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創造都市(Creative Cities)


 かつて工業都市として繁栄した世界の都市は、第2次世界大戦後の産業構造の変化により、失業や人口流出などの問題が表面化し地域経済の衰退が進んでいた。そうしたなか、特にヨーロッパでは、多くの都市が地域の文化資産を見つめなおし、文化芸術の持つ創造性を活かした都市政策や、創造産業の育成が積極的に行われていった。こうした動きを英国の社会学者のチャールズ・ランドリーは、80年代後半に"Creative Cities"と呼び、その概念は広くヨーロッパや世界へ広がっていった。

 1985年、欧州連合が新たな事業として「欧州文化首都」をスタート。毎年、「欧州文化首都」として選定された都市が、1年間を通してさまざまな芸術文化に関する行事を開催している。2008年、英国のリバプールが欧州文化首都に認定された際には、大学などと連携し、1年間の文化事業が同市に与えた文化的、経済的、社会的効果などを測定する大規模な調査プログラム「IMPACT08」が実施された。ヨーロッパの多様な文化を紹介し、都市間の文化的結びつきを強化することを主な目的に開始された「欧州文化首都」だが、近年では、このような調査プログラムを通して、都市再生やシビックプライドの増幅、観光促進といった、文化芸術が及ぼす社会的、経済的な影響にも注目が集まっている。

 さらに、このような芸術文化に関する各都市の経験や知識を共有する国際的なプラットフォームとして、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)が2004年に「クリエイティブ・シティ・ネットワーク」を設立。現在世界34都市がメンバーとして加盟している。日本の都市も、2008年に名古屋と神戸、2009年には金沢が認定されるなど、こうした国際ネットワークへの加盟に積極的に働きかけを行っている。

 日本では、文化庁が文化芸術の持つ創造性を地域振興、観光・産業振興等に領域横断的に活用し、地域課題の解決に取り組む地方自治体を「文化芸術創造都市」と位置付け、文化庁長官表彰(文化芸術創造都市部門)を平成19年度より開始。初年度は、横浜市、金沢市、近江八幡市、沖縄市の4都市を表彰、以降、平成24年度までに23都市が受賞している。表彰都市を見てみると、創造産業の集積による経済活性化をめざした施策や、文化的景観や文化資産を活かしたまちづくりなど、日本各地の多様な文化を反映した多岐にわたる取り組みが評価されている。

 現在、世界中の都市が抱える課題が多様化するなか、各都市はその土地固有の文化資産や創造性を活かし、さまざまな取り組みを行っている。一言にクリエイティブ・シティと言っても、その政策や取り組みは多種多様なものとなっているのが現状である。

(2013年6月20日)

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