アートマネジメントのインターン現場レポート
~世田谷パブリックシアター 2024(1)
世田谷パブリックシアターでは、毎年、夏休み大学生インターンを募集しています。
舞台芸術をとりまく仕事に触れてみたいと考えている若い方たちを対象に、世田谷パブリックシアターの現場で、舞台芸術にかかわる人々の仕事に触れ、舞台芸術・ワークショップと劇場、地域などの芸術文化事業について学び考える機会を提供したい、という目的で、2015年に開始されました。
2024年の具体的な活動内容は、夏休み期間中に実施する「せたがやアートファーム2024」の各事業における現場での準備から実施までの現場研修。このほかにも、舞台芸術に関する劇場運営、制作、広報、技術などのレクチャーも用意されました。
【せたがやアートファーム2024】
ダンス・サーカス公演、ワークショップ
①マシーン・ドゥ・シルク『ゴースト・ライト』
②ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』アートファームワークショップ
③『ASA-CHANGのタイコで遊ぼう』
④『みんなで遊ぼう!棒のダンス』
音楽劇
⑤『空中ブランコのりのキキ』
落語
⑥『せたがや 夏いちらくご』
ワークショップ編
⑦ 『高校生のためのエンゲキワークショップ』
今夏も数多くの応募の中から10名の学生が選出され、各コースのインターン活動に参加しました。ネットTAMでは昨年と同様、インターン学生のレポートに加え、世田谷パブリックシアターのインターン担当者のレポートも掲載。参加したインターンの気づきや感想、受け入れた担当者の思い、双方向でお届けいたします。
Aコース(長期)ダンス・サーカス公演 :①②+ワークショップコース③④:7/23 - 8/18
Bコース(長期)音楽劇、制作コース:⑤:6/24 - 8/18
Cコース(短期)音楽劇、落語 本番運営コース:⑤⑥:7/20 - 8/18
Dコース(短期)演劇ワークショップコース ⑦:7/30-8/1
Cコース[短期]『せたがや 夏いちらくご』+音楽劇『空中ブランコのりのキキ』本番運営コース
筑波大学 人間総合科学学術院 環境デザイン領域1年
杉山葵子さん
私は今回、「公共劇場とまちの人々とのかかわりを学びたい」という思いでインターンシップに参加しました。
今回の業務内容で印象に残っていることは、アンケートブースの装飾です。特に「空中ブランコのりのキキ」では、「設置と片づけが容易」、「パッと目につく楽しそうなブース」の2点の両立に苦労しました。公演開始当初は設置しやすさに重きを置き、目立ちやすさに欠けていたことから、公演期間中の空き時間に協力して装飾を増やしていきました。結果としてたくさんの方に足を運んでいただけるブースになり、とてもうれしかったです。また、「せたがや夏いちらくご」「空中ブランコのりのキキ」というまったく異なる2つの作品にかかわらせていただいたことで、公演実施までの業務内容の違いはもちろんのこと、公演内容や公演時間による客層の変化を学ぶことができました。さまざまな芸術を提供し続けていることが、公共劇場としての世田谷パブリックシアターの大きな役割であると感じました。
劇場を訪れる方の感想や表情を間近で目にしたことで、まちにおける公共劇場の必要性、その重要さを学びました。今回のインターンシップでの学びを活かし、芸術文化の振興にかかわりたいと思います。
立教大学 文学部文学科英米文学専修3年
杉山詩織さん
私は今回のインターンシップを通して、公共に開かれた劇場が担う役割と子どもたちが舞台芸術に触れるアプローチについて学びました。「せたがや夏いちらくご」では、公演中に春風亭一之輔さんが客席の子どもたちとコミュニケーションを取って楽しませる様子や、「空中ブランコのりのキキ」関連企画のサーカス体験ワークショップにて、子どもたちが実際にサーカスの技に挑戦する機会があり、普段味わうことのできない体験の場を提供している劇場の役割の幅広さが新鮮でした。また、公演終了後のロビーにて積極的にアンケート記入の協力を呼びかけ、子どもたちに直接アンケート記入用紙を手渡していったことで、多くのイラストや文字で表現された感想の数々が集まりました。記入コーナーの装飾を少しずつ増やし、立ち寄ってみたいと思えるようなロビーの環境づくりを図ったことで、公演日の後半にかけて多くのお客さまが記入をしてくださり、工夫を重ねて改良することの効果を体感しました。ご家族で感想を伝え合いながら楽しくアンケート記入される様子を見て、舞台作品が人々の感性や価値観に新鮮な刺激を与え、子どもたちが新たな視野を広げられる機会を提供している劇場の価値をあらためて実感できました。
筑波大学 比較文化学類 超域文化研究領野 文化科学領域情報文化学コース卒業
室橋涼子さん
公演制作には世田谷パブリックシアターの組織内部・外部を問わず、想像以上に多岐にわたる業種の方がかかわっていることに驚きました。初めて顔を合わせる人も多くいる現場だからこそ、事前にていねいに進行を確認し、仕込前の朝礼ではAEDの場所や緊急時の避難導線などの周知を徹底する。感動的な舞台の裏には、綿密な打合せと徹底した安全管理があることをあらためて実感しました。
安全に公演を進行するという前提のもと、専門性の高い技術職の皆さまがともに一つの舞台芸術をつくるうえでは、ていねいなコミュニケーションと調整が重要です。現場の皆さまはお互いの仕事に対して理解と敬意を持って制作をされており、それが風通しのよい制作環境につながっているように思えました。
また、制作現場の皆さまが「公共文化施設として、区民の生活を豊かにする」という理念のもと、公演制作に携わられていることが非常に印象的でした。その様子を間近で拝見するなかで、私もアンケート等を通して来場者の声を聞くことや、快適に観劇していただけるようにていねいにお客様をご案内することなど、少しでも自分にできることはないかを考えながら現場に立つことを意識しました。
このインターンを通して、地域単位で劇場芸術を維持するために、現場ではどのような人材・助成が必要とされているか、ひいては地域行政とはどのようにかかわるべきか、広い視野で再考することができました。このような機会をいただけたことに心より感謝いたします。ありがとうございました。
世田谷パブリックシアター担当者コメント:大木良美
今回Cコースの皆さんには、『せたがや夏いちらくご』と音楽劇『空中ブランコのりのキキ』におけるロビーでのチラシ配布・物販補助、アンケートコーナーの運用をメインに取り組んでいただきました。
ロビーは劇場に来たお客様を一番にお迎えする場であり、お客様と劇場スタッフ間のコミュニケーションが生まれやすい場所です。お三方はお客様からの問い合わせにていねいかつ正確な対応で、責任を持って取り組んでくださいました。終演後のアンケートコーナーへの声掛けもはじめは控えめでしたが、「直接用紙を配ってみよう」とインターン同士で考え、改善していく姿がとても印象に残っています。
短期コースのため限られた時間や業務ではありましたが、それぞれ自主的にさまざまなことに意識を向けながら取り組み、自身の課題の答えを見つけてくださったこと大変うれしく思います。
サマーシーズンのタイトルである「せたがやアートファーム」には、さまざまな芸術が生まれ、育ち、花が咲き実がなる「農園」で、子どもから大人までアートを楽しんでほしいという芸術監督・白井晃の想いが込められています。インターンの皆さまにとって、今回のアートファームで得た経験が“種”となり、今後舞台芸術分野へ進むにあたってのヒント=“芽”になることを願っております。