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発明デザイン

 言い出したのは80年代でした。もちろんプロダクトデザインを視野に入れてのことばです。もともと「美」を根源とするデザインにおおいに不信感を持ちつつデザイン業をスタートさせていました。有識者というか有色者というか、そういう感覚的に評価された人々の発言や過去の美的価値を盲信することへの疑念が考えれば考えるほど沸き上がってくるのです。名作というものがどうしても信じられないのです。美が生活を必ずしも幸福にしないことにも不満がありました。美をまったく意識しない父や母のなにげない暮らしの、なんと生き生きしていることか。
 そんななかで思いついたのが発明デザインです。表面的な形状ではなく中身の成り立ちそのものを考えたいという思いから、発明ということばを使いました。決して単なる金銭目当ての発明家ではありません。地球全体を見通せる夢のあるデザインが前提なんです。
 表面的な形状にも発明的な造形や色使いがあって、それには敬服するし、めざすところです。でもどこかで見た寄せ集め的造形や美しいアレンジというのはどうも苦手です。
 そういうことを考えていくと苦しいようですが、本当は楽しいのです。美的常識に囚われず、過去の評価を気にせずに挑戦することのなんとワクワクすることか。よくわからないけれども現代美術な感じなんです。デザインは流行ですから繰り返します。簡単に言うと世の中の動きとリンクしながら形状中心の時代と発想中心の時代が数十年おきに押しよせますが、私は発想側の人間でいたい、ということになります。

UnBRELLA

 今年ようやく発売された傘「UnBRELLA」についてお話しします。
 UnBRELLAという名前は綴り間違いではありません。UMBRELLAという傘の常識を覆すためのUnです。国連のUNにもかけています。意味不明ですが...。UnBRELLAは、13世紀から基本構造に変化のなかった傘を根本的に見直しました。外骨格で逆開きにすることで、閉じた状態では濡れた面が内側になってズボンなど衣類を濡らすことが少なくなる傘です。結果的に自立したり人間側がスッキリすることで髪の毛を巻き込んだりすることのない発明的デザインの傘です。
 UnBRELLAは着想から35年もかかってものになりました。その35年間の日本の、そして世界の変化は凄まじいものがあります。着想した頃はまだ美大の学生で恐ろしいぐらい純粋にプロダクトデザインには社会を変える力があると信じていました。また、人々には新製品を渇望する飢餓感があり、ニーズがたくさん転がっていました。そういう意味ではわざわざ傘を改革しなくても他に改革するものが山ほどあった時代でした。
 その後、世の中はバブルに突入しホテルは満室、タクシーはつかまらない状況になり、土地や株など脂ぎった大風呂敷の時代は傘など使い捨てぐらいの意識だったでしょう。
 それが2007年頃に再び傘の試作を思い立ったのは、世の中の閉塞感に他なりません。簡単にはものが売れなくなり、かといって革新的な新製品も生まれにくい状況です。普通でいいという風潮がものづくりやデザインの世界でますます空気を沈滞させるなか、この閉塞感に少しは抵抗できないかと自分の中で傘のアイディアが盛り上がってくるのを感じていました。
 この逆開き傘というアイディアを最初から積極的に受け入れたのはデザイン仲間で、試作発表の企画などで背中を押してくれていました。でも一般(というのも変ですが)のデザインフィルターのかかっていない人には傘の変革はまったくピンとこない行為に映ったようで、手に取ってみてくださいと言っても怖いものにさわるように接していたのを思い出します。
 傘職人の方々も最初は同様で、「不格好でありえない」と耳にタコができるくらい聞きました。傘産業が海外移転していくなか、大阪に残った最後の職人さんは「そんだけ言うんやったら」と重い腰を上げてくれるのです。大阪の人間関係は、一歩踏み込むことで仲良くなり、なんでも話すようになってしまいます。大阪ではそのような勇気が壁を突き破ることを思い出した瞬間でした。そこから傘骨や生地カットなどそれぞれの職人がつながり、ひとつのチームのようになっていきました。
 悩ましいのは商品化と販売です。しかし東京は下町でデザイン雑貨を企画販売するN社長が加わることでまさかのリアリティーが与えられ、職人も驚く展開になっていきます。2013年大阪と東京の下町連合で傘をめぐる小さな革命がスタートしました。

UnBRELLA-01
UnBRELLA-01
UnBRELLA-02
UnBRELLA-02
UnBRELLA-03
UnBRELLA-03

踏絵本

 そもそも新しい絵本を開発しようと思考を巡らせているときに、ヘルスメーターが目に飛び込んできました。プロダクトと絵本が一体化した瞬間でした。いわゆるアナログ体重計絵本です。
 くるくるくるくる顔が変化し自分の重さでその時の顔が決まります。どこかの首相はどんどん首がすげ替えられますが根本的には変わらない。そんな感じ。横断歩道を手をつないで渡る子供たち、でもくるくる回ると誘拐犯に連れ去られます。そんな世の中の裏側が踏絵になっているのです。2010年の「観◯光」で二条城に出品した作品です。乗りたくないと言っても、踏絵ですから。

踏絵本-01
踏絵本-01
踏絵本-02
踏絵本-02
踏絵本-二条城での展示(2010年)
踏絵本-二条城での展示(2010年)

考えたくないけど、デザイナーは不要かも

 デザインの歴史は浅いようで深いです。デザインということばを使う以前からそのような感覚で多くのものごとが動いてきたに違いありません。 でもデザイナーの歴史は浅いです。画期的なデザインのほとんどはデザイナー以外の人々が考えたといえます。本当にこのような代理業が必要かどうか怪しいし、テクノロジーの進歩などで人々が自分のことは自分ですませて、わざわざデザインにお金を支払うことがばかばかしくなる時代がすぐそこに来ています。自分でデザインやっちゃってください。
 いまでも日本はデザインが自由で、その結果、まちが無茶苦茶で、さまざまな美や主張があふれています。そのうえプロダクトまでみんなが自由にデザインするとどうなるか、意外にデザイナーの価値が見直されそうな気がします。誰にでもできそうなことこそ、デザイナーを必要としている気がするのです。

著書-デザインサーカス|(ラトルズ)(2007年)
著書-デザインサーカス|(ラトルズ)(2007年)
イカそーめんシステム-紙の壷
イカそーめんシステム-紙の壷
イカそーめんシステム-国立本店での展示(2008年)
イカそーめんシステム-国立本店での展示(2008年)

(2014年5月25日)

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実写版魔女の宅急便の自転車を見ましたか? 谷信雪さんは自転車を作品としてとらえ、独特の世界観でつくり上げていきます。自転車に乗る人のことを直感で把握してデザインする姿はなぜか神々しささえ漂います。
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