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わがまちの個性をよくわかっているということ

兵庫県伊丹市で開催されている「鳴く虫と郷町」プロジェクトにうかがった(チラシ)。お店の軒下や古い酒蔵、街路樹などまちのあちこちから聴こえてくる虫たちの美しい鳴き声を楽しむという、なんとも「ニッポンの秋」らしいこの企画。

今年2月、とあるセミナーの交流会で本企画ご担当の伊丹市文化振興財団・中脇さんに話をうかがって以来、ずっと気になっていた。秋に鳴く虫15種1000匹を街中に展示するというユニークさ!これまで2回開催して今年はさらにパワーアップするとのことだったので、珍しいもの見たさもあり訪ねたのだった。プレスリリース等の宣材にも興味をそそられた。

伊丹駅につくと、あちこちに竹かごがぶら下がっていて鳴いてる鳴いてる!伊丹市昆虫館の方々が必死に採集されたという秋の虫たちだ。しばらく歩くと国の重要文化財に指定されている立派な酒蔵「旧岡田家住宅」と「旧石橋家住宅」(県指定文化財)=メイン会場に到着。屋敷の座敷には、虫の声を愛で月見を楽しむ日本の秋の伝統的な設えが。虫の音を聞き、会期中限定オープンのハーブカフェで立派な梁を見ながらお茶をいただいていると、辺りはだんだんと暮れゆき、すっかり和な気分に浸っていた。珍しさにひかれてきたが、いつの間にか「この場の醸し出す空気」にひかれていた。

行ってみて感じたのは、まちの持つさまざまな資源を皆さんがよーくわかっておられるのだなあということ。江戸時代から酒造業で栄えてきた界隈の雰囲気や、周辺商店街、昆虫館、工芸館や柿衛文庫、旧岡田家・石橋家が集まる「文化の郷エリア」、スタッフやまちの方々などなど、それぞれが有機的に作用しあって「鳴く虫と郷町」が成り立っているように思う。

素材をうまく組み合わせて美味しい一品を作れるシェフのように、わがまちの文化資源=個性を知り尽くしてかけあわせの妙を楽しみ、自分の見せ方・着こなし方を心得たモデルのように、プロジェクトを外に魅せていこうと考える。こんな努力は、財団の広報誌「アイテム」にもあわられている。普通のフリペ感覚で女子高生もサラリーマンも手に取って読みそう。固定ファンも多いのではないだろうか(かくいう私も捨てられない)。こんなに一般の空気をつかめる行政系財団の広報誌もめずらしい気がする。

・・・ということで、鳴く虫展はまだ会期中です。ぜひ秋の夜を楽しみに行ってみてください。そういえば、今日の帰り道はやけに虫の声が聴こえました。いつもはさほど気にしなかったのに、すっかり虫の音をめでる耳になっていました。「鳴く虫と郷町」企画の成功を感じました。

▼「鳴く虫と郷町」2008 (兵庫県伊丹市)  9月5日(金)~9月11日(木) 10:00~18:00(入館は17:30まで)  

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