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米国の百科事典式美術館(encyclopedic art museum)でのキュレーターの仕事

 米国テキサス州ヒューストン市にあるヒューストン美術館(The Museum of Fine Arts, Houston)でキュレーターをしています。美術館は6万余点の作品を収集する百科事典形式の美術館、つまりギリシャ、ローマ美術から始まり、現代美術まで、古今東西南北で制作された美術品を収集、展示する美術館で、米国では4番目の規模。ニューヨーク市にあるメトロポリタン美術館を小さくしたもの、と考えてください。僕は、当美術館の写真部門のキュレーター2人のうちのひとりで、2万8000点あまりにおよぶ写真作品(19世紀前半から現代まで)全般のコレクションを解釈、管理し、展覧会や出版物をつくる仕事に携わっています。大学院では近代美術史(19、20世紀)を学び、写真史およびニューメディア史全般に加え、日本の戦後美術、建築史を専門とします。

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ヒューストン美術館(The Museum of Fine Arts, Houston)。写真に映る美術館のLaw Buildingはミース・ファン・デル・ローエ(Mies van der Rohe)による2つの美術館建築のうちのひとつ。

 百科事典形式の美術館の美術館のキュレーターに求められるものは、担当する美術分野の専門知識と美術史全体に関する一般知識でしょうか。コレクション構築を通して美術史の一部を解釈し、歴史に新たな一ページを加えていく仕事は、時としてやりがいがあります。ただし、観客は主にヒューストン(米国で4番目に大きな都市)の一般市民ですから、解釈が学研的すぎてもいけない。観客を意識しつつ展覧会と(観客がグローバルである)出版物を通して、いかに従来の美術史を改訂していくか、西洋美術が主体たる近代美術史で、いかにアジアの近代美術を、その特性を語りつつ、歴史の一部にのせていくのかを意識しています。

 仕事の大切な一部は、コレクション作品の拡大および解釈にあるわけで、館長のディレクションのもとに、キュレーターが中心となって購入資金を集め、作品購入を行う。日本の美術館学芸員とは違い、自分たちが企画する展覧会やコレクションのビジョンをコレクターや事業慈善家にアピールし、美術館専属の資金調達の専門家とともにファンドレイズ活動を行い、ビジョンを成就していく。キュレーターに要求される大切な資質の一つは、資金調達の能力でしょう。

 今自分がキュレーターとして行っている仕事を簡単に紹介しましょう。

 まず東松照明、Martha Rosler、Carter Mull、Matthew Buckinghamなどの作家の作品購入を担当。展覧会では、今年末に16mmフィルムと写真作品で構成するMatthew Buckinghamの個展、来年3月に「Utopia/Dystopia: Constructed with Photography」という題の70余点ほどの作品(1930年代John Heartfieldの作品から、Carter Mullなど現在作家による写真コラージュおよびモンタージュ、写真を一部に使用する彫刻を含む)を展示する展覧会を企画中。また、1960年から75年までの日本における写真を巡る環境をテーマに2013年に展覧会を開くべく、リサーチを始めています。9月からはヒューストンにあるライス大学の美術史学部で、非常勤講師として、1945年以降の日本の美術建築史を教えるので、そろそろ準備を始めねばと思います。調査活動でほぼ1年の4分の1をヒューストンの外で過ごします。行き先はニューヨーク、東京、アジアおよびヨーロッパの主要都市でしょうか。5月4日から5日間ウイーンに行きます。将来的に個展を企画したいと思っているベルリン在住のアーティストTacita Deanの個展を観、作家に会いにいくためです。

 キュレーターとして大事なことは、作品に潜む作家の本意を汲み、(時に批判的に)解釈し、歴史にのせていくことでしょうか。そのためには歴史家としての眼を使い、プライマリードキュメントなどに眼を通しながら、現代(あるいは作品の作成された当時)の美術、社会や政治の実情や理論を意識しながら、作品や作家を解釈していく。作品や作家に対する情熱が必要で、やりがいのある仕事だと思います。

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現在ヒューストン美術館で開催中の展覧会「Carlos Cruz-Diez: Color in Space and Time」のインスタレーション

(2011年4月29日)

今後の予定

2013年に予定している1960年から75年までの写真メディアにおけるターニングポイントに焦点をあてた展覧会「Towards Conceptual Photography: Japanese Photography from 1960 to 1975(仮題)」のリサーチに追われています。来年の春の展覧会「Utopia/Dystopia: Constructed with Photography」のカタログ論文を執筆中。

関連リンク

おすすめ!

大学院でお世話になった先生方の書物は、時間があると読み返すことが多々あります。

  • Susan Buck-Morss 『The Dialectics of Seeing: Walter Benjamin and the Arcades Project』(Cambridge, Mass: The MIT Press, 1989. Paperback edition, 1991)
  • Iftikhar Dadi 『Modernism and the Art of Muslim South Asia』(Chapel Hill, NC: The University of North Carolina Press, 2010)

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

ロジャーとはこの10年間のほどの付き合いです。最初は、僕はArts Initiative Tokyoで彼のキューレーションコースの受講生でした。彼は、現代美術や近代美術史から大学教育まで幅広く話しができる親しい友人で、僕は彼の娘Ellenのgodfatherでもあります。
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