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TAMミーティング2020 アートの現場の“今”と“これから”について(音楽編)

2020年11月15日(日)
オンラインイベントレポート

コロナ下での芸術活動と表現を考える、オンライン・トークイベント。10月~11月は、全3回にわたって、「演劇・舞踊」「音楽」「美術」3ジャンルの最前線で活躍されている方々にお集りいただき、「アートの現場の“今”と“これから”」を探りました。

第2回目は「音楽編」。

11月15日、オーケストラ、声楽、作曲、3つの領域で活躍する識者の方々に音楽表現、制作の現場で何があり、何が変わったのかを語っていただきました。

歌声がリスクに。「いま思い出しても、つらい時期だった」。

新型コロナウイルスの感染拡大は、2020年を想定とはまったく違う1年に変容させました。

人々は外出を控え、インバウンドの流れもぴたりと止まりました。東京オリンピック、パラリンピックはもちろん、それにあわせて準備されていた多くのイベントも延期や中止に。

では、そんな中で、音楽業界の現場では、何が起き、何が変わったのでしょう? 最初のテーマは「2020年、アートの現場に何が起きたか、起きているのか」。

「オーケストラ業界、声楽・合唱業界、作曲業界を代表するお三方に来ていただいているが、業界を代表としての発言というよりも、個別の体験に基づいた現場の声をぜひ」というモデレーター・若林朋子氏の一言からトークはスタート。

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柿塚拓真氏

まずは大阪府豊中市のプロオーケストラ「日本センチュリー交響楽団」のコミュニティプログラム担当マネージャーであり、豊中市立文化センターの事業プロデューサーでもある柿塚拓真氏が口火を切りました。

柿塚:公演の中止、そして再開へ──。日本センチュリー交響楽団の2020年はそれに尽きる。まず2月中旬からコンサートの主催者、オーケストラ自身、あるいは興行主やホールから中止や延期の申し出が出始めた。4月7日に大阪で緊急事態宣言が出てからは、リハーサルなどもできない状況となった。他のオーケストラもほぼ同じ状況だったと思う

その後、日本センチュリー交響楽団は、6月20日にはオーケストラとしてのコンサートを再開させました。これは日本のオーケストラコンサートの先陣を切る英断でした。

柿塚:「舞台上の距離をとる」「席数を減らす」「休憩をこまめにとる」。そうした制限を用意した変則的なコンサートだった。ただし9月19日から客席の制限などの制限が緩和。10月15日からほぼ100%客席を使ってのコンサートを開催し始めた。もちろんこの間、海外での公演やワークショップは中止。またこの後、話が出ると思うが、飛沫の問題が大きい声楽の公演はいまだ、より厳しい制限が続いている

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竹内雅挙氏

自身も声楽家で、日本声楽家協会の事務局長とJCDA日本合唱指揮者協会の理事を務める竹内雅挙氏は、オーケストラの現状に大きく頷きながら、“声楽のさらに厳しい現状”を伝えてくれました。

竹内:小声でやれるものではない声楽、合唱は極めて厳しい状況だった。まず公演もオーケストラと同じく2月中旬から延期と中止が相次いだ。しかしオーケストラのように6月という早期の再開はできなかった。8月くらいから大きなオペラの公演も再開し始め、新国立劇場なども再開させたのが10月。そして合唱などの活動も10月から11月頭にかけてようやく動き出した感がある

事務局運営サイドからのリアルな声も印象的でした。

竹内:愛好家の方の講座の発表会や、専門的に勉強する研修生の試験などが年度末に多く、その時期と重なった。すべて中止ではないが、規模と内容を変更せざるをえない状態に。この時期事務局には多方面から問い合わせが入り、対応に追われた。2月から4月にかけては、いま思い出してもつらい時期だった

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野村誠氏

一方で、作曲家の野村誠氏は「コロナ禍で家にこもらざるをえなくなった結果、例年より多く曲を創作できた」とポジティブな影響も伝えてくれました。しかも、その作曲スタイルは、これまでとは違うかたちに。海外の作曲家が連絡をくれ、オンラインを介しての共作やツイッター上でのオペラに参加したそうです。

野村:特に海外はロックダウンで暇になった作曲家などが多かった。イギリス、インドネシア、マレーシア、フィリピン、香港などの音楽家、キュレーターなどから次々に連絡が入って、オンラインでのコラボレーションがとても増えた。オンラインで毎日四股を1000回踏む「四股1000」など、オンライン上に交流の場が自然に生まれた。

また野村氏は、普段はその土地々々の人の話を聞いてフィールドリサーチしながら創作することが多いそうですが、移動ができなくなってそれが困難に。その代りに文献をリサーチして作曲することが増え、新たなスタイルを試せたといいます。

野村:挑戦や実験の機会と捉え、できるだけ積極的に活動した。

普通ができないなら「普通ではない音楽」をやるチャンス。

それぞれの現場からも見えるように世の中全体が非接触を推奨されるようになり、コンサートやレッスン、セッションといった接触を前提とした音楽活動は困難を極めるようになりました。

その中で、オンラインやソーシャルディスタンスを使った、「非接触スタイルでの音楽活動」に新たな活路を見出す動きも現れています。

野村氏は「音楽のレコーディングは、従来からブースで仕切られたスタジオで、非接触型で別々のチャンネルに録音し、あとからミックスするスタイルが一般にある。接触も非接触も、コロナ以前から音楽は併存させている」と前提を起きつつ、オンラインによる演奏、共演などの実験についての自身の経験と知見を共有しました。

野村:自宅にいながらリモートで合奏をするツールとして、Zoomなどを試したが、会議用に特化して設計されているためモノラルなローファイ音質で、音楽には不向き。しかも打楽器を鳴らすと雑音だと認識して勝手に消される。つまり普通の音楽はできない。裏を返せば、“普通じゃない音楽をやるチャンス”だと捉えなおした

たとえば4月には、世界各国から50名がZoomで参加。オンラインを通してりんごをかじる音を奏で、野村氏が作曲した『Apples in the dark or in light』のリモート演奏会を実施しました。「音質が劣化して変調し、むしろ電子音のようなおもしろいものに」なったそうです。

あるいは『世界だじゃれ音line音楽祭』と題した参加型のオンライン音楽イベントを実施。それぞれの自宅にある楽器だけではなく、「カーテンの開閉音」や「掃除機の吸気音」「麺をすする音」などの生活に身近にある音で、非接触ならではの自由なセッションを実現。

野村:柿塚さんの企画で日本センチュリー交響楽団が僕の曲の初演を無観客でオンライン配信。観客の方々にチャットで「ドレミを好き勝手に書いてみてください」と促して、インスタント共同作曲などもできた。オンラインならではの手軽な聴衆と演奏者の双方向のコミュニケーションは可能性を感じたし、まだまだ実験を続けていきたい

オンラインによって、「非接触型のレッスンを積極的に実施した」というのは、声楽の竹内さんです。

竹内:演奏のクオリティを担保できるか、不具合があった場合のリスクは…などを考えると、オンラインコンサートは少し抵抗があったので、まずは声楽、合唱を下支えする合唱愛好家や声楽を学ぶ方々に「歌をあきらめてほしくない」とオンラインレッスンを積極的に実施、支援している。日本声楽家協会のオフィシャルサイトでも、たとえば「オンライン研究会」と称してZoomを使った無料グループセミナーを実施。有料の個人向けのオンラインアドバイスレッスンも用意している。日本合唱指揮者協会では多方面から学べるメニューをそろえたコーラスアカデミーを実施している。

非接触でどうすれば…と試行錯誤する中、副次的に大きな可能性とチャンスを見出したのが日本センチュリー交響楽団の柿塚さんです。

柿塚:3月にYouTube上で楽団員の有志が演奏配信をはじめた。「演奏の場をつくりたい」と楽団員自ら声をあげた企画。これまでのように事務局がリードしたものではなく心強かった。また6月には滋賀県大津市の登録有形文化財でもある民家で「一人リサイタル」を実施。庭を開放して、換気を確保したうえで、バイオリン、ファゴット、バストロンボーンと器楽奏者1人だけの演奏会をした。こうした新しいスタイルの演奏、自発性などが誘発された感はある

「危機を機会に」とは常套句ですが、まさにそのような事態が音楽の現場にも現れ始めているようです。また「海外からのアーティストが呼べないため、国内在住の指揮者、演奏者のチャンスが増えている」という間接的な潮流の変化も指摘されました。

アーティストが、いまこの瞬間抱いている気持ちを、かたちにする場を。

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最後は「変わるコロナ以降のアートマネジメント」がテーマ。

まずは柿塚氏が「『芸術は不要不急だ!』というという声も出てくる状況だったが、実際には芸術が不要不急なのでなく、その共有の手段としてのイベントが不要不急といわれているだけに過ぎない」と刺激的な言葉から、提言されました。

柿塚:だからこそ、胸を張って「芸術は不要不急じゃない」というところから始まると思う。この数カ月の中で演奏家などのアーティストは、心の動きそのものが芸術活動となり、作品にフィードバックできる。それを記録して供給する方法をもっと生み出せたらいい。アートマネジメントに従事する方々には、そうした新たな創造にお金が流れる仕組みをつくってほしい

野村氏は「コロナ以降のアートマネジメントを考えるうえで、10代、20代などでいまだ実績がほとんどない人々に注目すべき。その人たちは自分のスタイルを確立していないだけに、この状況に最も柔軟に対応できる可能性がある。」と新たな才能への期待を語りました。

野村:たとえば僕はバブル崩壊のころに本格的に活動を始めた世代。それまでの巨額な予算の企画がなくなっていく中で、バブル期には見向きもされなかった人との交流から紡ぐ音楽に脚光があたり、活動のチャンスが一気に増えた。新型コロナの感染拡大で従来の音楽活動は難しくなったが、だからこそ違った価値観でユニークな活動をする人が出てくるはず。そうした人のアプローチを理解し積極的に紹介していくことが必要だと感じる

「マネジメントをする側として、どうしてもリスク回避からブレーキをかける局面は多いのだが…」と前置きしながらも、竹内氏はアーティストが持つパッションの強さを強調して、提言。

竹内:今日、野村さんの爆発的なエネルギーとアイデア。また日本センチュリー交響楽団のメンバーの方々が自発的に公演や新しい演奏を実現した、という話は大変刺激になった。アートマネジメントはいつの時代も、こうしたアーティストのエネルギーを真ん中に置いて進めていくべきだと強く感じた

そして最後に、柿塚氏から「音楽関係者、アーティストの方々は、いろんな挑戦や変化に立ち向かうのはもちろん大切だが、あまりムリしすぎないようにしてほしい。コロナはまだ続くだろうし、収束後もまだ先がある。その長い音楽人生のマネジメントを考えながら、余裕をもっていろんなものに挑んでほしい」と印象的なメッセージをいただいて、ミーティングは終了しました。

音楽のみならず、あらゆるジャンルのアート活動、アートマネジメントにとって示唆と希望に満ちた90分でした。

(2020年11月30日)
取材・文:箱田 高樹(株式会社カデナクリエイト)

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コロナ下で社会をどう眼差すか?──芸術文化活動の今後に向けたヒント
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