ネットTAM

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名古屋大会2003

これでいいのか? アートマネジメント!

開催日: 2003年 10月11日
開催地域: 名古屋
会場: 愛知芸術文化センター
ジャンル: 総合
参加者数: 138人
コーディネーター: TAM名古屋大会実行委員会

通算50回目のセッションを名古屋で迎えることとなったTAM。しかもファイナルの年の幕開けである。これまでのTAMの7年間を振り返り、アートマネジメントの現場がいまどうなっているのかを総括すべく、4つの分科会には各地の地域コーディネーターの方々にお集まりいただいた。

このセッションの後、大阪セッションでは地域のフィールドワーク、山口セッションでは観客による文化施設の通信簿づくり、最後の東京会議ではスピーチ大会というように、新機軸の実験を試み続けてファイナル・イヤーを走り抜けたTAMにとって、この名古屋大会は最後のじっくりとした語り合いの場となった。

TAMを契機に地域で新たな活動が派生したコーディネーターたちが集まった美術分野(分科会1「TAMを経験した地域と現場」)。比較的マネジメント業が確立しているなかで、文化施設を軸に地域ベースの新たな流れが明確に確認された音楽分野(分科会2「日本のコンサートシーンが元気になるために」)。アートマネジメントは果たしてアートにとって本当に有益なのか、セッションの題目どおり「これでいいのか」という根源的な問題提起から始まり未来像を模索した演劇分野(分科会3「現場からの逆襲」)。「ソーダンタンク」という画期的な非講座形式のチャレンジ編TAMを体験した神戸や、ファイナル・イヤーのバトンを受け取る大阪と山口からコーディネーターが集まり、アートマネジメントのこれからの拠点や役割、方法論を語った総合分野(分科会4「〈市民のための文化施設〉って?」)。4回目となった名古屋大会は、TAMが7年間こだわり続けた「地域と現場」を焦点として、講座の基本であるパネル・ディスカッション形式で、静かに熱く議論が展開された。

[文責:TAM運営委員会ディレクター・熊倉/04年8月]

TAM開催地のその後

ありがとう! TAM


名古屋TAMから10年

 名古屋でのトヨタ・アートマネジメント講座は、2000年から毎年開催され、合計4回行われました(Vo.30Vol.41Vol.43Vol.50)。すべて大規模な総合セッションで、しかもトヨタ自動車のお膝元である愛知県での開催。事務局を任された私たちオフィス・マッチング・モウルは、当初、大変緊張し、右往左往するばかりだったことを思い出します(関係者の皆さま、ほんとうにお世話になりました)。
 そんなTAMの名古屋初開催から約10年。この地方での出来事を振り返ると、TAMが開催された2000年代前半には、名古屋中心にオルタナティブスペースがたくさん誕生し、2005年には「愛・地球博」が開催されました。その後、名古屋駅周辺にはアートワークを組み込んだ高層ビルのオープンが相次ぐ一方、それら名古屋バブルの対極ともいえるオルタナティブスペースのいくつかは消えていきました。そして、昨年からの経済不況。ものづくり産業がメインのこの地方は大打撃を受け、アートの領域にもその影響は及んでいます。この原稿を書いている2009年夏現在、愛知県のもっぱらの話題は、来年2010年に開催される「あいちトリエンナーレ」。開催するからには、ぜひ成功してほしいものです。

佐久島は9年目

 さて、オフィス・マッチング・モウルといえば、TAM以降も地道に事務所のある岡崎市で仕事を続けています。2001年から携わっている「三河・佐久島アートプラン21」は、早いもので今年9年目に突入。その継続の努力あってか、徐々に成果が現れ、今年に入って佐久島を訪れる観光客が急激に増大。ゴールデンウィークや夏休みは、のんびりした町営渡船も臨時便を出してフル稼動し、それでも追いつかないほど。渡船乗客数もこれまでの記録を塗り替えました。新聞、雑誌、テレビなどメディアに取り上げてもらったことも大きいでしょうが、佐久島を訪れてくれた方々の口コミと何よりも継続してきたからこその結果だと思います。

愛知県の三河湾に浮かぶ佐久島。人口約320人、島面積181ヘクタール、海岸線延長11.6km。「三河・佐久島アートプラン21」は、一色町主催のもと島民と協力してオフィス・マッチング・モウルが企画・制作を手がける。
愛知県の三河湾に浮かぶ佐久島。人口約320人、島面積181ヘクタール、海岸線延長11.6km。「三河・佐久島アートプラン21」は、一色町主催のもと島民と協力してオフィス・マッチング・モウルが企画・制作を手がける。

 思い返せば、「三河・佐久島アートプラン21」が始まったころは、すべてが手探り状態でした。「祭りとアートに出会う島」をキーワードに、過疎のために縮小していく伝統の祭りをアートで盛り上げたり、また、佐久島の自然や歴史や文化を取り上げ、この島ならではの展覧会やワークショップを行ったりと、私たちにとっても初めての経験ばかりでした。試行錯誤しながら、ひとつひとつ積み上げ、年を重ねるごとに島民との交流も深まっていきました。島での初めての会議で「"アート"というカタカナ語を使うな」と言われたことも、なつかしい思い出です。今では、島へ行くたびに野菜や名物のアサリなどを持たされるほど、ほとんど島民化し、お互いに協力しあってこのプロジェクトを進めています。

佐久島アート作品の代表格、平田五郎の「佐久島・空家計画/大葉邸」。築約100年の民家を7年かけて少しずつ作品化。
佐久島アート作品の代表格、平田五郎の「佐久島・空家計画/大葉邸」。築約100年の民家を7年かけて少しずつ作品化。

アートが島をひっぱり、島がアートをひっぱる

 「アート」や「アートマネジメント」という言葉が馴染まないように思えた9年前の佐久島でしたが、今ではこのプロジェクトがしっかりと島民に受け入れられています。それは、島のお年寄りが訪れる観光客にアート作品の場所案内や説明をしてくれたり、このプロジェクトが始まったころは小学生だった島の少女が今までは一緒に美術館に出かけ、作品について語り合えるなどの島民の姿に実感させられます。
 また、島の祭りに欠かせない太鼓や風情ある盆踊りは、島民による保存と継承のための活動が年々盛んになり、途絶えていたお祭りも復活してきました。まさに「アートが島をひっぱり、島がアートをひっぱる」が目に見えてかたちになってきたことは、大きな喜びです。

2007年に約50年振りに復活した「祭り舟引き」。祭り舟はアーティスト松岡徹とボランティアが制作。
2007年に約50年振りに復活した「祭り舟引き」。祭り舟はアーティスト松岡徹とボランティアが制作。

アートを仕事にする

 佐久島のプロジェクトは、いろんな人に支えられています。島民、観光客、アーティスト、役場の職員などなど。そして、私たちのような地方の小さなアートマネジメント会社が多くの人と関わり合いながらやっていけるのも、「三河・佐久島アートプラン21」が始まる時期に出会ったTAMに強く励まされたおかげです。アートを仕事にしようと立ち上げたオフィス・マッチング・モウルが、TAMを通じてアートマネジメントという明確な仕事の方向性を見出すことができたのも、マネジメントに必要な精神力と体力で現場を乗り切ることを学んだのもTAMのおかげです。「アートと社会の橋渡し」というより、実際は「アートと社会の板ばさみ」になることの多い現場ですが、「やればやるほど問題だらけなのだから、しぶとくかつ過激に、つまり根底的に問題を提起してやりつづける以外にない」を肝に銘じて、今日もコツコツと仕事をこなしています。

佐久島アート作品、浜辺にたたずむ南川祐輝の「おひるねハウス」。周辺にはハマダイコンの花が咲き乱れています。
佐久島アート作品、浜辺にたたずむ南川祐輝の「おひるねハウス」。周辺にはハマダイコンの花が咲き乱れています。

佐久島で2006年に行われた内藤礼展「返礼」、作品「タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)」。
佐久島で2006年に行われた内藤礼展「返礼」、作品「タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)」。

 佐久島での実績によって、オフィス・マッチング・モウルは、平成19年度のコミュニティビジネス優良事業者に愛知県から認定されました。私たちは、これからもじっくり地域に寄り添った仕事を続けていきたいと思っています(個人的には地域に密着した小さな町工場ようでありたいと)。アートの視点とアートの現場での経験を活かしたまちづくりのサポートをはじめ、学芸員経験を活かした美術館などの企画展示、ワークショップの開催など、アウトドアからインドアまで何でもこなすアートマネジメントのプロとして、岡崎を拠点にがんばります!
 「三河・佐久島アートプラン21」はこれまで通り地道に続けていく予定です。来年からは新事業として岡崎の森をつかったアート・プロジェクトがはじまります。海から山へ。オフィス・マッチング・モウルは、パワー全開で挑みます。どうか全国から見守っていてくださいませ。

来年から始動する「岡崎・額田の森 アート・プロジェクト」のため、森の奥へと調査にむかう!
来年から始動する「岡崎・額田の森 アート・プロジェクト」のため、森の奥へと調査にむかう!

(2009年8月20日)

注目! 現地情報

「岡崎・額田の森 アート・プロジェクト」プレイベント 木村崇人展「星がすむ部屋」
「岡崎・額田の森 アート・プロジェクト」プレイベント 木村崇人展「星がすむ部屋」
「岡崎・額田の森 アート・プロジェクト」プレイベント 木村崇人展「星がすむ部屋」は、2009年8月19日から9月23日まで開催(ワークショップは8月26日に終了しました)[詳細]
祭りとアートに出会う佐久島の秋2009
「祭りとアートに出会う佐久島の秋2009」
佐久島の最新ポスター。秋は祭りとアートイベントが目白押し! 遊びに来てね![詳細]
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