密を避けるために、アーティストを2組に減らしてプログラムの構成を行い、倉田 翠/akakilike『家族写真』と柿崎麻莉子『The stillness of the wind』を上演した。

現在は、全国的にもオンラインでの配信とオンサイトでのパフォーマンスを併わせた取り組みにより、ライブのパフォーマンスを求める観客にはその機会を、外出を控えている方に向けてはオンラインと、多様なニーズに応えられるようになってきている。

毎年恒例のダンスの普及啓発プログラム「赤ちゃんと踊ろう(ママ編、パパ編)」も今年はオンラインで開催することに決めた。
また、「鑑賞&レビュー講座」は前期のみオンラインを利用してゼミ形式で開催し、状況の好転し始めた後期からは、オンサイトとオンラインを併用して開催することにした。

コロナ感染対策の方法は劇場ごとにおおむね統一されてきているように感じるが、たとえば観客の入場率などは、国と地方自治体の方針の違いや地域の感染状況によって迷うことも多く、今なお各所で試行錯誤が続いている。

一方、近年推進してきていた海外招聘や共同製作のうち、現在進行形の10を超えるプロジェクトが中止となった。そのいずれもが、延期を希望してくれているものの、世界中の多くの公演が2021年、あるいはそれ以降への移動を模索しており、いまだスケジュールの調整が難航している。来年になれば確実に開催できる保証もない中で、アーティストやカンパニー、スタッフの予定を押さえなければならない困難さも加わり、今も日々調整中である。

しかし影響はマイナス面だけではない。一度決めたらルールを変えないこと、厳格な管理自体が仕事のひとつになることが多い日本の組織の中で、「変更」に対する寛容な意識が芽生えたことは、それがやむなき変更であったとしても、個人的には大きな進歩だと感じている。この状況の中でルールにしばられ管理していくことはもはや不可能である。芸術の最大の恩恵は寛容さを引き出すことだと信じてきた私にとって、場に応じて柔軟な対応を判断していく日々は、ルールの上で思考停止になってきたこれまでの月日より心地良いと感じるときもある。状況に応じた柔軟な変容こそ、クリエイティビティの本領だろう。

第2章 コロナ禍でのスタート キュレーションの新しいかたち

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私は愛知県芸術劇場のプロデューサーを務めながらも、2020年から新しいダンスハウスDance Base Yokohama(DaBY)※7のディレクションを行っている。日本でも、いつ緊急事態宣言が出されるのだろうかと推測されていた真っただ中で、新スタジオの開業とオープニングイベントの準備を進めていた。DaBYは4月23日開業、5月のGWには横浜のまちを舞台にしたオープニングのフェスティバル【TRIAD DANCE DAYS/トライアド・ダンス・デイズ※8を行う予定だった。そのための記者会見と内覧会を4月第1週に予定していたが、DaBYで行うことは叶わず、それらは急遽オンラインでの実施となった。

※7:DaBYは、セガサミー文化芸術財団が、2020年6月26日に設立したダンスハウス「Dance Base Yokohama」の愛称。横浜馬車道駅直結、横浜市の歴史的建造物を復元した文化施設KITANAKA BRICK&WHITEの3階にある。
空間設計:一色ヒロタカ+小澤成美+森詩央里+オンデザイン

※8: 【TRIAD DANCE DAYS】は、「都市を振り付ける」をキャッチコピーにDaBYで創作された「ダンスの系譜学」の6作品の他に、横浜の都市そのものを舞台にした3つの屋外パフォーマンス(ヨアン・ブルジョア、コレクティブ・プロトコル、山崎広太)を企画していた。https://dancebase.yokohama/event_post/triad-dance-days

ダンスを社会に開いていくことを目的とするDaBY は、ダンスに関心をもつ方々が気軽に集まることのできるダンスの拠点となることを目指して設立された。しかし、新型コロナによってこのプラットフォームに、最初から集まることができないという不条理な状況に陥った。それはパフォーミングアーツにとって欠くことのできない場所/空間の意味、さらにはダンスと社会との接点について、今一度考察する機会をもたらした。

開業に合わせた予定の公演はすべて中止、創作のいくつかをオンラインにて継続しながらも、コロナ禍で私たちに何ができるのか、これからスタートするDaBYはダンスの広場としてどんな取り組みを行うのが相応しいのか、日々自問自答を繰り返していた。そして私はこれまで前提としていた時間と空間をともにするパフォーミングアーツの既存の考え方を反転することにした。それはステイホームを生かした、新しいキュレーションのあり方を追求することでもあった。

密が忌避される状況の中でも、時間はこれまでより十分に確保でき、オンラインでも議論ができる。Zoom上で表れる平等性は創作の場であたり前とされてきた力関係/ヒエラルキーを崩し、多くの人の声を拾うことができる。いつ発表できるかどうかわからない状況の中だからこそ、締切に追われない創作が可能となる。これは継続的に思考すること、創造し続けることを担保するものとなる。そこで予定していた内容を一度すべて解体して、再構築することにした。

こうした新たなキュレーションの考え方に基づき、具体的にDaBYでのオープニング企画を次のように変更した。

  • オープニング企画の予算の一部を、3~4月に公演を中止したパフォーミングアーツのアーティスト9組に寄付。
  • 6月~7月に海外アーティストが使用する予定だったスタジオを、日本のダンスアーティストに無償提供。日程を延長して、9月までできる限りスケジュールを調整し、公募のあった14組すべてのアーティストにDaBYを使用してもらえるようにスケジュールを組み替えた。実際にスタジオを使った方々からのコメントに触れ、よいかたちでDaBYが始動しはじめたことを実感している。
  • 5月28日、オンラインでの開業。オープンのためのほぼすべての企画が白紙になったとき、ともに開業準備してくれていたメンバーと対話を重ね、【DaBYチャンネル】の開設を決めた。

緊急事態宣言が発令されたため、DaBYには行くことはできず、遠隔で解説をして内覧会をバーチャルで行った。

チャンネル登録はこちら:

DaBYのオープンは、奇しくもコロナによってもたらされた以前とは異なる世界へのスタートと重なった。そこで、DaBYのダンスエバンジェリストの小㞍健太とアソシエイトコレオグラファーの鈴木竜の友人たちを中心に、オンライン上での「再生/祝祭のダンス」への参加を呼びかけた。結果、世界中から100名を超えるダンサーが応答、合計4本の「Happy BirthDaBY」映像が完成。※9 また小㞍と鈴木がホストとなって開催したオンラインでの「DaBY talk Live」では、若い方々が気軽に参加できるようにインスタグラムを使ってダンスアーティスト同士の対談を行い、世界各国に住むダンサーたちのコロナ禍での情報などをシェアしてもらった。

そして、6月26日、リアル開業。入念な新型コロナウイルス感染対策を行いながら、ついにオンサイトでのイベントを開始した。多くの観客を招くことは難しかったものの、オンラインも併用して、DaBY最初のレジデンスコレオグラファーの平原慎太郎による「トライアウト&オープンブレスト」、小㞍健太がホストを務め、山本康介がゲスト出演したOpenLab「ダンサー、言葉で踊る」 vol.1などを行い、2カ月遅れの船出となった。

※9:【DaBYチャンネル】「Happy BirthDaBY

本来オープニングで予定していた【トライアド・ダンス・デイズ】※8は、「Choreographing City/都市を振り付ける」をコンセプトに、馬車道を起点とした赤レンガパーク、象の鼻パーク、DaBYの3つの場所を行き交う人々が中心となって彩られる都市の営みにフォーカスして、すべての人々の動きの中に、振付やダンスを読み取る試みだった。

そのため、限定された建築空間でありながら、創設準備当初よりダンスを外部へと開き、社会とダンスをつないでいくことを目指していたDaBYは、オンサイトで集まることができなくとも、映像によるストリーミング配信への切り替えや、バーチャルでのコミュニティ形成は比較的スムーズだった。

また中止になったイベントのうち、日本人のアーティストによる3つのプロジェクトは、コロナ禍で少しでも経済的に支援できるよう手法を工夫して、下記のように創作を継続した。

オープニングでは、米国在住の山崎広太と日本のダンサーたちが、先の3つの場所を回遊し、ダンスとまちとの緩やかな対話を試みるサイトスペシフィックパフォーマンス「都市のなかの身体遊園地」を創作する予定だった。山崎が来日できないことが決まると、オンライン上で山崎とダンサーとの言葉のやり取りを行い、それは映像、写真、サウンド等、多様なメディアによる作品へとトランスフォームしていった。このプロセスを公開するために、急遽、DaBYのアーカイブエリアでの展覧会「ダンステレポーテーション〜時空を超える振付、浮遊する言葉と身体〜」を企画。8月に山崎の一時帰国が決まるとトークやパフォーマンスも開催した。※10コロナ禍でのダンサーたちの思考をたどりつつ、オンラインによってもたらされた、時空を超える感覚と手法「テレポーテーション」がダンスの原点「イマジネーションの飛躍」を認識させる新たな企画となった。自己の表出としての振付を超えることで、形骸化しつつある現代のダンスを更新し、未来へと続く新たなダンス/振付の可能性を切り開くプロジェクトになったのではないかと考えている。

※10:山崎広太と2019年12月のオーディションで参加したダンサー11名がオンライン上で創作を行うことでたどり着いた、新たな創作手法を獲得するに至るまでの一連のプロセスと、現在までの成果=「新たな振付」を、インスタレーション展示という形式で公開した。
https://dancebase.yokohama/event_post/dance-teleportation

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「ダンステレポーテーション〜時空を超える振付、浮遊する言葉と身体〜」展
DaBYのスタジオ内からまちに向かって、複数の空間で展示を展開。パフォーマンスも開催した。
2020年8月7日(金)から9月13日(日)
提供:Dance Base Yokohama

8月にはDaBYアソシエイトコレオグラファーの鈴木竜が【DaBYコレクティブダンスプロジェクト※11 をスタートさせた。各ジャンルのアーティストの思考の過程で生まれた作品のパーツを欠片/フラグメントとして、オンライン上で少しずつ公開することで、クリエイションの過程を見せていくなど、創作方法やアウトプットの手法から見直した。第1回目のトライアウト公演では、都市のイメージをクリップ化し、身体表現との接続を模索することで、パフォーマンスの拡張に取り組んだ。

※11:鈴木竜と20~30代の若手音楽家・ドラマトゥルク・制作・建築家とダンサーがフラットな関係で創作を行うDaBYプロデュースのダンスプロジェクト。第1回は8月30日、第2回は11月16日に開催。第3回は2021年2月にTPAMにて予定、初演公演は2021年12月(愛知県芸術劇場)に決定している。
【レポート】Dance Base Yokohama、DaBYコレクティブダンスプロジェクト 第1回 新作トライアウトで示した、新たな創造環境からの創作発信の可能性 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス(eplus.jp)

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【DaBYコレクティブダンスプロジェクト】
提供:Dance Base Yokohama
2020年8月~11月14日

世界的な3人の日本人女性ダンスアーティストにフォーカスした【トライアド・ダンス・プロジェクト「ダンスの系譜学」」】※12では、DaBYにて6つの小品の創作をスタートさせていたが、公演を1年半後に延期した。そこでこの期間を公演までの「Intermission=幕間」と考え、複数回の【トライアド・インターミッション】を開催し、作品の背景や振付家を知るためのトークを行うなど、公演に至るためのプロセスを公開する取り組みを開始した。※4参照

※12:【トライアド・ダンス・プロジェクト「ダンスの系譜学」】は、7~9月にかけて横浜にてアーティストごとにトライアウト公演を行い、2021年10月1日に初演(愛知県芸術劇場)を予定。PRESSRELEASE1224 (dancebase.yokohama)

ほとんどの企画が変更を余儀なくされたが、開業から僅か半年も経たない間に多くの方々がDaBYを訪れ、コロナ禍にあっても各々の記憶を連ねてくれていることに、今は希望を感じている。大勢で集まることは困難であっても開放的な空間設計が功をなし、建築的にも精神的にもオープンな場所であるゆえ、多様な人々の行き交うプラットフォームが誕生しつつある。コロナ禍でがらんどうになった空間に出会うたびに、人が行き交うことで初めて「場」が誕生することを痛感する日々であった。

また「ダンス観賞」へのハードルを下げ、ダンスにアクセスするための回路を増やしていきたいと、新たに「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ~視覚障害者と味わうダンス観賞篇※13を立ち上げた。コンテンポラリーダンスに対する固定観念のない視覚障害者の一人が、初のダンス観賞の後、ダンス特有のおもしろさを「わからなさ」ゆえの「謎解き」の楽しさと語ってくれた。想像の羽をはばたかせながら意外性こそを楽しんでくれた多様な身体をもつ人々との交流を通じて、ダンスのコミュニティが豊かになりつつあることを実感する研究会となった。こうした取り組みを継続していくことによって、さらにダンスが社会に開かれていくことに尽力していきたい。

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「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ~視覚障害者と味わうダンス観賞篇」研究会の様子
提供 :Dance Base Yokohama
2020年12月28日
©︎Naoshi HATORI

※13:研究会の様子は、ドキュメンタリー映像としてまとめられ、文化庁『文化芸術収益力強化事業』の一環としてバリアフリー型プラットフォーム事業「THEATRE for ALL」にて2021年2月に配信予定。
https://theatreforall.net/

集まることのできなくなった舞台芸術の場。この不条理の前で、劇場やスタジオは単なる空間ではなく、活動し移り変わる流動体であることを、より一層強く意識させられている。立ち止まりながらも、常に思考していく。緩やかにキュレーションの舵を修正しながらも、少しずつでも実行し続けることで、新しい時代に向けて小さな変革を積み重ね、傷ついた人々の拠り所になりたい。ダンスのもつ根源的な力は、監禁状態におかれた社会を記憶に刻み、いつの日か訪れる再生のときにつながっていくであろう。

(2020年12月28日)

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