ネットTAM

100

手紙

 お変わりありませんか。あなたと別れてから、一年目は私、ぼーっとしたり、自分で食べる分だけ働いて、ただ生きるためだけに過ごしていましたが、二年目に入ると、自分でスペースを開きました。

 「美術館とか容れものが好きなんじゃないの? アートが好きなんじゃなくって。」と結婚していたころ、あなたにいわれたことがあります。覚えていますか。作家を志していた私にとって、そのときはとても残酷な言葉に聞こえました。びっくりしたけれど、それが現在のきっかけだったかも知れません。些細なこと。

 名前では画廊なんていっても、画廊でも何でもありません。ただ雨風を凌げる建屋があって、そこにいて。作品や何かと寄り添いたい。それだけです。作家としての私なんて、もっと何でもないと思う。最近も作家としてちゃんとつくっていないから、発言力がないと恋人にいわれてしまいました。

 作品にあなたを登場させたり、映像の中に現れるあなたや、あなたの言葉、自分の思考に投影するあなたの輪郭に、こうして作品をつくり続けていれば、あなたに伝えそびれていたことがいつか届くんじゃないかって思うことがあります。

 5年半の結婚生活、離婚した経験が、私を家というメディアに縛りつけている。

 それは完璧な、完成された幸せな家庭を象徴するような家ではなくて、ダンゴムシやシロアリやなめくじだらけのあばら屋でないと、いけないです。それが、今の私だから。

 日を追うごとに、階段にシロアリの食べた痕が増えていくし、土壁はもろく崩れて痩せていくし、夏には床になめくじが這いつくばっています。

 スペースの存在自体がヒステリーでないと。

 あなたには、伝わらないと思うの。

 見に来てくれた人に、なるべく展示中の作品についてどう思うか、迫って聞くようにしています。

 そんな行為を迫るグロテスクな場所でありたいの。

 家賃と光熱費などの運営費は自分のアルバイトをしたお金でやりくりしています。気侭さをとりました。人から見たら、不真面目と思われることもあるかもしれません。

 あなたは私を不良だ、落第生だねといつもいっていました。離婚して2年の月日が経って大人になろうとしたけれど、スペースを始めても、自分の何かが変わるわけではなくて、相変わらず人前でびくびくしてしまうばかりです。あなたはどう。生活はよくなりましたか。

 あなたは今の私を見てどう思うかしら?

(2013年3月21日)

今後の予定

(1)22:00画廊
椋本真理子「わたしのリゾート」
会期:2013年4月3日(水) - 5月1日(水)
開廊日:日、月、火、水曜日(※4/5[金]は開廊)
時間:18:30 - 22:00
会場:22:00画廊(東京都小平市小川町1-776-18)

<イベント情報>
4月5日(金) 19:00 - 22:00
オープニングパーティー

4月10日(水)
椋本真理子の巨大人工物入門
第一部/15:00〜 会場:ふれあい下水道館
第二部/17:00〜 会場:22:00画廊
※西武国分寺線「鷹の台」駅に14:30に集合し、ふれあい下水道館へ向かいます。第一部終了後、22:00画廊へ移動して作家の椋本真理子さんから巨大人工物について熱いお話をお聞きします(第二部からの参加も可能)。
入場無料、予約不要。

5月1日(水) 19:00 - 22:00 クロージングパーティー

(2)個人作家活動
blanClassにて5月11日ワークショップ『あなた』開催予定。

関連リンク

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

現代日本の美術のおなかを鮮やかにさばいて見せてください、どうぞ!
この記事をシェアする: