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2年越しでの開催となったACK

今から5年前、アートフェアとは少し距離を取ろうと思ってやって来た京都にて、まさかこのような日を迎えるとは夢にも思っていませんでした

ACKのオープニングを迎えた2021年11月4日、自身から自然と出てきたこの言葉をそのままに、私はセレモニーでの挨拶をスタートした。再び美術を学び直そうと京都に越してきた私が、ACKのディレクターを引き受けることになってから、気がつくと2年半の歳月が流れていた。そこからさらに思い返すこと10年前の2011年、私はアートフェア東京のディレクターに着任した初回の年で、東日本大震災発生時には事務局でカタログの最終校正をしていたことを思い出す。東京での東日本大震災、そして京都での新型コロナウイルスと、アートフェアの準備を始めると立ちはだかる難関に、変化の激しかった北京で働いた計6年の経験を少しは活かすことができたであろうか。

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ACKメイン会場
Courtesy of ACK, 2021, photo by Nobutada Omote

ACKに話を戻すと、この名称はArt Collaboration Kyotoの略で、現代アートとコラボレーションをテーマに、国立京都国際会館をメイン会場に開催した新しいかたちのアートフェアである。主催であるACK実行委員会は、京都府と、日本を代表する現代アートのギャラリーの多くが所属するCADAN(一般社団法人日本現代美術商協会)、主に関西でのアートネットワークに強いAPCA(一般社団法人日本現代美術振興協会)、CVJ(一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパン)、京都商工会議所、公益財団法人京都文化交流コンベンションビューローの各組織を代表したメンバーで構成され、行政と民間とのコラボレーションからACKは始動した。そして、CADANやAPCAに所属するギャラリストやCVJの担当者とともに、共同ディレクター体制をとりながら、私はプログラムディレクターとしてACKの舵取りを担当した。

当初、ACKは2020年11月に開催を計画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により翌年2月に延期。その後の感染はおさまらずに再延期が決定し、結局1年延期しての開催となった。主催に地域の感性症対策を担う京都府が入っていたため、延期については行政の強い意向で決定されたが、公金と民間との資金を組み合わせての体制であったため、私が今までに担当したアートフェアと異なり、資金的な支えを基に延期の対応ができたことは大変ありがたかった。今後さらに増えていくであろう、自然災害や新たな感染症など、私たちの想像を超える事態を想定すると、行政と民間との協働によるアートフェアは、現代アートを支える方法の一つとしてあるべき姿なのかもしれない。

コロナ禍でのACKのコラボレーションとその経緯

ACKのアートと京都の間にあるコラボレーションという言葉が、ACKに出展いただいたギャラリーの方からの提案であったように、ACKの準備を進める際に常に意識していたのは、上からのトップダウン的な方法ではなく、さまざまな立場でかかわる人たちが議論しながら合意形成し、その合意が組織としての意思になっていくということである。アートフェアは、美術館での展覧会や、地域の芸術祭とは異なる特殊なシステムで、かかわるプレーヤーも多様で複雑である。ギャラリストはもちろん、アーティスト、コレクター、協賛、協力企業、後援団体、そして行政など、それぞれがそれぞれの思惑でかかわり、そして多額のお金も絡むためにそれぞれから強い意見も出てくる。

たとえば、多くの作品が販売に至ったとしても、コレクターやギャラリストからは作品の質や展示方法が問われたり、アーティストにとっては居心地の悪い空間になってしまったり、メディアからは作品の価格帯や市場規模を指摘されたり、と違った問題が出てくることもある。そしてもちろん、作品が売れなかった場合は、アートフェアとしての根本的な問題として開催の意義が問われることとなる。コロナ禍での開催となったACKだが、体制の基礎をつくる大切な初回でもあったため、ギャラリストには実行委員会や共同ディレクターのメンバーとして参画いただき、コレクターにはアドバイザーとして、また、アーティストにも作品の制作や展示を協賛、協力企業と一緒に取り組んでもらうなど、多様な関係者が能動的にかかわる体制を意識した。また、日本のギャラリーがホストとなり、今まで培ってきた独自のネットワークを活かしながら海外のギャラリーをゲストに迎えることでACKに出展いただいたため、主要な欧米の都市のみならず、アジアやブラジルなどからも出展があり、海外のメジャーなギャラリーだけでなく、その独自な生態系を垣間見られるのも、ACKの特徴となった。

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ブラジルのFortes D'Aloia & GabrielとMISAKO & ROSENのギャラリーブース
Courtesy of ACK, 2021, photo by Nobutada Omote

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上海のGene Gallery と東京画廊+BTAPのギャラリーブース
Courtesy of ACK, 2021, photo by Nobutada Omote

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宝松庵での展示風景
Courtesy of ACK, 2021, photo by Nobutada Omote

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宝松庵内部からみた展示風景
Courtesy of ACK, 2021, photo by Nobutada Omote

コラボレーションという形式は、新型コロナウイルスの感染拡大前から計画されていたが、奇しくもコロナ禍を乗り越えるシステムとしても機能した。海外のギャラリーはほぼ来日が叶わなかったが、事前にホストとゲストがギャラリー間でコミュニケーションをとりながら準備していたことで素晴らしいブースが展開された。またコロナ禍の影響で一気に加速したオンラインでの作品の販売についても議論されたが、海外のアートフェアのオンラインでの販売の状況について共同ディレクターと活発に意見を交換したり、協賛、協力企業とも議論を続けたりしながら、まずはリアルでの販売を重視し、実験的に、オンラインビューイングやウェブサイトでの作品やギャラリーの紹介など、できる範囲から取り組みを進めた。当初計画していた京都府内でのプログラムや、オープニングパーティーなど、大きく変更、または中止せざるをえなかった計画も多かったが、ACKはアートフェアの実施だけでなく、京都のローカルビジネスや観光などの振興も一側面であるため、質の高いフェアの運営やおもてなしの実践を積み重ねることで、「コロナ禍が収束した後には京都に行ってみたい」と思っていただけるよう準備に取り組んだ。

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会場を360度見渡せる3D記録

京都での現代アートの実験とコラボレーションの場としてのACK

ただ、コラボレーションの形式としては十分に機能したが、それは万能ではない。日本の現代アートを牽引する東京と国際的なアートマーケットの導入だけでは、京都のローカルなアートシーンを紹介することが難しくなるという問題意識が一方であった。京都は日本でも東京に並ぶ数の美術大学があり、毎年多くのアーティストを世に輩出しているが、彼らの作品を京都で紹介できる機会は極めて限られ、卒業と同時に京都を離れてしまう若者も多い。そのため、日本のみならず、海外のアート関係者の目に留まる仕組みとして、ギャラリーや京都ゆかりの中堅、若手作家とともに、京都にちなんだプログラムをそれぞれ設けたが、日本に限らず、世界的にみても、地域を絞って実力のある作家を揃えられる都市は限られ、あらためて京都の美術の底力を強く感じる機会となった。

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特別プログラム「Beyond Kyoto」での宮島達男の展示風景
Courtesy of ACK, 2021, photo by Nobutada Omote

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特別プログラム「Beyond Kyoto」でのSIDE COREの展示風景
Courtesy of ACK, 2021, photo by Nobutada Omote

また、出展料や協賛金だけでなく、公的な資金を組み合わせて準備ができたため、会場計画においては効率性だけではなく、独創性や実験性に重きを置いた空間デザインに挑戦することができる機会と捉えた。美術館などの設計を多く手がけたキャリアを持つ建築家の周防貴之は、美術の展示と空間、そして都市とのかかわりについて常に意識をもち、今回も既存のフェアの形式の細かな観察からデザインをスタートした。実際には、迷い込んだまちの中の各家々で美術の展示が行われているような空間が広がることをイメージし、作品の鑑賞により集中できるようなきめ細やかな配慮も忘れず、グラフィックやウェブデザイナーとも協働しながら、大胆なデザインに挑戦してくれた。コロナ禍での開催となったため、会場内での飲食の展開など、すべての計画を実現することは叶わなかったが、より保守的な傾向が強くなりつつある日本の現状において、若手の建築家やデザイナーが実験し、挑戦すること自体に意義があり、もちろん課題もいくつか出てきたが、ACKにもこのようなトライアルアンドエラーの精神を注入できた。

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ACKメイン会場内の様子

このように、コラボレーションがアートと京都とを新しいかたちでつなぎ、またコラボレーションによる実験をいろいろなかたちで取り入れるこができたため、結果として私の想像を遥かに超えた多様なコラボレーションが生まれ、その一つひとつが今回のACKをかたちづくった。コラボレーションと口でいうのは簡単だが、かかわる人には普段以上の創意工夫と柔軟性、そしてコミュニケーションの力が求められ、開催に向け尽力いただいた多くの関係者の皆様にはあらためて感謝申し上げたい。また、オンライン事前予約制による入場管理や、会場内の滞留人数の制限など、厳しい条件を強いられるコロナ禍での開催にもかかわらず、入場者数や売上とも目標値を超え、購入金額も予想より大きく上回ったことに安堵したが、個人的には、アーティストから「一般的なアートフェア独特の空気感がほとんどなく、アーティストとしても居心地の良い空間であった」とお話しいただいたことが一番うれしく、今まで約10年間、アートフェアの仕事を続けていたことが報われたような瞬間であった。

(2022年1月18日)

今後の予定

今年のACKは11月中旬ころに同会場での開催を予定しています。また、個人の活動としては、3月6日に弘前で開催予定の青森5館連携アートフォーラム2021(仮)にてモデレーターを務める他、六本木の東京ミッドタウンでのTOKYO MIDTOWN AWARDの審査員も担当5回目となります。また、1月16日に閉幕したばかりのやんばるアートフェスティバルは、今年も12月中旬からの開催を予定しています。

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

京都でのACKと並行して沖縄北部地域で準備をしていた「やんばるアートフェスティバル」は今年で開催5回目をむかえました。やんばるが広く日本やアジアとつながるプロジェクトの一環で、北海道白老町で開催されている「飛生芸術祭」には2回目から参加いただき、日本の北と南、アイヌと琉球の文化をつなぐプロジェクトなどに精力的に取り組んでいただいています。コロナ禍ではありましたが、私も昨年再び現地にうかがうことができ、1年前の中止を乗り越えて開催された現場には、木野さんがクロージングでお話ししていた「諦めない」力強さと、そして多くの人に支えられた暖かさに満ちあふれていました。中止をどう乗り越え、そしてどう次の開催につなげていったか、現場で支えあったアーティストやコミュニーティーとのコミュニケーションの様子などをぜひお伝えいただきたいです。

ウィズコロナでの挑戦 目次

1
~コロナが拓いた舞台芸術のデジタルアーカイブ化と動画配信の未来~EPADの試み
2
COVID-19時代における文化芸術プロジェクト
Arts in COVID-19
3
札幌国際芸術祭2020の中止を巡って
4
ヨコハマトリエンナーレ2020開催を経て、次に向けての1000日間
5
奇しくも重なったパンデミックと改修工事休館
6
2年越しでの開催となったACK
7
祝祭と創造の継続を選んだ「トビウの森と村祭り2021」
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