アートマネジメントのインターン現場レポート ~世田谷パブリックシアター 2025(1)

世田谷パブリックシアターでは、毎年、夏休み大学生インターンを募集しています。
舞台芸術をとりまく仕事に触れてみたいと考えている若い方たちを対象に、世田谷パブリックシアターの現場で、舞台芸術にかかわる人々の仕事に触れ、舞台芸術・ワークショップと劇場、地域などの芸術文化事業について学び考える機会を提供したい、という目的で、2015年に開始されました。
2025年の具体的な活動内容は、夏休み期間中に実施する「せたがやアートファーム2025」の各事業における現場での準備から実施までの現場研修。このほかにも、舞台芸術に関する劇場運営・制作など、劇場を支える仕事を多角的に学ぶレクチャーも用意されました。
【せたがやアートファーム2025】
ダンス・サーカス公演、ワークショップ
①アロフト・サーカス・アーツ『ブレイブ・スペース』
②to R mansion『走れ☆星の王子メロス』子どもワークショップ
演劇
③『キャプテン・アメイジング』
落語
④『せたがや 夏いちらくご』
演劇ワークショップ
⑤『高校生のためのエンゲキワークショップ』
今夏も数多くの応募の中から12名の学生が選出され、各コースのインターン活動に参加しました。ネットTAMでは昨年と同様、インターン学生のレポートに加え、世田谷パブリックシアターのインターン担当者のレポートも掲載。参加したインターンの気づきや感想、受け入れた担当者の思い、双方向でお届けいたします。
Aコース(長期)『ブレイブ・スペース』+『走れ☆星の王子メロス』子どもワークショップコース:①②7月19日(土)~8月11日(月・祝)
Bコース(長期)『キャプテン・アメイジング』コース:③6月23日(月)〜8月3日(日)
Cコース(短期)『せたがや 夏いちらくご』コース:④ 7月26日(土)、27日(日)
Dコース(短期)演劇ワークショップコース ⑤7月29日(火)〜31日(木)
【Cコース】[短期]『せたがや 夏いちらくご』コース
成城大学 文芸学部 芸術学科3年
石渡凛さん
公共劇場ではどのように事業を運営しているのかを学びたいと思い、今回インターンシップに参加しました。
いつも観客として訪れていた劇場の裏側では、自身の想定より多くのスタッフの方々が携わって一つの公演を支えていたことが一番の驚きでした。たった一日の公演でも全員が公演とお客様に対して熱意をもって取り組んでいたことがとても印象に残りました。
特に、ロビーのフォトスポットは「お客様に楽しんでほしい、来場の思い出として記念に撮ってほしい」という意向から設置されたことをうかがいました。
私はその気持ちに応えるべく、誠意を持って開場中や休憩中の声掛けに務めました。
お客様の目を見ることを意識すると、こちらの目を見て頷いてくれる方がいて、私の声がしっかり届いているのだと実感することができ、それがさらなる励みになりました。
お子様から大人の方まで幅広く楽しめるのが劇場であり、今回のインターンシップではそれを直に感じられる経験となりました。
この学びを大切にし、今後の糧にしていきたいです。
玉川⼤学 芸術学部 演劇・舞踊学科3年
高杉寧さん
今回のインターンシップで、劇場の裏側で働く人々の「お客様を第⼀に考える姿勢」を深く学びました。
実際に現場に立つことで、制作スタッフ・技術スタッフ・レセプショニストなど、各部署の⽅々が常にお客様を第⼀に考えて行動している姿を間近に⾒て、劇場は単に舞台芸術作品を上演するだけの場ではなく、観客の安心と満足をていねいに支える場であることを強く実感しました。
また、このインターンシップで得たもう一つの大きな学びは、お客様への効果的なアプローチ方法です。
当初、物販ではお客様に足を止めていただくのに苦戦しました。しかし、「今回はロビーがお祭りのように賑やかなので、その場の雰囲気にあった声かけを」というアドバイスをいただき、夜公演でフォトスポットを担当した際に実践しました。
声のトーンや内容を工夫した結果、列ができるほどの反響があり、多くの方にフォトスポットを楽しんでいただくことができました。お客様の反応を直接感じられたことは喜びとなり、自信へとつながる経験となりました。
短い公演日程の裏側で多くの人が連携し、多様な役割と立場で公演を支えていることも大きな気づきでした。お客様にとって非日常である劇場での時間を、安心して心地よく過ごしてもらうために、観客には見えないところでどれだけ多くの工夫や配慮がなされているかを、身をもって学ぶ貴重な機会でした。
産業能率大学 情報マネジメント学部 現代マネジメント学科3年
髙山悠さん
舞台芸術作品をお客様に届けるまでの過程や、人々の生活を豊かにする公共劇場の運営について学びたいと考え、今回のインターンに応募しました。
公演前日から当日までの一連の流れを体験する中で、特に印象に残ったのは「舞台芸術を支える多くの専門職について」です。劇場には制作やテクニカルスタッフだけでなく、広報・票券・フロントスタッフ・経理事務など多様な職種の方がかかわっており、それぞれが欠かせない役割を担っていることを実感しました。また前日の準備段階から、複数のセクションが一体となって動いている様子を目の当たりにし、公演の成功はこうした連携のうえに成り立っているのだと強く感じました。
また、世田谷パブリックシアターの「劇場は、広場。」というテーマを現場で体感できたことも、自身にとって大きな学びとなりました。昼夜2部構成の本公演では、子どもから大人まで幅広い世代が来場し、ロビーに設置されたフォトスポットには多くの人々が集まり心通わせる姿が見られました。
年齢や立場を超えて人と人とがつながる光景に立ち会う中で、舞台芸術が持つ力や未来と、公共劇場が果たす役割の大きさをあらためて気づかされました。
今回の経験を通じて、舞台の表側・裏側それぞれに対する理解を深めることができ、今後の進路やキャリアを考えるうえで貴重な視点を得る機会となりました。
世田谷パブリックシアター担当者コメント:大木良美
2日間という短い時間ではありましたが、Cコースの皆さんには仕込みから上演に至るまでを体感していただきました。
舞台芸術はさまざまなセクションのスタッフによって支えられています。
世田谷パブリックシアターでは、それぞれ専門性を持ったスタッフが舞台上に関わることだけでなく、場内案内や広報営業、票券においても作品の性質や来場者の傾向を考慮しながら業務を行っています。
“スタッフ”と言っても役割は多岐に渡ります。当劇場においても多様なバックボーンを持った人々が所属しており、現職までの経歴もそれぞれ違います。
ゆえに正解的なルートというものを示すことが難しいのですが、舞台芸術への情熱を持ち続けることで道が見えてくることもあります。
お三方はインターンにご応募の段階で舞台芸術の世界にご興味がおありでしたが、どういう仕事があるのか・どう進めばよいか悩まれているようでした。
今回のインターンで劇場のすべてを知っていただくことは叶いませんでしたが、裏側の世界を感じていただけたのではと思っております。
この2日間の経験が、「自分がどういったかたちで舞台芸術に携わりたいのか」目指す未来への一歩になれば幸いです。