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「アートと企業」第2回
創作人形劇で伝える、「音」と生きる力
TOA株式会社

アートの現場レポート! 企業編
企業の中にもたくさんのアートの現場が存在します。ここでは企業が行うメセナ活動(芸術文化振興による豊かな社会創造)の現場へ足を運び、担当者の方へお話をうかがう取材レポートをご紹介します。アートを通して企業のさまざまな顔が見えてくると同時に、社会におけるアートの可能性を見出します。第2回はTOA株式会社の創作人形劇「カンカン塔の見はり番」を通じて「聴く力」を育てる音の防災教育の社会貢献活動をメセナライターの瀬戸義章さんが取材しました。

笑いと学びの共演

「みんな、オオカミだよ! 気づいて!」

どうぶつ村の子うさぎ、"ベルくん"が叫ぶ。

子どもたちが、ドキドキしながら見守っている。

人形劇「カンカン塔の見はり番」が演じられているのは、全国の保育施設や小学校。

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人形劇のさまざまな仕掛けに夢中になる子どもたち

おとうさんに代わって、村の見張り番を仰せつかったベルくん。

火事を見つけたら、鐘を鳴らして消防団に知らせる。大雨を降らせる雲を見つけたら、太鼓を叩いて洗濯物を取り込んでもらう。村の日常を守る大事な役目だが、この子うさぎ、かなりのおっちょこちょい。

パンを焼く煙を火事と勘違いしたり、途中で居眠りを始めてしまったり。でも、だからこそ子どもたちは、ベルくんと同じ目線で笑い、口々にツッコミを入れることができる。じっと黙って見ている人形劇ではない。子どもたちを飽きさせず、大人たちすら楽しんでしまう工夫が凝らされている。

数十年前にどうぶつ村を襲ったオオカミを報せる音は、シンバル。打楽器を鳴らすのは、立候補した児童の役割だ。「○○ちゃん、頑張れ!」と声援を浴びる中、高らかに音を響かせる。

はたして、どうぶつ村の運命は……

"音"が命を救う

「カンカン塔の見はり番」の公演は、TOA株式会社(以下、TOA)の社会貢献活動として、2016年にスタートした。この創作人形劇のテーマは「命を守る"音"」だ。

空気の振動である音は、映像や香りとは違い、一度に多くの人に、そして遠くまで情報を届けることができる。災害が多発する現代日本において、危険を知らせる音について学び、「聴く力」を養ってほしいという想いから、人形劇は生まれた。

業務用音響機器メーカーであるTOAは、公共の場における「音」の重要性を、古くから認識している。そのきっかけの一つとなったのは、1968年に有馬温泉で起きた火災事故だ。増築による避難経路のわかりづらさや火災報知機の不備などから、死者30人・負傷者44人におよぶ大きな被害を出した。

そこでTOAが翌年に開発したのが、「非常用放送設備」である。火災による停電時でも一定期間、避難誘導を行うことができる。1993年の消防法改正以降は、自動火災報知器と連動して、「ただいま○○階の火災報知器が作動しました。次の放送にご注意ください」などと、状況を伝えるアナウンスを鳴らしてくれる。現在では火災だけでなく、緊急地震速報と連携も可能である。

また、いわゆる「防災無線」も、沿岸部や川岸、山間部、市庁舎など日本のあちこちにTOA製のスピーカーが設置されている。TOAは音を通じて、暮らしを守り続けてきた。

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TOA製の防災スピーカー

防災に夢中になってもらうために

しかし、せっかく警報が鳴っても、その意味に気づけなければ行動に移すことができない。どうすれば小学校低学年の児童にも、「聴く力」の重要性に気づいてもらえるのか。

TOAが相談したのは、京都市に所在を置くNPO法人子どもとアーティストの出会いだった。教育活動をアートによって支援している団体だ。

もともとTOAは2005年から、彼らとともに”TOA Music Workshop”を実施していた。こちらは、ダンサーの手ほどきのもと、本物の楽器を使った迫力ある音楽に乗って思いっきり身体を動かすプログラムだ。小学校中学年から高学年が対象だった。

もっと小さな子どもたちのために、防災のプログラムを設けたい。そのためには、楽しい取り組みであることが不可欠だ。そんな思いを、人形劇役者のくどうたくと氏、アコーディオン奏者 鈴木みかこ氏、トイミュージック作家のイマイアキ氏らと分かち合い、『カンカン塔の見はり番』はかたちづくられていった。

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左からNPO法人子どもとアーティストの出会い 浜崎聡氏、人形劇屋たくたく堂 くどうたくと氏、アコーディオン奏者 イマイアキ氏。

「正直にいいますと、最初は『子ども向けの人形劇でしょ』と軽く見ていたところもあったんです。でも……」

2年前から人形劇を担当している、TOA広報室の長谷川咲氏は、公演を初めて見たときをこう振り返る。

「気づけば30分間、夢中になって楽しんでいました。子どもたちもすごく盛り上がっていて、終わった後も『ベルくんがね……!』といい合っていて。帰宅後も、親御さんに見たことを報告してくれたそうです」

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『カンカン塔の見はり番』の絵本を紹介する長谷川氏

企業の使命が伝わっていく

人形劇を見て感動と興奮を味わった従業員は、長谷川氏だけではない。北海道から沖縄まで、TOAは全国各地に営業所を持っている。地方公演は、現地の学校との調整から当日の設営まで、営業所の協力を得て実施している。

「終演後、営業所の方々から、『すごくよかったから、営業先にも薦めてみるよ』『自分の子どもにも、人形劇をみせたいんだけど』といった声をもらえたんです」

2022年には、TOAの研究開発拠点「ナレッジスクエア」のカフェテリアにて、従業員家族向けの公演がおこなわれた。参加者はおよそ60名。子どもや孫と、あらためて防災の話をするきっかけにもなったと同時に子どもたちにとっては、学校や駅に設置してあるスピーカーを家族がつくっていること、その意義を感じることにもつながった。

広報室長の井東輝樹氏は、「カンカン塔の見はり番」の、社員にとっての意義をこのように話す。

「私たちTOAは『Smiles for the Public -人々が笑顔になれる社会をつくる-』という企業価値を掲げています。「カンカン塔の見はり番」は、その理念が社員や家族にも伝わるような、そんな人形劇になっているのかなと感じています」

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TOAの理念を真摯に語る井東氏

初公演から7年が経ち、『カンカン塔の見はり番』の参加者は4,000名を超えるまでになった。大きな災害は、毎年のようにどこかで発生している。

今後は、地域ごとの災害に劇の内容をカスタムしていくとともに、海外にも目を向けていきたいと長谷川氏は展望した。

「海外向けの製品を開発している研究者からは、『英語版もつくってはどうか』といわれています。災害に悩んでいるのは日本だけではありません。TOA製品と一緒になって、それぞれの地域で減災・防災に貢献していければと思います」

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ナレッジスクエアのカフェテリアにて

取材を終えて

取材後、インドネシアコミュニティ放送協会の会長に「TOAって知ってる?」と聞いたところ、「当然。インドネシアではすごく有名なスピーカーだよ。モスクにも使われてて、みんな知ってる」という返信が来た。彼らもまた、人形芝居を通じて、火山噴火のおそろしさを伝えている。将来、両者のコラボレーションが生まれればよいな。そう思った。

メセナライター:瀬戸義章


TOA株式会社
取材日:2023年10月23日(月)
取材先:ナレッジスクエア(兵庫県宝塚市高松町1-10)ほか

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