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沖縄セッション

おきなわとアートマネジメント

―地域社会・アーティストをつなぐ輪を求めて
開催日: 1999年5月 22・23日
開催地域: 沖縄
会場: 佐敷町文化センター シュガーホール
ジャンル: 音楽
参加者数: 154人
コーディネーター: シュガーホール  中村透

沖縄セッションは、99年5月22(土)~23(日)の2日間、佐敷町文化センター・シュガーホールで開催された。実行委員はシュガーホール芸術監督を中心に、公共ホールスタッフ・音楽大学教授・声楽家・フリープロデューサーと、産官学の共同ティームによる。「音楽」部門の講座(監修西巻正史)ではあったが、アートマネジメントの概念そのものが沖縄に新しく、また開催前からジャンルを問わず多くのアート関係者の関心を呼んだ。また伝統芸能のさかんな沖縄では、この領域のマネジメントの探究も避けては通れない。こうした事情で、エキシビション、懇親会とともに4つのセッションを組むといういささかよくばりなプログラムではあったが、のべ参加者総数154名で盛況のうちに熱心な討議と意見交換がなされた。

各セッションの内容は次の通りである。

セッション1 対談と討議「沖縄にプロ・アーティストはいるか」

セッション2 ミニ講座「アートマネジメント、メセナとは・・・Q&A」

セッション3 パネルディスカッション「企業の創る文化・地域の拓く文化」

セッション4 対談と情報交換「公共ホールの芸術教育とは」

セッション1では、とくにクラシック・アーティストの地域社会における位置、伝統芸能家の地域をこえた存在意義などが、いわばプロ意識との関連で討議された。セッション3では、国際的な政治・経済の拡大化の中で、アートや文化がどのように新しい局面を迎えているかが具体的に提示され、「グローバリゼーション」の中の地域独自の文化のあり方が議論された。全日程を通して、受講者からの質問や意見も多く出され、沖縄にとっての「アートマネジメント元年」にふさわしい講座となった。

[琉球大学教育学部教授・シュガーホール芸術監督 中村 透/99年7月]

TAM開催地のその後

地域社会に広がるアートの輪・おきなわ


 TAM沖縄セッションは、「おきなわとアートマネジメント―地域社会・アーティストをつなぐ輪を求めて―」のタイトルで、1999年5月に沖縄県佐敷町(現南城市)文化センター・シュガーホールで開催された。シュガーホール開館5年目のことである。アートマネジメントの概念が当時の沖縄では新しいものであったため、開催前は参加者を得られるかの心配もあったが、当初の予想をくつがえす盛況ぶりであった。乗り込んで来たのは、演劇人、音楽家、伝統芸能家、美術関係者、学生、学校教員そして文化行政者、企業、マスメディアと実に幅広く、20〜30代が中心の参加者は、領域を越えて熱い討論を行ったことが今も鮮明な記憶としてのこっている。それまでの貸し館的な沖縄の公共文化施設の常識をくつがえすようなシュガーホールの多様で活発な文化事業が、県民の耳目を広く集めていた時代性も影響したと思われる。
 TAM沖縄セッション開催後の直接的な効果は、アジア各国から舞台芸術者を招いて開かれた2年後の国際フォーラム「青少年ための舞台芸術教育と国際交流」(シュガーホール)の引き金となり、またその後沖縄県立芸術大学と琉球大学がそれぞれに「舞台制作論」講座を新設し、"アートマネジメント"の研究と実践の場を定着させることとなった。

 しかしより大きな影響は、TAM沖縄セッションに参集した人たちが、芸術領域を超えてさまざまな協働のネットワークをつくったことと、さらには劇場・音楽堂での実演だけでなく、アウトリーチ、ワークショップなどのホール外の活動と教育プログラムに積極的に取り組み始めたことである。実演芸術をめぐる沖縄の文化環境に、一種の文化触変をおこすきっかけとなったのである。
 たとえば、国立劇場おきなわを活動の場とする若手の伝統芸能家は、「夏休み親子組踊入門」という教育プログラムを創意工夫し、観客開発にあたっている。アウトリーチやワークショップは、今やシュガーホールだけでなく、広く沖縄市、浦添市、宜野座村、名護市の公共ホールや、実演家によって展開されるようになった。伝統芸能家、オペラ歌手、演劇人がコラボレーションでニュータイプの舞台芸術創造を行う土壌も、TAMによって醸成された(写真)。
 沖縄最大の企業である沖縄電力株式会社が、新人音楽家の発掘事業「おきでんシュガーホール新人演奏会オーディション」を継続的に主催し、県内外に優れたクラシック・アーティストを送り出していることは、80年代以前には想定すらできなかった企業の文化支援の新しい姿であり、今日では広く沖縄県民に周知されているメセナ事業でもある。

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俳優・声楽家・舞踊家のコラボレーション舞台「音楽劇・モーイのとんち」2011.3月沖縄市民小劇場

(2012年4月2日)

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