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つなぐ、感じる、考える。ツールとしてのアートの力

資源を発掘し、感性に訴え、そして考えさせられた。つながったのは……?


主役は商品かアートか?

 企業とアートの関係について、考えさせられる出来事を体験した。
 ヨーロッパの某メーカーAの日本デビューのための一連の販促活動でのこと。Aは老舗でありながらも斬新な広告でも一時期話題となっていた。現代アートに理解のあることでも有名なA側の発案で、お披露目のファッションショーの舞台装置の製作には、新進気鋭のアーティストが起用された。有名女性誌が制作過程も取材したいと密着し、複数のマスコミもやってきて、提携した日本企業側も大いに気をよくしていた。ところがメディアが取り上げたのは舞台装置とアーティストのことばかり。肝心の商品の扱いはそれに比べるとわずかで、日本企業側は驚いた。

 私はその日本企業側のスタッフの一員として関わっていたのだが、素人目に見ても確かに、ショーの最中でもその舞台装置の存在感は大きくて商品をはるかに越えていた。そう、単なる舞台装置ではなく、それはまさに作品だったのだ。「主役はふたついらない」----このショーについて後日記事となったある評論家のコメントの一部だ。
 さらに広告のための写真撮影の演出は、また別なアーティストとのコラボレーションだった。あがってきた写真を見るや、「肝心の商品がこんな小さな扱いではまるでわからない!それにこれは一体...」と日本企業側の責任者はついには激怒。A側は、「ブランドポリシーが伝わることが大切」と満足されていたようだが、両者が歩み寄ることはなく写真はお蔵入りとなった。

 ところが数か月後に、ある写真専門誌にお蔵入りした一連の写真が掲載されているのを偶然みつけた。その雑誌が業界でも信頼されていることを以前から知っていた私は、日本企業側の責任者に見せて生意気ながら意見した。「これは写真としては高く評価されていることではないか。ただ商品が大きく写っているだけでは伝えられないことがある。何を伝えるのかという意図が異なっていたのでは...」。印刷物となったその写真と、入社間もない若い女の子の発言に、「これがいいのか...?」と本当に困惑した表情をされていたことを今も思い出す。
 その担当者には、商品とアートのコラボレーションという発想が理解できなかったようだ。企画書からは、あたかも舞台の演台の花のような添え物のイメージしかなかったのであろう。あれはお客様と商品をつないだのか? それともアーティストの表現活動だったのか? 残念ながらその後A側に話を聞く機会はなかったが、日本の担当者は本国との調整にさぞやご苦労されたと想像する。20年以上前の昔話である。

 このサイトの読者や支援企業の間では、こんなことは既に笑い話かもしれないが、アートと企業活動の結びつき、アートの役割については、私の中では今もしばしば考えさせられる。

地域をつなぐ商店街発信のアート

 最近はまちづくりに関わることが多い。地域の中小零細企業とアートの関わりは、前述の企業とは大きく異なる。例えば商店街の小さなギャラリーが、まちに大きな変化をもたらすきっかけを生み出すこともある。

 私が住んでいる埼玉県川口市は、かつてはキューポラのあるまちといわれ、鋳物工場が並ぶ工業都市だったが、昨今は工場跡にマンションが林立し東京のベッドタウンと化している。「燦ぎゃらりー」は、そんなまちなかの商店街にある。「新旧住民の交流の場づくり」を目的に地元商店街が立ち上げ運営しているのだ。マンションの新住民が増え、まちも変貌した。誰もが行きかう駅に近いささやかな空間だが、地元画家や漫画家の展覧会、公民館の活動発表、現代アートやジャズやブルースの演奏など多様なジャンルで、プロにもアマにも貸し出しているのは、商店街ならでは。こられたお客様が商店街を回遊し、結果的に買い物をしてくれればよいということで、市や県の支援も得て小さな多目的ホールとしてオープンしたのは2000年。私がまちなかのアートを支援する発端となった。

 各個店の売上げに直接結びつくわけではないので運営継続には厳しい意見もあるが、運営メンバーはこの事業を通して得られた信頼やネットワークが、商店街のイメージアップや集客にもつながっていると確信している。地元メディアにもしばしば取り上げられ通行量もアップし、当初の目的は達成したと実感している。地域貢献を目的とする商店街独自企画もあり、福祉関係の団体や、地元アーティスト支援、学校や公民館など地域の諸団体、ローカルTV等さまざまなコラボレーションを重ねており自治体からの信頼も厚い。
●樹モール/川口銀座商店街(振):http://www.k-csr.jp/ginza/

 そんな活動の波及効果ともいえるのが、「eぎゃらりー川口」というアートのポータルサイトである。「燦ぎゃらりー」の初代運営委員長が市内の他のギャラリーにも呼びかけ、「川口ギャラリーマップ」を制作した。その後WEB版として継続していこうことで、多くの市民有志が協働で立ち上げ運営することとなった。いずれも、個人が支援金を出資するという手法である。先日、実質的な管理人の交代があったが、変わりなく近隣地域のアートの最新情報を発信し続けている。サイト構築をしてくださったメンバー、本業がありながら無報酬で管理人を務めてくださっているメンバーには本当に頭がさがる。それを支える多数のサポーターの方々にも感謝。

 市民有志その一として参画しているので、自画自賛となってしまうが、その内容の充実度はなかなかのもの。コンセプトや立ち上げ裏話、運営資金なども事も公開しているのでご興味のある方はどうぞ。

eぎゃらりー川口
eぎゃらりー川口

地域資源を発掘したアート

 2004年にはアートプロジェクト「Between ECO&EGO」が川口市で開催された。アーティストの丸山常生・芳子ご夫妻のプロデュースによるもので、中心市街地の複数個所で14名のアーティストがさまざまな表現活動を行った。丸山ご夫妻が元鋳物工場をいかした貸しギャラリー&工房のKAWAGUCHI ART FACTORYを訪ねた2002年から準備は始まり、2005年、2006年には新たなメンバー構成で開催された。

Between ECO&EGO
Between ECO&EGO


 丸山ご夫妻はじめ、参加メンバーは川口のまちでさまざまなフィールドワークを重ねて、その土地からインスパイアされる何かを作品に表現しようとしていた。とりわけ住民も再認識するような地域資源を掘り起こしていたと印象に残っているアーティストの方々がいる。

 山岡佐紀子氏はパフォーマンスはじめ複数のプログラムを行ったが「川口談義」というトークプログムは、さまざまな分野の地元の古老たちを話し手に迎えて、土地のさまざまな記憶を公開記録した。貴重なドキュメントとして「eぎゃらりー川口」のegk特集として今もWEB上で公開されている。

川口談義
川口談義


 広田美穂氏は丹念にまちを歩き、お稲荷さんにまつわる話を収集。今まで見たこともないお稲荷さんの立体マップなどが作品として登場した。地場産業である鋳物工場には、火伏の神としてお稲荷さんをまつる風習があり、工場がなくなった後も御まつりしている家がたくさんあることが改めて確認された。佐藤一枝氏は溶鉱炉にたまったノロを使い、丸山芳子氏は鋳物に街の風景を重ね、岡部昌生氏はフロッタージュでまちを写し取り鋳物の箱に収めた。
 小瀬村真美氏は、やはり地場産業である安行の植木の成長を記録し、古民家を使い動く襖絵のごとき表現でビデオ作品「四季草花図--春--」は大好評であった。
 池田一氏は、その後「国際環境アートムーブ川口」という団体を立ち上げ、若手アーティストや地域の環境団体などを巻き込んで、旧芝川などをテーマに今も活動を続けている。前回のコラム担当相田ちひろ氏も参加メンバーのひとりである。

 もっとも大きな地域資源発掘は、アートを愛する人たち、オーディエンスでありサポーターではないかと感じている。丸山ご夫妻の精力的な試みにより、潜在的なアートに対する需要が掘り起こされたとも感じている。
 並行して始まったKawaguchi39@rtでは、アーティストの開発好明氏の提唱による39@rtに賛同するギャラリーが協働でマップ作成をして無償配布している。2007年からは、行政のアート関連施設や図書館も加わり、2008年には合わせて16の施設が共に出資し作成された。ギャラリー以外に、飲食店や美容院の一角、蔵などさまざまな形態で、展覧会やシンポジウムなどのアート関連イベントが3月9日前後にそれぞれに実施されるという、極めて緩やかな連携である。

 事務局を務めるアート・プラットホーム・カワグチ(APK)の一員として私も参画しているが、実はこれも前述のKAWAGUCHI ART FACTORYから始まっており、そんな地元ギャラリストたちの地道な努力と地元企業のご協力のおかげで、気軽にアートが楽しめる環境になりつつあると感謝。マップを片手に回遊する人たちも増えた。それぞれの店でお客様一人一人に語る彼らこそが身近なアートの楽しみ伝道師であり、アートサポーターを育成している地域資源であるとも言えるかもしれない。

Kawaguchi39@rt
Kawaguchi39@rtマップ(表)
Kawaguchi39@rt
Kawaguchi39@rtマップ(裏)

まちを動かすアート

 遅まきながら申し上げると、私自身はアートについてはまったくの素人である。ただ祖母が日本舞踊の指導をしていたことから、幼稚園の頃には舞台で踊っていた。小学生の時にはやめてしまった筋金入りの根性無しで、その後はもっぱら鑑賞組である。しかし「三つ子の魂百まで」ということか、舞台以外にもアートや音楽に触れることはずっと好きだ。そのため身近に本物が体験できる環境はとても大切だと今も思っている。
 企業が関わるアートについて考えると、中小零細企業の活動そのものは大企業に比べてささやかなものであるが、まちという舞台においてはそのささやかな支援から、大きなムーブメントが生まれて地域全体を変えていくこともある。

 2007年には「向島アートのまち」実行委員会のメンバーとして、向島アート・まち大学に参加させていただいた。テーマはまさに「地域資源を活かしたアート・まちプロジェクト」、私自身もそのプログラムにより他地域の事例に多数ふれ貴重な体験ができた。メンバーの現代美術製作所の曽我高明氏や、東京工業大学の真野洋介先生には川口でアート関係者との交流も重ねていただき皆大いに刺激された。ここにも多くのまちの方々が参加しており、商店街も舞台となっていた。

 まちづくりや、商店街活性化のお手伝いをしていると、職住一体の商店主たちが地域コミュニティを支える重要な役割を果たしていることが多いことに気づかされる。次回バトンを渡す、土澤まちづくり会社もそんなまちの方々が支える三セクだ。より多くのまちの人たちが、「つなぐ、感じる、考える。」ためのツールとしてのアートの力を活用する場面が増えることで、まちもっと豊かになっていくのではないか? さらなる波及効果を生み出すのではないかと楽しみにしている。

 ご紹介した活動が今後どのような形で展開されるかは、現時点では未定あるが、アートが人や地域を動かす力を持っていることは間違いないと素人なりに考える今日この頃である。

(2008年4月21日)

今後の予定

パートナーシップ(協働)によるまちづくりをいろいろな地域でご支援しています。
在住している川口市でも、協働によるまちづくりの仕組みを立ち上げるために、さまざまな試みを企画中です。
その一つに、早稲田大学川口芸術学校の学生さんたちと連携して、地元の企業や団体などまちの動きを映像化していこうという事業を予定しています。
今後立ち上げる予定の地域ポーターサイトのコンテンツの一つとして、地域資源の発掘や情報提供、さまざまなマッチングにつながる可能性を模索中です。

▼早稲田大学川口芸術学校

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どちらの施設も、障害のある方々もいきいきと働けるように支えている周囲の方々が大勢おられて、その後努力には本当に頭がさがります。

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

地元の萬鉄五郎記念美術館、移り住んだアーティストとともに商店街やまちの方々とともに、まち全体を回遊して楽しむアートプロジェクトを3年も継続されてきて、東北はもちろん全国的にも知られてきたようです。
著名作家から手弁当の若手まで、100名を超えるアーティストと多彩なプログラムが圧巻だった1回目・2回目から、4名の作家に絞った昨年度(アート@つちざわ<土澤>advance)までの、他に類のない小さな町の大きな取り組みについてぜひ語ってください。
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