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高知県立美術館ホールの最近の動き

 先日『高知県立美術館ホール活性化計画』という冊子が刷り上がりました。これは財団法人地域創造の助成制度のひとつ、公立文化施設活性化支援事業の助成を受けて策定したもので、策定した計画の推進に対しても3年間にわたり助成いただけるものです。この制度に応募した動機は、継続して助成いただけるというのも大きな魅力だったことはもちろんですが、2002年に「高知県立美術館事業評価プロジェクト」を実施した際からの懸案事項である中期計画策定の良い機会であったこと、そして指定管理者の公募に際して、3年間の助成内定が有利に働いてくれたらという希望的観測からでした。

『高知県立美術館ホール活性化計画書』


 「高知県立美術館事業評価プロジェクト」は同志社大学の河島伸子助教授にお願いして実施したものですが、報告書の終章「今後の課題と展望」において、まっさきに「ミッションの明確化と戦略的経営計画」の必要性が指摘されていました。そこで2003年に1年間かけて職員で議論し、「高知県立美術館の指針」を作成しました。検討している頃から指定管理者制度の噂も聞こえはじめ、2004年には、高知県が指定管理者制度導入に向けて「高知県立文化施設等検討委員会」を立ち上げ、「高知県立文化施設の目指すべき方向〜これからの文化施設のあり方〜」を策定しました。その内容は「高知県立美術館の指針」を基に作られていましたが、ホール部門に新たに「新しい芸術の創造・発信」が追加されていたことや、自分自身が美術館ホール事業の新しい展開を模索していたこともあり、TAMでもお世話になった市村作知雄氏や加藤種男氏を始め、久野敦子氏、吉本光宏氏等県内外の有識者11名に6月から9月の間に4回お集まりいただき策定いただいたのが「高知県立美術館ホール活性化計画」です。(残念ながら内容に触れる余裕がありません。)

 さて、「高知県立文化施設の目指すべき方向〜これからの文化施設のあり方〜」で追加された「新しい芸術の創造・発信」に関しては、「クリエイション05」というタイトルで今年度から意識的に取り組んでおり、地元若手劇団の組織「演劇ネットワーク演会」の選抜メンバーが出演し、今年度静岡県舞台芸術センター所属の中島諒人氏(劇団ジンジャントロプスボイセイ主宰)の演出で、イプセン作「ヘッダ・ガブラー」を高知県立美術館の中庭と富山県利賀村で上演しました。上演会場がホールではなく中庭に決まった7月中旬以降、中庭でほぼ1か月半にわたり連日深夜12時近く(時にはそれ以降も)まで練習が続き、私たちこういう取り組みが初めての美術館スタッフにとっては大変な毎日でした。けれども出演者たちも私たちと同じように朝から仕事をした上で、夜間練習をしていることを考えると不満も言えません。その甲斐あって高知での上演は2日間で1000名近い方にご覧いただきました。その上、利賀村でご覧になった静岡県舞台芸術センター芸術総監督の鈴木忠志氏から高い評価をいただき、出演者の仕事の都合で上演作品はカミュ作「誤解」に変更になりましたが、12月17日・18日に静岡県舞台芸術センターのウイークエンド公演でも上演させていただきました。1か月足らずの間に新作に取り組んだメンバーの情熱には本当に感心しました。出演者には百貨店の社員もいて、年末の一番忙しい時期に休暇が取れるほど職場の理解を得ていることにも驚きました。さらにこのコラム先月担当の大森誠一氏からは、来年度高松で開催される第3回サンポート演劇祭にご招待の話をいただいており、「演劇ネットワーク演会」のメンバーともども「舞台芸術活性化事業」に取り組んだことの成果と波及効果の大きさを実感しております。

ヘッダ・ガブラー公演会場風景:美術館中庭


 「クリエイション05」は、この他にも6月には高知市出身の演出家明神慈氏率いる劇団ポかリン記憶舎に新作「短い声で」を書き下ろして上演していただき、12月にはニューヨークのマース・カニングハム舞踊団唯一の日本人ダンサーで高知市出身の水田浩二氏のダンスと、同じくアメリカ在住で高知市出身の写真家、吉岡悟氏の映像のコラボレーション公演「カメラ・オブスキュラ」を行いました。

ポかリン記憶舎「短い声で」

水田浩二(ダンス)×吉岡悟(映像)コラボレーション公演「カメラ・オブスキュラ」


 「舞台芸術活性化事業」への取り組みと「高知県立文化施設の目指すべき方向〜これからの文化施設のあり方〜」において「新しい芸術の創造・発信」が追加された背景には、「高知県立美術館ホール活性化計画」の委員も務めていただいた高知女子大学文化学部教授の鈴木滉二郎氏の強力なプッシュがありました。二の足を踏んでいた私たちの背中を強く押して方向を定めてくださったことを感謝しております。

 高知県文化財団が現在管理運営を受託している施設の指定管理者は、高知県立美術館も含め、知事の鶴の一声で「公募」の流れが「直接指定」に変わり、向こう3年間は高知県文化財団が指定されることが内定(議会は未通過)しておりますが、3年後はまったく予断を許しません。『高知県立美術館事業評価プロジェクト報告書』に指摘されている通り、「自分たちが優れた芸術と思うこと」を提供し続けるだけ(催し物の多様性に欠ける高知県ではこれも必要だと思いますが)ではいけません。「高知県立美術館ホール活性化計画」の基本方針と事業目標を達成するためのモデルは、今では全国にいろいろあります。3年後の命運はそれを私たちが実際に実行できるかどうかにかかっています。

(2005年12月22日)

今後の予定

■美術館ホール当面の予定

1月9日(月・祝)・14日(土)・15日(日)・21日(土)・22日(日)
【冬の定期上映会】
成瀬巳喜男映画祭[名作24本を上映]

2月3日(金)・4日(土)
狂×楽[狂言と文楽の共演]

4月5日(水)
演劇祭 KOCHI 2006
【舞台公演シリーズ】
静岡県舞台芸術センター
「酒の神ディオニュソス」

5月31日(水)・6月1日(木)
演劇祭 KOCHI 2006
【舞台公演シリーズ】
高知県立美術館製作
カミュ作「誤解」

6月10日(土)・11日(日)
【春の定期上映会】
イラク映画祭(予定)

7月21日(金)・22日(土)
【舞台公演シリーズ】
ロベール・ルパージュ作・演出
「ライフ・オブ・アンデルセン」

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

木ノ下智恵子さま

最近は金森穣のびわこホールでの公演でお会いしたきりですが、「神戸アートアニュアル」でのアーティストとの共同作業による展覧会を始め、実際に行うにはとてつもない能力・体力・エネルギーが必要だと思われた事業を次々と実践してきた木ノ下さんの仕事振りをとても尊敬しています。少しでも近づくことができれば!
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