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アート、社会にありき/社会、アートにみたり~アートマネジメントは過激にいこう♪~

 なにを隠そう、僕はトヨタ・アートマネジメント講座(TAM)卒業生である。そう言いきると語弊があるかもしれないけれど、前々回の木ノ下氏のコラムにある1999年 TAM Vol.27 神戸セッション「芸術の基礎体力〜アートマネジメントABC〜」と02年 TAM Vol.44 チャレンジ編「芸術環境整備事務所の設立と運営」のどちらにも参加している。初回コラムで森氏が「TAMをやらかしてしまった」とぶっちゃけているが、TAMによって一人歩きするアートマネジメントという"よくわかんないコトバ"を、身の丈に落としてくれたのもこのTAMだった。当時、業界内でよろしくやっているアートに全く関心を持てなくなっていたが、木ノ下氏が仕掛けたTAMチャレンジ編によってアートと社会を結ぶ役割の必要性を感じるようになったのだから。

 それと時を同じくして、NPOという活動が世の中に台頭し始めていた。市民イニシアティブの公共政策と言い換えることができるこの活動は、うさんくさいながらも非常に魅力的に写った。自分たちのやっている活動はどうもNPOと言うらしいと知ったのもこの頃。「アートは社会革命だ!」、「NPOは市民革命だ!」と意気込むアート側、NPO側の双方の主張は、お互いにシンパシーを持っていた。両者が結びついて"アートNPO"が生まれるのは当然のことだ。そんな時流を得た過激な主張にいともたやすく流されるまま(笑)、僕は新たな一歩を踏み出すことになる。

 全国各地で活動するアートNPOが初めて一堂に介して課題を共有しあう場、「第1回全国アートNPOフォーラム in 神戸」の開催である。TAMの演劇セッションディレクターだった市村作知雄氏とアサヒビール芸術文化財団加藤種男氏とともにアートNPOフォーラム発起人として名前を連ねることになっ(ちゃっ)たのだ。全国からこのフォーラムに集まったアートNPOたちは、自分たちがやっているアートNPOという活動の過激さを知り、必然性を確認し合った。熱気溢れる2日間は瞬く間に終わり、新たな時代の到来を告げた。昨年3回目を迎えたアートNPOフォーラムは、全国のアートNPO関係者を理事とするインターミディアリー組織『NPO法人アートNPOリンク』を誕生させた。アートNPOのこれからの活動にとって、この組織は大きな意味をもつことになるだろう。


[写真]第3回全国アートNPOフォーラム in 前橋
左上:フォーラム分科会の会場を商店街の中に。近所の商店主も覗きに来るアットホームな感じに。
右上:フォーラムのメイン会場。昔のスーパーマーケット跡地を活用。
左下:前橋市内のシンボル、旧麻屋デパートを分科会会場に。戦前、おめかしして買い物に行くなら麻屋さん!というぐらいの華やかなデパートだったという。
左下:まち歩きワークショップでの一コマ。商店街のアーケードの上から町並みを再発見。"視点を変えてまちを見る"をその通りに体現してみた。

 何年ぐらい前だろうか?グローバルというコトバがもてはやされた時期があった。インターネットが登場し始めた頃だから、十数年前かと思う。当時ドがつく田舎者の僕は、全く意味もわからずグローバルというコトバだけを知った。それがここ数年、ソーシャル・ネットワーク・サイトやブログが急速に浸透したことでバーチャルではあるが、グローバルが現実味を帯びてきた。誰もがインターネットを通じて一家言を発信することができるようになると同時に、世界中の悪口も同時に飛び込んでくるという具合に。

 昨年アートNPOリンクでは、英国をはじめとするEU6か国と横浜市、横浜市芸術文化振興財団が主催する『EU日本創造都市交流2005』に協力した。これは、地域の文化政策を担うアートNPOを主体に、カウンターパートナーとして地方自治体とともにグループを組み、EU各国のクリエイティブシティ(都市計画家チャールズ・ランドリーが提唱。文化を前面に出し、行政や市民が想像力を発揮して創造的に経済活動や生活をすることで、都市の課題を解決するというもの)を視察するという事業だ。この視察で訪れたEUの都市を見て、うらやましいと思う反面、不安をかき立てられることがあった。その不安は、EU統合によって引き起こされた急激なグローバリズムがもたらした弊害に由来する。聞くところによると、EU統合によって工場が東に移り、西側の工業都市は急速に衰退、失業者で溢れたまちは、地域の活力のみならず住民の誇りまで失ってしまったという。さらにコロニアリズムの落とし前とも言える、不法移民による治安の悪化が追い打ちをかける。訪れた都市では、いくつか不当なアジア人差別を受けた。そこでは勤労なアジア人不法移民が地域の雇用を奪っているからだという。帰国後、不安は的中した。ロンドンでは戦争に絡む地下鉄爆破テロ、フランスでは移民問題に絡む大暴動が起こった。

 なぜいまEU各国はアートによる都市活性をしようとしているか、なぜアートが社会現象と不可分離と考えるのかがここに現れていると思う。これら疲弊した都市では、地域の経済的復興もさることながら、地域住民の誇りを呼び覚まし、生きる力を育む、かつ異文化へのポジティブな関心と多様性の受け入れが急務になっている。現に、視察した先(=暴動があった都市)では、アートイベントとして旧東欧やアジアをフィーチャーし、アーティストたちとともに戦略的に"コト"を起こそうとしている。アートが何かの役に立つのではなく、アートにしかできないことをやろうとしている。月並みな言い方だけれど、アートが"多様性そのもの"であり、"正解"が存在せず、アイデンティティの"脱構築"を促すからに他ならない。解体されたアイデンティティは、アートによって生み出されたコミュニケーションによって再構築され、コミュニケーションとともに再解体される。この一連の脱構築=永続的運動こそがアートをアート足らしめていると思う。アートは、既成概念や膠着したアイデンティティに強烈なショックを与える。観る者は、これまでの自分の経験、価値観、思考方法を総動員してアートを"理解"しようと試みる。アートを介した自己との対話がそこに生まれる。そして自己と対話した人は、他人とアートについて話をすることによって、(極めて微妙な差異であったとしても!)自分の読み解きとは異なる新たな視点や価値観、意味を見いだすことになり、自分の"理解"の不確かさや強固な意志に気づくだろう。衝撃的な作品は誰かに話したくなるもの。コミュニケーションがアートによって誘発されるゆえんだ。

 これを都市活性に置き換えると、こうだ。都市の活性に不可欠な地域コミュニティは、コミュニケーションの持続によって発生し、アイデンティティを構築する。しかしコミュニティは時間が立つと膠着し、コミュニケーションが少なくなるがゆえに排他的になり、衰退する。これが都市の疲弊と異文化コミュニティとの衝突をもたらす。この悪循環を打破するのは畢竟コミュニケーションしかない。このコミュニケーションを生み出す装置が、アートだ。だからこそ、都市の活性と多民族の融和にはアートが必要だという理論がEU各国にある。


[写真]EU日本創造都市交流2005
左上:音楽ホール、the Sage Gateshead とミレニアムブリッジ(ゲーツヘッド/英国)
右上:視察団ご一行様 in OXOタワー(ロンドン/英国)
左中:昔の繊維工場を活用したアートセンター、maison Folie de Roubaix(リル近郊/フランス)
右中:たばこ工場跡地をアートセンターに活用しているラ・フリッシュ・ラ・ベル・ドゥ・メ。貨物船用コンテナがオフィスに。なんでコンテナ?と聞くと、イベント毎にどこでも動かせるじゃーんと軽いノリで。たしかに敷地は広大だった(マルセイユ/フランス)
左下:Metalu。元金属工場跡地をアーティストたちがファクトリーにしている。なんでおフランスはこんなものまで絵になるの?(リル近郊/フランス)
右下:Royal de luxe のスケールのでっかいスペクタクル。大道芸のレベルが全然違う...(アミアン/フランス)

 「第3回全国アートNPOフォーラム in 前橋」でこのEU視察報告を行った際に、会場から極めて興味深い発言があった。「文化というのは回りまわってまた自分のところに戻ってくる。確かに外国はアートを非常に重要視していて、私たちはあまり重要視していないように思えるけれど、それはおそらく表裏で繋がっていて(略)同じ事がくりかえされる。」 まさにそうなんだろうと思う。西欧がグローバリズムとコロニアリズムの落とし前を迫られている現状は、日本の現状と少なからず一致する。あるアジア人が言ったコトバと妙にシンクロしてならない。「日本は武力でのグローバリズムは果たせなかったが、結局経済でグローバリズムを実現した。これは同じことだ。」 日本がいま直面している対アジア各国との関係を危惧する市民は多い。異文化を相互に享受し、コミュニケーションを継続させて新たな未来を探るのは、もはやEUだけに課せられたテーマではない。好むと好まざるとに関わらず市民ひとりひとりがグローバルに世界と直結したいま、地域や国家を超えて自分たち自身で自分たちが住む地域の未来についてグローバルな視点で考えるべき時代に突入してしまった。

 地域の課題はごまんとある。さらにグローバルに考えるなんて途方もない。ここまで書いてきてなんだけど、アートは社会の課題を解決しない。アートは、ただ混沌や課題といった"非在の現前"を可能にするのみだ。しかしそれによって問題を提起するとともに、コミュニケーションを誘発する。ローカルな特殊性に根ざした活動をしているアートNPOは、"アートな出来事"をまちの中で展開してしまう。グローバル化により均質化する地域(もしかしたら世界も?)に新たな多様性と相違をうみ、意識変革とコミュニケーションによって地域の魅力を創造する。アートNPOが仕掛けるアートが、地域市民の意識を高め、サスティナブルな社会、共存可能な世界の実現のための"超過激な道しるべ"となっていくことは間違いない。

 だからこそ毎日いろんなオトナに叱られても、何度も失敗して鼻をへし折られようともアートNPOはやめらんないのだ!!

※本稿における「NPO」は、NPO法人と明記してある場合を除き、任意団体等も含む広義の非営利団体を指す。

(2006年3月24日)

今後の予定

□ アートNPOリンク予定:
1)第4回全国アートNPOフォーラムの開催(青森・別府2カ所予定)
2)文化庁との共同勉強会を開催。
3)アートNPOの活動リサーチを行います。

□ NAMURA ART MEETING の予定:
今年は夏頃に名村造船所跡地で開催予定。クラブ・バブル(ケミカルな泡にまみれて踊るクラブ)の開催を切望しています。

□ アサヒアートフェスティバル2006:
実行委員会として参加。フェスティバルの検証方法について考えたい。

□ トヨタ・子どもとアーティストの出会い:
今年は、札幌のアートNPO NPO法人S-AIRとともに、札幌市でアーティストインスクール事業を展開します。沖縄那覇市でのNPO法人前島アートセンターとの共同事業も継続展開。関東でのシンポジウムの開催も予定。

関連リンク

おすすめ!

『クリエイティブシティ ―アート戦略都市』(仮題)
出版社: 鹿島出版会
発売日: 2006年4月末(予定)
EU日本市民交流年に合わせて、昨年6月に行われた「EU・日本創造都市交流2005」の視察報告書。11月に横浜で開催された同シンポジウムの内容や、椿昇氏と吉本光宏氏のクリエイティブシティをテーマにした対談など、まさにいま旬な<アート×都市>ネタを多数収録。
ちなみに、アートディレクションをアートNPOリンクが担当しています。書店で見かけたら、即買いましょう!!

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

芹沢 高志 様

アサヒアートフェスティバルの事務局長、デメーテルの総合ディレクター、横トリのキュレーターと、難しい名前の役職をつぎつぎとこなし、地域や環境、コミュニティなどをテーマとした極めて特殊なアート展にひっぱりだこの芹沢さん。
いまのアートマネジメントにもの申す…いやまてよ、その前に「もし億千万の自由に使えるお金があったなら」アートに関するどんなことをやりたいか、絵空事の夢物語を語っていただければ幸いです。オトナが夢をみなくて、どうする!ってことでひとつよろしくお願いします☆
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