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だって、乗り越えた先には新しい世界があるじゃない

なんで長崎?

 修学旅行で行った土地にいま住んでいるというのもなんだか妙な気もするけれど、単身長崎県に移住して3年が経とうとしている。埼玉に生まれ、山形の大学を出てそのまま居着いていたから、皆「なんで長崎に?男か?」と縁を尋ねる。
 私自身は現代美術をしていて、自分を客観視してみると「隙間を埋める」性質がある。逆境も嫌いじゃない。いろんな環境に赴いては足りないものやあったらいいものを補うので、作品も多様になりがち。

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例えば、秋田県/ゼロダテ大館展2008での作品。
解体される旧市営住宅のはなむけに、記憶と想像を行き来する。

 作家としては統一性があったほうがいいんだろうけど、これでいいとも思う。点を重ねれば輪郭が見えるだろう。その点の一つが、現在私が代表を務める長崎県波佐見町のギャラリー「monné porte」(モンネポルト)だった。

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ここが私のいるmonné porte。軒下にはチェアハンモックや、粘土捨て場を利用した金魚(鯉並みのでかさ)の水槽が。

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モンネポルトのギャラリーホワイト(壁を白く塗ったから)。
以前のろくろ場の面影を残していて、奥行き21mと広い。
小作品等を販売する併設店舗部ギャラリーブラック(壁は黒)でも展覧会をすることもある。

 正直に言ってしまえば、そもそも私はギャラリーというものに全然興味がなかった。ギャラリー運営の話を持ちかけられ、きな臭さもあって断り続けていたけど「とにかく一度見に来て」と切羽詰まった友人の声に折れ、足を運んでしまった。そしたら隙間も逆境もてんこ盛り。事故現場に居合わせてしまったかのようなショックが移住を決意させた。築80年の古い木造工場が息も絶え絶え放置されていて、あれを見たら放っておけなかった。波佐見は焼き物の町。モンネポルトは廃業した作陶工場を転用しているのだけれど、そのときリノベーションは中途半端に、人もいない。幽霊騒動まで起こる始末。そして私は幽霊より手強い「人の価値観」と向き合うことになる。

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私が関わるこの場所をちゃんと知ろうと、元の持ち主や従業員だった方に来てもらい、
この建物が最も活気のあった頃をインタヴューした。
その証言をもとに再現を試みた公開制作の作品。

「無駄」はまかせろ

 経済の話になってくるとめっぽう疎いのだけれど、この窯業のまちにおいて「換金できなきゃ価値はゼロ」というミニマムな価値観に偏りきっていたのはわかった。越して早々聞いたのは、自殺、廃業、ひがみや嫉妬や自己顕示欲も轟々吹き荒れる話題。強烈だ。ギャラリーといえば焼き物を売る店のことを指すこのまちで、現代美術なんていきなりやったらキツいだろうなーと思ったけど、やることにした。私は蘇生と現代美術はワンセットという、無茶苦茶気味な信念を持っている。芸術全般そうかもしれない。まちおこし云々という目的ではなく、人に直接働きかける薬ないし毒という意味で。この土地でいう「無駄」が、いま一番必要に感じた。そのうち無駄じゃないとわかってくれる人が集まってくるはず。不況のあおりをもろに受けた窯業界にズッシリ居直った暗雲のなか、逆境をさらにでっかくこしらえて突っ込んだ。

自然発生した場

 長崎県波佐見町、といわれても、移住してしばらくは九州のどこにいるのか、いまいちわからなかった。地図を広げるより現場の観察のほうが重要だった。住んでみると、山間の焼き物のまち特有の雰囲気で興味深いんだけど何となく閑散としている。少し行くと田畑があって、全国の地方は皆そうだと思うんだけど、裕福ではない。定食は安くて大盛りだ。電車は通っていないから、アクセスで頼れるのは高速バスか車。隣町には佐世保市、佐賀県有田町、嬉野市などの観光地。
 県境が情報を遮断しがちだけど、どうも小さなお祭りが頻発しているらしい。焼き物の産地だけあって素焼きの器を運ぶトロトロ低速軽トラが走り、レンガの煙突がポコポコ建つ。男たちは重い陶磁器を運ぶから腕っ節たくましい。若者は見かけない。春には大々的に陶器市が催され、今までの静まり返りが嘘みたいに街中活気づき、夏には蛍が飛び交い、秋の棚田ではファンキーなかかし祭、冬には猪が叫ぶ。そろそろストーブ用の薪を準備しなくちゃ。遅い日暮れが西を実感させる。

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こういった素焼きの器を大事にゆっくりと運ぶ軽トラが走るまち。

 そんなまちの一角にあるモンネポルトも3年、同じ敷地内には、「カフェmonné legui mooks」(通称ムック)、雑貨店「HANAわくすい」がある。この敷地自体がもう、唐突にオシャレだ。地域再生に関心を持つ地元の商社が買い上げた窯元跡地の運営を、若い者たちに投げかけたのが事の発端だった。カフェは東京から移住した、私と同じ"よそ者"が経営するおいしくて気持ちいい店だし、雑貨店はハイセンスなセレクトで、流行に敏感な人たちが訪れている。そしてギャラリーだ。流行とは違う(真逆な?)可能性未知数な役割の建物がボコッとある。

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同敷地内にあるカフェ monné legui mooks(モンネルギムック)の店内。
雰囲気までおいしい。この敷地の建物みんな、冬は薪ストーブで暖をとる。

 ここを言葉にするなら、自然発生に近い偶発的な「現象」だろう。人が人を呼び、お互い協力体制。特筆すべきはカフェmooksの存在で、私と同じ"よそ者たち"がずっと隣に寄り添って、心身ともに支えてくれた。もし彼らがいなかったらと思うとゾッとする。地元の人たちも快く助けて(育てて)くれ、本当にいろんな人たちのおかげで今がある。お客さんたちの車のナンバープレートを見ても、そんな遠くからよく来てくれた!と毎日感動している。

懐アプローチ

 ギャラリー運営にもいろいろなやり方があるのだろうけど、マネジメントのスキルなんて持ち合わせておらず、でもやるしかないから手探りで進む。当初は助成金をいただいたこともあったけどすごくめんどくさくて、実質一人で回すのにも限界があった。なにしろ喜びを分かち合う人がいないっていうのは、思いのほかバイタリティを削ぐ。この場所で最も必要なのは派手さより「しつこい持久力」だと思い、身の丈に応じたやり方を意識した。リノベーションも広報も、できる限り自力でやり、手伝ってくれる人たちの有り難さが身にしみた。展示内容は拒絶され根付かないのでは意味がないので、刺激穏やかなものを交えながら様子を見つつ、幅のある企画を。反省点も山盛りで、独りよがりにならないよういろんな人と話した。そのうち話し(お悩み相談とか愚痴とか)に来てくれる人が増えてきて、今でも人が話しにくれば、仕事の手を止め向かい合うことにしている。まったくデスクワークができない日も少なくないし、それで深夜や休日になっても、電気がついていれば人が寄っていく。もはやプライベートもあやふやで正直キツい時もあるんだけど、こういう積み重ねこそ財産なんだとも思う。

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とにかく話し倒すことを焦点にしたイベント「パジャマ☆DE☆トーク」は、
九州各地と北海道の作家、地元の人びとが集まった。
中央のちゃぶ台を布団が囲む。参加者はパジャマ着用が条件。

 私はこの場が一人歩きして、みんなの居場所や交差点になれば本望と思っているから、私はいままで一度も「私のギャラリー」と言ったことがないんだけれど、もしかしたら「ギャラリーの私」という風に、この建物に呑み込まれているのかもしれない。ここにいる間はそれでいい。だって人に使ってもらって生きる場所だもの、このギャラリーって。

やっと「点」が置けそうな

 今年になって、ゆるやかに変わりつつある。今春開催された別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」は、徐々に九州の美術意識を底上げしていった感触があるし、横のつながりもたくましくなってきた。 少しずつモンネポルトの認識も深まってきたようで、佐世保でのアートプロジェクトの発足にも名を連ねることにもなった。こういう展開は嬉しい。この土地で芸術の話ができるなんて。ギャラリーにはよく笑うスタッフが入り、二人体制になったおかげで私は各地に赴きやすくなった(これはかなり救われる)。そうして知り合った作家が全国から来てくれる。それに引き寄せられ地元の人びとが「自分も何かしたい」と触発される。ギャラリー内に簡易レジデンススペースも作り、少しずつ循環が起こり始めた。

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もともと荷物置き場だった中二階を利用して作った、簡易レジデンススペース。

 建物自体が息を吹き返し「おじいちゃん」とも「おばあちゃん」とも比喩されるようになった。地方の美術拠点は、地味な地盤作りを長丁場でやるしかないんじゃないかと思う。幸いこの土地は、グリーンクラフトツーリズムだとか百笑会(おいしい野菜を作る人たち)など、エナジーある人びとが多いし、なんだかまち自体も元気になってきているような気がする。まだ私も学ぶことばかりだけど、最近になって地元のおじさんが「ジュンコちゃんはレジスタンスばい」とガハガハ笑うそれこそ、超アウェーだった私が報われる瞬間なんだ。


追記:初めてこの類いを書いたもんだから、つい長くなってしまいました。読んでくれてありがとう。

モンネポルトでやってきたこと。例えば、

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捕鯨にまつわる写真展とトークイベント。13mの実寸大クジラのぬいぐるみ(?)を作った。
この地域では昔から日常的にクジラを食べる。

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永里関人(鹿児島)の滞在制作展とパフォーマンス。
レジデンススペース初の利用者だ。
彼とは猪も捌いた。

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アフリカンイベント「BIG FAMIRY」。
ライブ、講演会、地域の出店など、屋外までお祭りムード。

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「2時間でCM作れんのか?」。
広告代理店有志「なんか野郎・九州」が挑んだ、ライブでCMを制作するイベント。

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ピアノとインスタレーションのコラボレーション。
ピアノ演奏のなか、公開制作で会場ができあがっていく。
6公演のすべてが異なるテーマで、作っては壊し、の繰り返し。

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個展会場内で「じぶこん」のライブ。
たまにライブやコンサートも催すのだが、
作家とミュージシャン双方の了承により、こういうことにも。

(2009年9月26日)

今後の予定

  • 2009年10/17 - 11/15
    岩井優レジデンスプログラム「polishing  housing」(10/3から滞在)
  • メーリングリスト「Dear モンネポルターズ」配信希望者はコチラ 

させぼアートプロジェクト2009 12月 (HP制作中)

モンネポルト情報は随時webにて http://monne-porte.com

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おすすめというか、好きなこと。でかいものを見ること。でかい声で笑うこと。

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

那須孝幸さん
私と入れ替わるようにして山形県に帰ってきた那須さんも、地方でのいろんなよいこと難しいことに向かって膝突き合せているのではないでしょうか。持ち前のユーモアと柔軟性とバイタリティ、かなり「素敵レジスタンス」な匂いを感じています!
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