ネットTAM

4
神戸セッション

神戸発 演劇の可能性

開催日: 1997年3月22・23・29・30日
開催地域: 神戸
会場: 神戸アートビレッジセンター
ジャンル: 演劇
参加者数: 70人
コーディネーター: 神戸アートビレッジセンター 岡野亜紀子

神戸開催時の状況は、阪神・淡路大震災から2年余りが経過。被災地は生々しい傷痕を抱えたまま、周囲との温度差が日増しに激しくなり、焦りと不安が高まる中、また、個人的には、震災後にオープンした唯一の公共文化施設のスタッフとして、試行錯誤の1年をなんとか乗り切ろうとしていた春でした。

当時、神戸でアートマネジメントについて議論する場合、震災体験をぬきに考えることはできませんでした。というより、震災直後、アーティストはもとより、アートマネジメントにかかわるすべての人々が一様に感じた無力感を正しく検証しなければ、いくらすばらしい意見を述べ合ったところで机上の空論、虚しい美辞麗句に終わることは目に見えていました。

結局、悩みに悩んだ末、神戸のTAMは、震災体験というファクターを通して演劇の可能性を見直すことで、その普遍性を確信しようという構成にしました。結果、パネリストの人選は至難を極め、「震災ニツイテハ一言アリ!」という人が多い中、被害者意識の強い人は避けて、震災体験を通して、演劇人の視点で、冷静に、また真摯に意見を述べていただけそうな方々を選びました。

4日間の講座を終えてみれば、準備不足、気負いすぎ等々反省材料ばかりが思いあたり、参加者の方々に十分満足していただけたのか、いささか不安を感じています。また、取り上げたテーマの大きさから、今もってその問題と格闘する最中で、成果云々はまだまだ先の話になりそうです。ただし、講座のおかげで、ともに格闘する心強い仲間が増えたことは、大きな収穫として深く感謝をしています。

[神戸アートビレッジセンター 岡野亜紀子/98年7月]

TAM開催地のその後

KOBE 1.17 希望の灯


 神戸でトヨタ・アートマネジメント講座(TAM)Vol.4を開催したのは、阪神・淡路大震災の翌々年、当時私が勤務していた公立文化施設・神戸アートビレッジセンター(以下KAVC)の開館から1年を迎えようとしていた春(1997年3月)でした。

 震災の翌年に開館したKAVC(1996年4月開館)に準備室時代から関わっていた私にとって、TAMは、震災体験時に心の奥底に刻み込まれたさまざまな思いが、私のアートマネジメントの原点であることを確認させてくれた貴重な機会となりました。

 その後、仕事で悩み苦しむ度に原点に立ち返ることが常となり、2009年4月からフリーランスとして、神戸という地にこだわってアートマネジメントに取り組むことを決めたのも、所属施設の制約を受けることなく、地域で働く生活者の視点に立って、アートが社会に果たす役割をじっくりと見定めたいという強い思いに突き動かされてのことでした。

 昨今の神戸では、震災を契機に撒かれた小さな種が、厳しい社会の風雪の中で、辛抱強く根を張り小さな芽を出そうとしています。

 アート分野においては、1996年にメセナ奨励賞を受賞した海文堂ギャラリーをルーツとするギャラリー島田が、全国的にも珍しい草の根基金「神戸文化支援基金」を立ち上げたこと、港町神戸のラジカルな空気をまとった元町高架下(モトコー)に、アートを媒介に21世紀型の集いの場を標榜する宇宙空間「プラネットEartH」が出現したこと、また震災を契機に続々と誕生したアートNPOや文化団体の共同拠点として「ハーバーランド文化村」が機能し始めたことなど。

60-06.jpg
北野坂に静かに佇むギャラリー島田
60-06.jpg
大蛇の食道のようなモトコーの一角に現れたプラネットEartH

 私自身も、震災をきっかけにご縁を得た演出家・森田雄三さんの尽力で、神戸という地で生活者の視点に立った演劇プログラムを実施し続けた結果、現在「イッセー尾形と兵庫のステキな先生たち」という企画で、地方における演劇事業の意義を実感するに至っています。

60-06.jpg
兵庫のステキな先生たちの記念撮影(前列右から3人目が森田雄三さん)

 思うに、阪神・淡路大震災を経た神戸が、その体験を糧として、10余年の歳月をかけて芽吹かせようとしているものは、困窮する現代社会の中で確かな光を放つ希望の灯なのではないでしょうか。

 間もなく15回目の「1.17」が巡ってきます。

 まさにその当日神戸で行わる演劇公演に、私の古巣KAVCでの劇団太陽族による「往くも還るも~湊川新開地に捧ぐ~」があります。この作品は、関西と小劇場にこだわりながら、社会からドロップアウトしてしまう人間を描いて、生きることの本質を問い続けてきた劇作家・岩崎正裕さんの手による"神戸の物語"です。

 画期的な震災の日に行われるこの公演が、神戸にともった希望の灯に、また一つ彩りを添えてくれることを大いに期待しています。

60-06.jpg
木枯らし舞う新開地商店街で"往くも還るも"

(2009年12月22日)

注目! 現地情報

新長田周辺がまちづくり(復興)で熱く盛り上がっています。

KOBE鉄人 PROJECT

神戸・新長田に鉄人28号18m巨大モニュメント出現![詳細
この記事をシェアする: