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回遊劇場~アートを活かしてまちの回遊性を高める~

1. 大分市が行うアートを活かしたまちづくり事業とは

大分市中心市街地を歩いていると、ウォールアート(壁画)(以後ウォールアート)やシャッターアートなどのパブリックなアート作品と出会うことがあります。これらは、大分市が取り組んでいる「アートを活かしたまちづくり事業」によってつくられたものです。この事業は、平成25年に本市職員のアントレプレナーシップ事業として開始したもので、文化・芸術の持つ創造性を地域活性化と産業振興に活かし、アートの力を活用して地域の魅力づくりや市民の地域を誇る気持ちの醸成、創造的な人材の育成や地域経済の活性化を図ることを目的としています。この目的を達成するためには、商店街をはじめとするまちの方々と連携を深めることが必要となります。そのため、芸術分野ではなく商業振興を担当する大分市商工労政課が本事業の事務局を担い、アートの力を活用することで市民の皆さまに新たなまちの魅力の発見を促してきました。

このほかにも、(1)アートフェスティバルの開催、(2)パブリックアートの制作と活用、(3)創造性を活用した既存産業の高付加価値化、(4)アートを活かしたまちづくりの普及啓発の取り組みを継続的に行うことで、アートを活かしたまちづくりの推進に努めています。

2. はじまり「おおいたトイレンナーレ2015」

本事業における最初のアートフェスティバルは、2015年7月18日から9月23日の計68日間開催された「おおいたトイレンナーレ2015」です。「ひらく」というキーワードをコンセプトとして、大分市中心市街地の「トイレ」を舞台にしたアートフェスティバルで、トイレという密室がアートを介在させることによって、人々に新たな見方を与え、まちの可能性が開かれる第一歩となることを目指しました。また、観客がまちの新たなおもしろさを発見するための取り組みとして、まちなかを回遊しながら情報を提供する市民ボランティアスタッフ「ポールさん」を配置し、スタッフTシャツに白衣を着用のうえ、作品の案内だけでなくまちの歴史や文化、おすすめの飲食店、お土産などを紹介することで、来場者と市民の交流を演出しました。これ以降「ポールさん」は、2018年、2019年、2022年とアートフェスティバルのたびに大活躍してくれています。私自身も、2018年に「ポールさん」としてアートフェスティバルに参加したことで、まちなかのにぎわい創出に興味をもち、現在では、当事業の担当者として仕事をしていることに驚きとやりがいを感じています。

こうしたさまざまな人の支えもあり、最終的に、18万人をこえる多くの方にご来場いただき、「日本トイレ大賞 地方創生担当大臣賞」を受賞する結果となりました。

「おおいたトイレンナーレ2015」パブリックアート作品 西山美なコ・笠原美希・春名祐麻《メルティング・ドリーム》

「おおいたトイレンナーレ2015」パブリックアート作品
西山美なコ・笠原美希・春名祐麻《メルティング・ドリーム》
※写真は2015年当時のものです。

3. 回遊劇場~ひらく・であう・めぐる~

「第33回国民文化祭・おおいた2018」「第18回全国障害者芸術・文化祭おおいた大会」の大分市リーディング事業であり、大分アートフェスティバル2019のプレイベントとして10月6日~11月25日の計51日間開催されました。大分市内中心部を劇場や美術館に見立て、20組の作家がまちなかのパブリックな空間や日常空間を舞台に作品を展開したほか、空き店舗をカフェに改装し、障がい者の就労支援組織と連携したインフォメーション兼展示スペースとして活用しました。そこでは、作品展に加え、市民参加型のさまざまなイベントを行うことで、大分市という劇場に訪れる人々のおもてなしの場であるとともに、市民自らが劇場の出演者としてまちの魅力を発信する舞台となることを目指しました。なお、この空き店舗は、閉幕後に店舗が入居し、現在人気の飲食店となっています。また、まちに回遊性を持たせるというコンセプトのもと、ウォールアート、空き店舗を舞台とした作品展示、まちなかにあふれるパブリックアートの紹介を行うなど、都市の日常空間にアートをさまざまなかたちで散りばめることで、訪れた方に日常生活では気づかなかった変化や発見を楽しんでいただくきっかけとしました。

「回遊劇場~ひらく・であう・めぐる~」空き店舗をカフェとして活用した「回遊Café#204」

「回遊劇場~ひらく・であう・めぐる~」空き店舗をカフェとして活用した「回遊Café#204」

4. 大分アートフェスティバル2019「回遊劇場 SPIRAL」

「回遊劇場 SPIRAL」は2018年に実施した「回遊劇場~ひらく・であう・めぐる~」の続編となるアートフェスティバルで、ラグビーワールドカップ2019™日本大会の開催に合わせ、9月20日~11月2日の計44日間開催されました。大分市を訪れる国内外の来場者をおもてなしするとともに、市民自らが主体となって参加し、楽しむことで劇場都市である大分市がSPIRAL(渦)となり、大分市の魅力を発信することを目指しました。

前回との違いは、世界最高峰のラグビーの祭典であるラグビーワールドカップ開催に合わせての実施ということで、アーティストの大半が大分県外の国際的アーティストであること、ウォールアートの一部を公募制にしたことで一般の方にも発表の場を設けたことです。またホテルや公共的施設といったパブリックな空間と、新聞社の旧輪転機室と旧紙庫など普段立ち入れない場所を使用してのインスタレーション(空間全体を作品として表現する手法)展示なども行いました。

大分アートフェスティバル2019「回遊劇場 SPIRAL」インスタレーション作品 曽谷朝絵《宙(そら)》

大分アートフェスティバル2019「回遊劇場 SPIRAL」インスタレーション作品
曽谷朝絵《宙(そら)》

5. 大分アートフェスティバル2022「回遊劇場 AFTER」

昨年開催された「回遊劇場 AFTER」は、「回遊劇場 SPIRAL」の続編となるアートフェスティバルで10月28日から11月27日の計31日間行われました。コロナ禍で経済活動が停滞し、まちの活気が失われがちなときだからこそアートの持つ創造性を活用し、産業の振興とまちの賑わいを取り戻すことが重要だと判断し、開催に踏み切りました。

「アート×食×まち歩き」をテーマとし、空きビルを拠点として利用した会場での作品展示に加え、飲食店とのタイアップでの作品展示やコラボメニューの提供、ウォールアートの制作、アートイベントの実施など4つの取り組みを行いました。また、コロナ禍での開催ということで、メイン会場からのYouTubeによる情報発信や毎日のSNS投稿を実施したことで、会場に来ることが難しい状況でもアートフェスティバルを体感できるよう工夫しました。

メインの会場と飲食店とまちなかに点在するパブリックアートを巡ってもらう仕組みをつくったことで、新たな大分市の楽しみ方を提案できたと感じています。

大分アートフェスティバル2022「回遊劇場 AFTER」メイン会場(NTT府内ビル別館)

大分アートフェスティバル2022「回遊劇場 AFTER」メイン会場(NTT府内ビル別館)

大分アートフェスティバル2022「回遊劇場 AFTER」ウォールアート作品 塙 雅夫《見護る牡丹》

大分アートフェスティバル2022「回遊劇場 AFTER」ウォールアート作品
塙 雅夫《見護る牡丹》

6. 今後について

今後の課題として、既存作品を有効に活用して大分市をアピールしていくための計画的な広報活動があげられます。これまでのアートフェスティバル開催により、現在大分市には、地下道作品も含めて17点のパブリックアート作品が存在し、まちに回遊性をもたらしています。このため、今後も、まちの魅力の一つとなるような新たなパブリックアート作品の制作とこれらの作品をイベントや広報で有効に活用し、大分市を訪れたいと思っていただけるよう取り組みを進めてまいります。

関連リンク

アート×まちづくり~ひろがるアート 目次

1
災害からの復興と“文化”
2
価値をつくるアートをつくる人をつくるまちをつくる
3
アーティストコミュニティとしての黄金町
4
まちづくりを担う“若者”の想いを表現する民俗芸能をつなぐ
5
回遊劇場~アートを活かしてまちの回遊性を高める~
6
福島県富岡町での活動
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