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みんなで一緒に「文化プログラム」を楽しみたい!

〜多様な人々が同じ作品を同じ時間、同じ空間で楽しむことの意義〜

東京オリンピック・パラリンピック2020の開催まで、あと3年を切りました。3年後の今、どのようなアートシーンが待っているのでしょうか。聴覚障害を持つ私は、それがとても楽しみでなりません。なぜなら、たくさんの文化プログラムが行われるであろうし、その文化プログラムは「多様な人々が参加できること」が前提となることが予想されるからです。

昨年10月に開催されたスポーツ・文化・ワールド・フォーラムにおいて宣言された「2020年を見据えた文化による国づくりを目指して」(通称:京都宣言)では、以下の通り述べられています。

(中略)オリンピック・パラリンピックは文化の祭典でもある。わが国は、2020 年に向け(中略)また、共生社会の実現を図る観点も含め障害者の文化芸術活動を推進する。(中略)国民総参加で夢と希望を分かち合えるよう、東京 2020 文化オリンピアードや beyond 2020 プログラムの中で、地域性豊かで多様性に富み、次世代に誇れるレガシーの創出に資する取組を、文化プログラムとしてオールジャパンで関係者が一体となって推進する。

このように障害者を含めた「国民総参加で夢と希望を分かち合える」ことを国が表明し、そのために必要な施策が、今、少しずつ動き出していることを実感しています。たとえば、今年6月に施行された「文化芸術基本法」第2条などで障害のある人の文化芸術への参画が謳われています。これを実効性のあるものとするためには、具体的な施策を提案する必要があります。

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第3回TA-netシンポジウム(2017年)において、英国ステージテキスト代表・メラニー・シャープ氏、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会会長・新谷友良氏、三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長/主席研究員・太下義之氏、東京芸術劇場副館長・高萩宏氏とディスカッション

観劇サポートとはそもそもなんでしょうか。従来は車椅子席の設置などがイメージされてきましたが、それだけではなく、字幕製作、手話通訳、ヒアリングループの設置、音声ガイド、舞台模型の設置や舞台装置の説明など、そのままの状態では理解が難しい、聴覚障害や視覚障害をもった観客に向けて行う配慮を、劇場や主催者の責任において行うことです。また、昨今では、発達障害などを持つ方々への支援を行う取り組みもあります。これらはなんら特別なことではなく、英国や米国でも当然のこととして行われており、多くの障害を持つ観客が気軽に劇場に出かけ、楽しんでいます。

しかし日本では、これらの活動は、一部の善意のある方々によるボランティア、あるいは、限られた予算をやりくりした中で行われているのが現状です。そのため、多様な観客を迎えたい気持ちのある劇場や主催者にとっては壁が高いものとなっています。障害を持つ人は、サポートがないために劇場に行く習慣を持つことができません。サポートがついてもその情報を得る機会が限られています。結果、来場が少なく、観劇サポートは「コスパ」が悪い、となってしまいがちです。

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チャコールモンキー公演における字幕サポート(2017年)

このような現状を打破するべく、「みんなで一緒に舞台を楽しもう!」を合言葉に2012年暮れに立ち上げたシアター・アクセシビリティ・ネットワークは、2013年7月に法人格を取得しました。それから4年間、観劇サポートの実践による研究を行いながら、主催者、劇場、演劇人、演劇ファンや障害を持つ当事者団体、演劇関係団体、などとつながりをつくりながら、情報交換・意見交換を行ってまいりました。また、映像作品やパネルなどを使って障害当事者に観劇の楽しみを啓発する活動を展開してまいりました。今年3月に開催したシンポジウムでは「多様な人々に開かれた、観劇サポートシステムの構築に向けた10の提言」を発表いたしました。

提言を具体的に実現させるため、このたび、文化審議会第15期文化政策部会舞台芸術ワーキング・グループ専門委員として、アクセシビリティの観点から意見を述べる機会を得ました。施策の提案として、観劇サポートをボランティアではなく、舞台スタッフなどと同様の専門職として確立すること。観劇サポートを行う専門家の育成および必要経費を助成するための環境整備がポイントとなることを申し上げました。

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あらすじや見所を開演前にロビーで、ろう女優が手話で説明。
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舞台手話通訳付き公演「朝にならない」をモデル上演し、演劇関係者を含む広く一般に公開(2016年)

この原稿を執筆している時点では審議中ですのでどこまで具体的に盛り込めるかはわかりませんが、このように、障害者政策分野ではなく芸術文化分野で障害を持つ当事者を委員として任命してくださったことを意義深く感じております。会議には手話通訳、文字通訳の配置を配慮してくださり、進行方法の工夫にも他の委員の方々からも共感を持って受け入れてくださいました。まさに共生社会の一つの実現と感激しております。

障害者は、とかく、文化イベントの場から排除されがちです。直接的な排除はなくても、積極的に歓迎されていない、行きにくい、と感じてしまうのが現状です。こういった施策によって質の高い観劇サポートが実施されれば、障害を持つ観客が安心して良質な文化プログラムを心から楽しむことができます。観劇サポートという考え方を「コスト」として捉えるとしたら負担と感じ、排除につながる可能性がありますが、より豊かな文化環境を提供するための「当然の必要経費」として捉え、準備すること。この考え方が浸透すれば、障害を持つ観客の中から芸術家が生まれ、多様な芸術作品が生まれ、素晴らしいアートシーンが各地で生まれることでしょう。

多様な観客が、同じ空間で、同じ時間に同じ作品を共有する。そして泣いたり笑ったり、感激したり、感想を述べ合って帰路につく。そして明日への活力にする。字幕や手話通訳、音声ガイドなどを利用する聴覚障害・視覚障害がある観客、車椅子などを利用する観客が、客席に存在している。そういった空間を体験した子どもたちは、この状況を違和感なく受け入れ、共生社会を作り出す社会の一員として育つことでしょう。

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