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魂を宿す劇場

 古くから札幌市の西方面の中心、琴似地区。遠方の人には、なんと読むの?とよく聞かれる。「コトニ」と読みます。たぶん、元はアイヌ語から来ているのではないかと思う。ここで活動し始めて、18年。娘の年と同じ。娘がお腹にいるときに見つけた古い倉庫で芝居を始めて、劇場というようなものに携わり始めて、12年。あっ、まだ、12年しか経ってないのか。普通に就職して、勤めていたら、大卒だとしても、まだ34歳。仕事のキャリアとしたら、まだまだ、これからじゃん。少し、安心したぞ。

 初めて、「アートマネジメント」という言葉を耳にしたのが、10年近く前の JCDN の法人設立前の全国ミーティング。あれが、私の全国デビューでした。「アートマネジメントを勉強しています」という学生さんが、何人かいた。聞いたものです。「アートマネジメント」って何?と。「うん?今、ちずさんがやってるようなこと」と、教えてもらった。わりとよくある。「コンテンポラリーダンスって何?」「この前、企画してたみたいな踊り」。「NPOって、何?」「コンカリーニョみたいやつ」。あとから、自分がやっていることの呼び方を聞く。「アートNPO」もそうだ。なんということはない芸術関係の活動をしているNPOなのだが、そう言われるとドキッとした。どうもわれわれは、そう分類されるらしい。名前が付くと世間に認められたようで、誇らしい。数年前から、よく聞くようになって、最近では定着してきた感のある「遊休施設のアートスペースへの転用」。北海道では、そのための助成金もできた。モデルは、私たちがやってた倉庫の劇場のはずなのに...。道庁の人が何度もいっぱい視察に来て、いろいろ説明して教えてあげたはずなのに、モデル料はくれなかった。どうしてもとてもお金が必要だったときに「モデル料、ください」と言ったのに、くれなかった。ただ、かつての活動を説明するのに、便利ではある。

 日々の活動は、進んでいるのか、進んでいないなのか、なかなか判然としない。名前も付いていないようなことをやろうとして、形のないものを形にしようとしているのだから、それも仕方ないのかもしれない。めげそうになる。めげそうになることのほうが多いかもしれない。しかし、そんなときに支えてくれるのが、周りの人たちだ。一緒に活動しているメンバーだったり、スタッフだったり、NPOの会員さんだったり、遠くにいる舞台関係者だったり、劇場に来てくれたお客さんの一言だったり、アーティストの作品であったり。1995年から活動の拠点としていた倉庫を改造した小劇場が、その立地地区の再開発で閉鎖を余儀なくされて、同じ場所で劇場としての活動再開をめざした。自分たちでの資金調達も含めて。どうも、皆、新しい劇場ができるとは思っていなかった節がある(笑)。内部メンバーでさえ、「当時、われわれはもっとも無謀な選択をしたんだよな」と言う。その中心にいた私は、「無謀」なのかどうかという判断すら、持っていなかった。ただ、「この同じ場所に戻って来たい」と倉庫が解体されるときに強く思った。それ以外のことには興味が持てなかったし、それが1番かっこいいことのように思い込んでしまったのだ。冷静に考えると、そんなことはないわけで、私の思い込みに過ぎなかったのだけれど。私が思い込んでしまったことにそれぞれの理由でメンバーが根気よく、付き合ってくれた。周囲の人が協力してくれた。新しい劇場は、昨年2006年の5月に同じ場所で再オープンした。できちゃった、のだ。当時もまだ、資金は足りていなかった。「出産資金が準備できていないけど、子どもができたので、産みます」と言ってるようなものだと、笑っていたメンバーもいた。いい得て、妙。

 子どもは産んでしまえば、なんとか育つ、と思うのだけれど、この「劇場」という大きな子どもは育ってくれるだろうか?また、たくさんの人の手を、あっちでこっちで、借りている。ありがとうございます。オープニングのときに、私が倉庫時代からここで行った芝居の抜粋オムニバスレビューショーというのをやらせてもらった。初期の作品は、私がまだ女優だった頃。17年間で24作品だから、それほど多くはないが、当時の役者も含めて、総勢60人が全国から駆けつけてくれた。うれししかった。応援してくれている関係者も含めて、満杯のお客さんの前での舞台あいさつを終えたとき、こんな幸福な時間を過ごさせてもらえる舞台人はそう多くはないだろう、と本当に感謝した。この劇場をしっかり育てて、恩返しをしなくては。

 今、新しい劇場がスタートして、訪れる人が「外は真新しいきれいなビルだけれど、中に入ると昔のままのコンカリーニョの匂いだね」と言ってくれるのがうれしい。きっと建物にもつくる人間の想いが宿るんだ。きっと、これからも多くのアーティストや観客の想いを受けとめて、たくさんの魂を宿す劇場になるのだろう。そんな劇場になっていくといい。全国にいくつもの劇場があるけれど、ここにしかない唯一無二の劇場に。まだまだ道は遠い。



コンカリーニョ・シアター外観

客席  

2006年5月上演「コンカリ・レビューショー〜劇中歌でつづるコンカリ今昔〜」



(2007年3月30日)

今後の予定

◆コンカリーニョ・シアターの予定
ウェブサイト:コンカリーニョ・シアター公演情報

4月7日(土)
【ダンス】 SRD Dance Performance 「時代 〜とき〜」

4月11日(水)〜17日(火)
劇団千年王國 「スワチャントッド」

4月26日(木)〜30日(月・祝)
劇団イナダ組 「第2柿沼特攻隊」

関連リンク

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

土筆さんへ

去年は、大洪水の中、突然おじゃまさせていただき、ありがとうございます。今度は、ぜひ、国際演劇祭の折にスタッフと一緒に研修を兼ねてうかがわせていただきたいと考えております。

ちず@コンカリーニョ
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