ネットTAM

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北部九州コンテンポラリーアートガイド

2009秋用 リンク集付き

 こんにちは。秋の訪れが早い今年の福岡でございます、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
 昨年(2008年)のネットTAMのTAM SEEDに「西天神芸術センター」の野望を寄稿させていただいて、はや1年。未来型雑居ビル「紺屋2023」の一室にて、本格的なセンターというにはまだまだですが、いくつかプロジェクトが始動しています(なお、ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局も同じ場所でやっています)。

紺屋2023入口、2009年8月撮影
紺屋2023入口、2009年8月撮影

 さて、みなさん、この秋の福岡は大規模企画展が目白押し、ちょっとしたアートラッシュになっています。ということで、北部九州へお越しの方へ、ガイドがわりにアートスポットやプロジェクトをご紹介します。

 既に8月から開催中の福岡市美術館開館30周年記念展「コレクション/コネクション」展(~9/23)では、館内の充実した展示はもちろん、館外で関連事業もあっています(折元立身による「パン人間」は17年ぶりに福岡で見ることができ、当時関わっていたものとして感無量)。

パン人間 折元立身 (福岡市美術館「コレクション/コネクション」展関連事業) 2009/8/22 福岡市天神他にて
パン人間 折元立身 (福岡市美術館「コレクション/コネクション」展関連事業) 2009/8/22 福岡市天神他にて
パン人間 折元立身 (福岡市美術館「コレクション/コネクション」展関連事業) 2009/8/22 福岡市天神他にて

パン人間 折元立身(ミュージアム・シティ・天神 '92) 1992年(写真:ミュージアム・シティ・プロジェクト提供)
パン人間 折元立身(ミュージアム・シティ・天神 '92) 1992年(写真:ミュージアム・シティ・プロジェクト提供)

 そして福岡で今年最大のアートイベント「第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009」(以下FT4)が9月からスタートします(9/5~11/23)。こちらも開館10周年というメモリアル展。アジア21か国の国と地域、43組のそうそうたるアーティストが参加します。

淺井裕介 公開制作写真 (福岡アジア美術館) 2009年7月撮影
淺井裕介 公開制作写真 (福岡アジア美術館) 2009年7月撮影

 10月には「北九州国際ビエンナーレ」も始まります(10/10~11/15)。2回目となる今回は、門司港と小倉を会場に、<移民>をテーマにした映像系作品が多い企画になりそうです。テーマを掘り下げるシンポジウムや上映会は既に動き出しています。
 同じく北九州地区で、NPOが運営する「街じゅうアート2009」も10/10~30に開催。

 こういった大型企画に合わせ、福岡の各所で力の入ったアートイベントがおこなわれます。

 天神の福岡県立美術館では10/10~11/29と「大原美術館コレクション展 名画に恋して」を開催、FT4に参加しているハツシバの別の作品がやってくる予定です。

 三菱地所アルティアムではマイケル・リンが個展(9/5~10/11)。マイケルもまたFT4に参加し、さらに太宰府天満宮へ絵馬を奉納するというイベントを予定しています(9/6)。

 この絵馬奉納のコーディネートをしているモマ・コンテンポラリーでは、「カンガルー日和」と題し、動物をテーマにした豪華作家陣によるグループ展を開催(9/4~10/17)。

 一方で、植物をテーマにした企画「ueki福岡・」は、沖縄の石垣克子さんを中心に横浜や福岡の作家が参加して「紺屋2023」のkonya galleryと ART BASE 88で開催します(9/18~27)。

 博多湾に浮かぶ能古島では、福岡の実力派作家によるグループ展「NOKO PROJECT」が9/27まで開催中。

 元気がよい地元若手の活動を観ようと思ったら、アジ美の近くの「art space tetra」や、薬院の「IAF SHOP*」がオススメ。また天神の老舗「アートスペース貘」「ギャラリーとわーる」、博多駅近く「ヤマネアートラボ」も、この期間ならではの自信企画が目白押しです。近郊では、久留米の元酒蔵「アートスペース千代福」や、朝倉市の元小学校「共星の里」も要チェック(風倉匠の遺作展が9/23まで開催中)。

 そんな福岡の最近の特徴といえば、作家主導のレジデンスが増えている、という点でしょうか。
 アトリエアパートにレジデンスを組み込んだ「旧大賀APスタジオ」(福岡市南区)や、定期的にベルリンから作家を招聘している「Studio Kura」(二丈町)の動向は注目です。
 これとは別に、先月7月にスウェーデン作家と福岡作家が交流する「ノース サウス イースト ウエスト」というプロジェクトも始動、今後も世界中でこの活動が続くとのことです。これら、いずれもそれぞれ作家が自主的に動いているのがいかにも福岡らしいところ。

Studio Kura 2008年6月撮影
Studio Kura 2008年6月撮影

 このほか、すっかり定着したコンテンポラリーダンス公演「踊りに行くぜ」が10/10、アジアのユニークな映画がまとめて観られる「第19回アジアフォーカス・福岡国際映画祭」が9/18~27に開催され、まさに芸術ザンマイの秋となっています。

 本当にまだまだたくさんあるのですが、いまタウン誌やウェブなどで「コンテンポラリーアート」情報をまとめて見る機会は、激減しています。先に書いたように、福岡のコンテンポラリーアートは、アート系NPOや行政主導ではなく、アーティスト自身が場をつくり、企画を作っていく傾向がますます強くなっています。ですから、個々の企画を回り、足で、クチコミで情報を集めねばなりません。

 しかしながら今回、このアートラッシュ期に何もないのはありえない!、ということで、西天神芸術センターを拠点に有志が集い、Fukuoka Art Tipsというグループを立ち上げ、マップとウェブをつくることになった次第です。
 印刷物としての「福岡コンテンポラリーアートマップ2009」は、9月に発行予定。これは地元アート関係者らの定額給付金による支援を受けて、制作しています。また、ウェブサイト「ART MANIA FUKUOKA」はブログとtwitterで情報を発信中です(「おすすめ!」情報参照)。
 このマップ、いずれは定期的に福岡のアート情報、レビュー、マップが載った和英マガジンとして発行し、国内外の主要スペースへ発送してゆきたいという野望を持っております。

 さて、では近県はどうでしょう。福岡からJRや高速バスなどで1~2時間で行ける大分、佐賀、熊本、長崎の状況をお伝えします。

 大分県の別府市は、みなさんご存じのように今春「別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界」を開催し、たいへん話題になりました。
 現時点で、アートスペースとして常設している場所はないながらも、リノベーション施設「platform」を使ったアートプロジェクトや、若手作家が集った古アパートでの企画展が計画されています。コンヨク会期中毎週土曜にやっていた別府タワーでの「タワーナイト」というクラブイベントは、今後も月に一度開催してゆくそうです。中心となるNPO法人 BEPPU PROJECTでは3年後にまた大型フェスティバルを開催したい、として着々とプランを構想中。動向に注目です。

別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」 マイケル・リン作品(別府国際観光港) *あいさつしているのは山出淳也(同フェス総合プロデューサー)
別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」 マイケル・リン作品(別府国際観光港) *あいさつしているのは山出淳也(同フェス総合プロデューサー)

別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」 ホセイン・ゴルバ作品(鉄輪、ひょうたん温泉裏)
別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」 ホセイン・ゴルバ作品(鉄輪、ひょうたん温泉裏)

 その別府の隣まち、湯布院では「ゆふいん駅アートホール」が毎月好企画を開催していて、アートセンター的な場となっています。
 また、金鱗湖に近い「gallery sow」では九州の若手作家個展が頻繁に開催されています。
 別府と湯布院の現場は前出のコンヨクフェスを機にぐっと親密となり、今後の連動が大いに期待されています。

 2011年に九州新幹線の開通で博多と新たに繋がる熊本。この地域のコンテンポラリーアート情報発信は、もちろん熊本市現代美術館(CAMK)が主軸となっていますが、最近、まちの中心部に近い河原町商店街の活動「河原町文化開発研究所」が話題になっています。毎月第2日曜に「河原町アートの日」なるイベントを開催し、パフォーマンスや展示、販売をおこなっています。もとは繊維問屋街という古い看板や路地、アーケードの風情が何ともそそられます。
 前回のアートの日(2009/8/9)には、CAMKと連動したイベントを実施して、たいへん賑わいました。地元アーティストやギャラリーの活動が、公立文化施設と連動することでますますパワーアップしてゆきそうな気配です。

河原町アートの日 2009/8/9 大巻伸嗣パフォーマンス
河原町アートの日 2009/8/9 大巻伸嗣パフォーマンス

河原町アートの日 2009/8/9 市場内部の様子
河原町アートの日 2009/8/9 市場内部の様子

 佐賀では、東脊振ICから近い「AMP」が気を吐いています。もとはお茶の倉庫だった場所を改装し、スタジオやカフェ、アートスペースとして再生。いわゆるゴリゴリのコンテンポラリーアートに偏らないアーティストの自然な発案によるイベントが各種おこなわれ、新たなコミュニティを作り出しています。

 AMPから車で数十分、佐賀市内の商店街では9/5から22まで、「呉福万博」が予定されています。数年にわたり佐賀および各地でプロジェクトを積み重ねてきたこのチームは、いま伸び盛り。まちにどんなアートを仕掛けるのか、ぜひ観てみたいところです。

 長崎では、波佐見町の旧陶器工場跡を再生したアートスペース「モンネポルト」が注目です。波佐見は福岡から車で1時間半程度の距離にある、陶器のまち。この土地ならではの捕鯨関連トークをおこなったり、アフリカのアーティストを招聘したり、アコースティックライブをしたり、広告業界イベントをおこなったり、バラエティに富んだ先駆的な企画で、新しい風を起こしています。

モンネポルト外観 2009年8月撮影
モンネポルト外観 2009年8月撮影

 こうやって並べてみると、当たり前のことですが、やっぱり「始まりはひとりのアーティスト」というプロジェクトやスペースが多いことに気づきます。「誰かのふとした発想」がどう拡大してゆくか、誰を巻き込んでゆくのか、そういうところが醍醐味なのかなとも思います(その実現までの過程がプロかどうか、ということなのでしょう)。

 北部九州の名所旧跡火山と温泉の観光を組み込んだ、アート三昧ツアー、いかがでしょうか。西天神芸術センターでは 随時「福岡アート旅行代理店」として旅のご相談うけたまわっております。今後ともご贔屓に。

※写真は特記ないもの以外は筆者撮影
※文中敬称略

(2009年8月24日)

今後の予定

【ART BASE 88および筆者の今後の予定】

*最新情報は ART BASE 88 のサイトより

・2009/9/18〜27
「ueki福岡・」 @ART BASE 88

・2009年9〜11月
ART BASE 88でアートカフェ&ミニイベントを予定(不定期)

・2009年10〜11月
BOOKOKA企画に参加(予定)

・2009年11月頃
別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」報告会@福岡(予定)

関連リンク

【福岡コンテンポラリーアート リンク集】(順不同/2009年8月現在)

<福岡県>
*特記ないものは福岡市

<佐賀県>

<熊本県>

<大分県>

<長崎県>

おすすめ!

この秋の福岡のアート情報は、最新マップとウェブでどうぞ。

「福岡コンテンポラリーマップ2009」は9月上旬発行。福岡市内主要アートスペースで配布予定。

ウェブでは「ART MANIA FUKUOKA」ブログで情報公開。従来の「福岡コンテンポラリーアート掲示板」とも連動して、twitterで最新情報等をお知らせしています。 *開設10周年を迎えた「福岡コンテンポラリーアート掲示板」も元気に稼働中



ART MANIA FUKUOKA ロゴマーク (デザイン:h.f.g.)

ART MANIA FUKUOKA ロゴマーク (デザイン:h.f.g.)

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

モンネポルト スズキジュンコさんへ

アーティストとしても頑張ってるけど、生まれ育った土地と全然違う場所でアートスペースを作りあげようとしているスズキジュンコさん。そのパワフルさにいつも惚れ惚れしているとともに、従来のアートマネジメントとはひと味違う「アーティスト」的手法の行く末に、興味津々です。
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