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バックヤード



 一条さんからリレーコラムのバトンを受け取った造形作家の大隅秀雄です。大学に入学したとき、知合いの先輩にオートバイのつながりで紹介してもらってからの長いお付き合い。その当時から一条さんはカッコ良かったですね、青い革のツナギを着てサイドカーに乗っていて。一緒にツーリングに行ったりレースに参加したり、そして故障や修理の体験、いろいろオートバイ談義は尽きませんが...。

 乗る愉しみ・眺める愉しみ・直す愉しみ。頷いてらっしゃる方も多いのでは...。僕は3Kならぬ3Nと勝手に言っているのですが、オートバイを通しての最大の愉しみを共に育んできたことも長いお付き合いの理由のひとつ。もちろん一条さんはいずれにも情熱をたっぷりと注いでいらっしゃいました。

 一条さんのコラムでご紹介を頂いていたコラボ作品、2013年夏、世田谷美術館での企画展「栄久庵憲司とGKの世界 鳳が翔く」で制作した≪鳳≫について少しだけお話しします。

 造形的に美しく翔くように制作するという重大な使命を仰せつかり、試行錯誤の連続でした。風を受けて動くのではなく、自ら翔くようにしたいと考え、こんな動きができると提案しました。テスト中の動画はこちらにあります。バランサーの中にソレノイドを組み込み、50グラム程の錘の往復運動で重心移動をタイミングよく行い、動きを増幅し翔かせています。

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バランス調整中の羽根
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チタンの着色をしたあとの羽根

 もうひとつ重要なポイントは頭部の冠羽です。おそらく遠目ではごく自然に冠羽に見えると思いますが、実は愛用のオートバイYAMAHA XT500のクラッチレバーそのものを組み込んでいます。ヤマハ純正部品!! ワイヤーも添えてあります。これには伏線があります。数年前に必要に迫られピザカッターを自作したとき、悩んだ挙句、無理してハンドルをつくらなくてもいける、とても良い素材を見つけたのです。それが自分のオートバイのブレーキレバー!! 握りやすく形もいい!! これを組み合わせて完成。写真は一緒に撮影したものです。不謹慎かもしれませんがツーショット!!

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鳳の頭部とピザカッター

 作品のタイトルに「風」という文字や関連した文字をたくさん使ってきましたが、本当はもう少し間接的な言い回しができたらいいなと思っていて、「風」と書くととても詩的な印象で良いのだが、少し気恥ずかしい。空気の流れであり、窒素、酸素、アルゴンなどの気体が漂ったり動いたりして、と書いてしまうと、いかにも物理的な印象になってしまい、バランスが悪くなってしまう。

 ということもあって、このところ「けはい」ということばに惹かれている。日本の「間」という文化、曖昧さ、あそび。ゆらぐ、そよぐ、あわい(間)、けわい、やまとことばの魅力である。

 風、空気、けはい、いずれにしてもアトリエでの作品づくり、生活、趣味にわたって深くかかわっていて、気になりだすとほうっておけない。

 作品を運ぶのに1980年台のやや古い車に乗っているので、季節、天候、気温、湿度、空気密度などでエンジン具合が微妙に変わり、メンテナンスが厄介でもあり楽しみでもある。エアコンもないので、暑い季節に雨が降って渋滞したらヒーターでウインドウの曇りを取る...。置いて帰りたくなる。物好きなバカなだけであるが...。三角窓から入る心地良い風は捨てがたい。

 住まいも山暮しで当然エアコンなし、夏暑くて冬寒い、隙間風も自由自在、梅雨時や霧の日は湿度100%、カビとお友達の生活。アトリエでは、湿った暖かい西風が入ってくると、数トンもある鉄の塊の工作機械は結露して、油が塗ってあっても美しい錆だらけに。東風が吹けば温泉のイオウの香りと共に銅や真鍮がいい色に黒ずんでしまう。しかし、低気密住宅なのでガス中毒の心配なし。春、窓全開にして山桜の花見でプシュッとビール。夏、ヒグラシの大合唱を聞きながら、プシュッと...。やや不便で快適ではないこともあるが、風通しのいい暮らしはいいもんです。

 ちょっと脱線してしまいましたが、風の力を借りて動きのある作品をつくるうえでは、ここの暮しはとてもいい条件のようです。のどかな春の風、低気圧にともなう嵐、湿った夏の風、すすき野原をわたる秋風、乾いた冬の風、極寒のキ~ンとした風...。

 感性に訴えかけてくれる豊かな自然に囲まれて、風を待つ、空、時、間、が、日本人の美意識を蘇らせてくれる。さまざまな表情豊かなことばで表現される「風」を、時間軸も含め造形表現したいと活動している。

 近作のステイトメントは、次のように書くことが多い。

なつかしい道具や機械を見ていると、ゆるやかな「時」の気配が感じられる。
手の延長としてゆったりと慈しむように、ものを作る手助けをしてきた。
心優しく、気持ちの通じる道具や機械たちが持つあわい。
ずう〜っと豊かな時を過ごしてきたに違いない。
ゆったりとした時の流れを実感出来るような装置をしつらえ、
「心なごむ風」を吹かせたい。

 今回参加した、観〇光 ART EXPO 2013 京都・鎌倉展 〜日本の美とこころ〜では次のように書いた。

風は生きている、風は美しい、心を揺さぶり人を動かす。
春・夏・秋・冬・移りゆく季節、刻々と変化する風景。
ここちよい風・いじわるな風・ささやく風・さまざまな表情を持つ風。
風の言葉に耳を傾け、ゆったりとした時が流れる空間をしつらえ、
いつもと違う「美しい風」が吹くのを待ちたい。

 京都御寺泉涌寺での展示では、縁をいただいた方々の後押しがあり、すてきな展示ができました。会期が終わり片付け始めると、お寺のお坊さん方に、これは持って帰られるのですか? と尋ねられ、ほとんどお世辞とはいえ心に残るものがありました。視覚的には異物でも精神的には根底に流れている何かがあると。この展覧会は「日本で育まれてきた精神文化による文化芸術の継承と発展、そして未来への創生を目指します。」という理念のもとに開催され、日本人の根底に流れる伝承すべきものは何か、と問いかける。写真や動画だけでは伝えきれないのですが、少しだけ紹介させていただきます。

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泉涌寺にて
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泉涌寺にて
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泉涌寺にて
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泉涌寺にて

(2013年12月20日)

今後の予定

2014年1月8日〜16日
第53回日本クラフト展(一条厚氏とのコラボ作品・迦陵頻伽を出品)東京ミッドタウン・デザインハブ(ミッドタウン・タワー5F)

2014年
秋 観〇光 ART EXPOに参加

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

上山さんとの出会いは、観〇光ART EXPO 2013 京都展、御寺泉涌寺。僕の作品の前での立ち話から始まりました。何度となくお目にかかり情熱の固まりのような人柄に引き寄せられてしまいました。
前回の観〇光展ではボランティアとしても活動されていらっしゃいました。そして、若い作家さんたちの兄貴分、熱いメッセージが聞こえてきそうです。お楽しみに。
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