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コミュニティアートの未来

 先日、渋谷のTSUTAYAに入ったら、店内が「Lの世界」のポスターで埋め尽くされていて仰天しました。
 レズビアンドラマがコマーシャルベースに乗るほど、日本の文化多様性も進んだのかと、少しだけ楽しい気分になりました。

写真:Lの世界
写真:Lの世界


 船橋をフィールドにコミュニティアートを始めてから11年が経ちました。
 最初に立ち上げたのは、知的障害を持つ子どもたちと舞踏家・中嶋夏による即興ダンスのワークショップでした。80年代アングラ演劇や、劇団解体社・dumb typeなどの先鋭的なパフォーミングアーツの世界に浸っていた僕にとって、ダウン症の子どもたちの持つ強烈な表現とコミュニケーション能力は、最先端のアートにしか見えませんでした。
 コミュニティアート・ふなばしのアートと社会に対する第1のスタンス「社会の先端と表現の先端はシンクロする」ができあがったのは、この時期でした。

写真:中嶋夏WS
写真:中嶋夏WS


 コミュニティアートは、第2次世界大戦後の英国で始まったとされています。
 演劇・ダンス・美術・映像等の作品の共同制作を通じて、地域コミュニティ内の構成メンバーの親睦をはかるものから、コミュニティにおける課題の共有化や解決を狙う社会性の高いものまで、さまざまな試みが行われてきました。
 このバラエティに富むコミュニティアートと呼ばれるプログラムに共通して見られる特徴として、「アーティストと市民の共同作業によるプロジェクトであること」「参加者の作品に対する積極的なコミットを奨励しプロセスを重視すること」「参加者の違いを認め尊重した上での創作活動であること」が挙げられます。
 日本においては「アートプロジェクト」という呼称が好まれ、各地で地域密着型のアートが行われ成功を収めていますが、コミュニティアートが持つ「コミュニティの課題を解決する」という側面が回避されている傾向を感じ若干の危機感を覚えます。
 コミュニティアート・ふなばしでは、上記の中嶋夏をリーダーとする即興ダンスワークショップを、映像作家・大木裕之に撮影を依頼しドキュメンタリー作品を製作しました。
 ダンスワークショップの様子は、大木裕之とWSメンバーの交流や街の風景、ウリセンボーイの裸とMIXされ、聖と俗が入り組んだ作品「光の庭の子どもたち」(2002年)となりました。
 ちょっと間違うと"美談"として隔離されてしまう、障害児とのアート活動を、セクシャリティやセックスそのものと共に子どものような無邪気さで掴み差し出して見せる衝撃的な作品は、私たちに第2のスタンス「不安に苛まされる人には安心を、安心に篭る人には不安を、提供する」に目覚めさせました。

写真:光の庭の子どもたち
写真:光の庭の子どもたち


 日本においては、優れたコミュニティアートが現在展開されています。
 スタジオ解放区(沖縄市)による寂れたアーケード街を映像の街に変貌させる「映画時間〜コザ街歩き映画祭〜」、ひょうたんからKO-MA(近江八幡市)による撮影行為そのものが地域の伝統行事を再生させるドキュメンタリー映画「ほんがら」など、いずれもアートの魅力で人と人をつなげ、励まし、持てる可能性を花開かせ、ソーシャルキャピタルを増大させる優れた装置となっています。

 『クリエイティブ・クラスの世紀』リチャード・フロリダ著によれば、今後成長が期待できる職業は2つの分類しかなく、それは「専門的な思考」「複雑なコミュニケーション」を求められるものだとのことです。
 コミュニティアートの担い手の人物像はこの2つに合致します。高齢化が進み人口が減少する日本において、生産性を高め、人々の幸福の総量を増幅させるためにわれわれがなすべきことは非常にクリアになると言えるでしょう。

写真:映画時間
写真:映画時間

写真:ほんがら 写真:ほんがら


 日本では今まさに、労働者を低賃金で働かせ奴隷化させるような経済システム、子どもに貧弱な教育しか受けさせず成長を阻むかのような学校システム、人々を分断し庶民同士が憎しみ傷つけ合うのをけしかけるようなマスメディアが、私たちの生命を危機に追いやりつつあります。

 声を大にして言いたい。
「死にたくなければコミュニティアートをやりましょう!」と。
 コミュニティアートが人々の生命をつなぐ。未知の世界の扉を開く。排除から共創へ導く。
 そんな未来は、まさに今であると。

 「どうせ...」が口癖になってしまっているそこのあなた!
 未体験ゾーンを旅しましょう、一緒に!

(2008年2月20日)

今後の予定

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「マイノリティ・ラージ」
Deeder Zaman


ASIAN DUB FOUNDATIONの初代MCによるソロ・アルバム。
英国におけるインドやパキスタンを中心とした移民、エイジアン・ブリティッシュのコミュニティ発の刺激的なサウンドにしびれます。「少数派よ、力を持て」というタイトルに導かれ、政治的であることと芸術性が高い次元で相乗効果を成す作品、勇気が出ます。

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

柔らかなでカラフルな作品と、シャープなお話ぶりがかっこいい相田さん。
タイのアート事情のお話、いつも勉強になります。
今年は、タイの田舎で一緒に「ドリアン羊羹」を食べたいです。
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